第13話 聖域の秘密

「それで、これは何か詳しく教えてくれるのだよな。メルビー王女」

 テノサが村に帰ってきて、奴隷を全員参加させない状態で会議が始まった。

 話の第三者的な証言者として村長も参加して、後は俺、パムラ、メルビー、テノサ、ベリメ、アラエ、これだけである。

 ナエシエと、後何故か皆を襲っていた奴隷も参加できないことに抗議していたが一旦席を外してもらい話始めた。

 そして最初に出されたのは何か緑色の石のようなものだ。

「これは」

「『解読中』です」

「というと?」

「他の言葉で置き換えようとしたら例えば『聖域専用の入り口を守るための仕掛け』でしょうか」

 その言い方に少し話が分からなかった何人かが困惑したが、勇者は何となくわかったようである。

「つまり、俺とメルビーがあの聖域で守られている魔物に会っていたあの空間に入るための仕掛けって事か?」

「はい」

「じゃあやっぱり、二人は本当に神隠しにあっていたんか」

「そうなります」

「で、どういうことでしょうか。その空間に入るための仕掛けというのは」

 メルビーは少し悩むそぶりを見せた後、こう続けたという。

「あの空間、正確には聖域自体は『守護対象の生活する空間であり居住空間である場所』を指します。なので大前提として、皆さんが登っていた山やその周辺が聖域であるという情報自体デマという事になります」

「何やて」

「つまり、あの山に皆さんが立ち入れたのは『そもそも聖域に入っていないから』です。そして、目の前にあるこれこそ『その居住空間に入るための仕掛け』なのです」

「というと」

「これは聖域に入れないようにする仕掛け。そして『聖域の内部にいる存在が認めないと入れないようにする仕掛け』です。だからこそ、私と海良様は入れた」

「内部の存在が二人の入室のみ認めたから。だが、これは壊れているだろう」

 テノサの指摘に、メルビーは頷く。

「はい。壊れています。これすなわち、あと少しで『誰でも聖域に入れる可能性があった』事に他なりません」

「あの、それってそんなに困る事なんですか? 壊れても直せばいいと思いますが」

 パムラがそう質問すると、メルビーが答える。

「直せばいいのは確かにその通りです。ですが、直すまでに時間がかかる事。そして何より『聖域の守護対象を守る仕掛けが壊れている』などという情報が『帝国』にばれでもしたら」

「それは恐ろしいですね」

 アラエがそう低い声でつぶやく。

「あの、どういう事」

「帝国は、大昔最初の勇者を抱えて活躍させたと言われている国であると同時に百年戦争という大戦争において戦術級魔法という魔法を編み出した危険な国でもあります」

「戦術級魔法って」

「戦争の局面を動かす、それこそ負けるのが必定な状況さえひっくり返すほど強力な魔法などの総称だ。今は非常事態以外で使用を禁じられているのだが」

「作っただけでも確かに危険は危険だな」

 そう締めくくった。

「とにかく、そんな国ですから万が一情報が洩れるようなことがあれば、悪用される危険性さえ視野に入れないといけないのです」

 悪用される? あの状況を見せて来た存在を? そんなの駄目だろう。

「何が出来る」

そう端的に聞くと、メルビーも端的に答えてくれる。

「とりあえず『解読中』は直すように今技術者に連絡を入れております。早ければ1週間もすれば王城から返事が、2週間で技術者が村にやってきて作業に当たれますが」

「その間に帝国が来るかもしれないなら遅いな」

「はい、なのでそれまでに見つけられるなら見つける必要があります」

 帝国からの密偵を。

【中略】

 帝国からの密偵を見つける。あくまでもいればの話で、いないにこしたことはない。

 だが、メルビーは少なくともいると考えているようである。

「まず、今この部屋にいる人たちには全員にアリバイがあります。詳細は省きますが、オズド車の荷物が無くなったことを理由に全員が互いに分かる範囲しか移動しないで捜索していたことが功を奏しました。そして私と海良様は聖域に入っています」

 そして、彼女は続けてこう言った。

「ギルドが荷物を運ぶために雇った人たちに犯人がいるならどの道私達の落ち度にはなりません。ですが、これが私達の連れてきた奴隷の中に犯人がいるなら話が変わります」

「それが、奴隷に話を聞かせなかった理由」

「はい、恐らくナエシエとあの襲ってきた奴隷は違いますが」

「なんで?」

「ナエシエは陽動だとしたらもうどうしょうもないですが、パムラさん達によってアリバイが証明されている数少ない奴隷です。そしてもう一人、彼女は聖域の防衛魔法が正常に作動しました。それが理由です」

「防衛魔法?」

「聖域の守護獣に子孫永代引き継がれる魔法です。厳密には近くの聖域の守護に支障をきたす事象が発生した時、それを止める事が許された王族の様な生命以外を襲い続け排除しようとする使役魔法が」

「なんと恐ろしい魔法を」

「そこまでしないと、法律や戒律でそれさえ許さないといけないほどの事なのでご理解を。ただ、それが正常に作動して動いていたならばおそらく外部からの干渉は受けていないはずです。そんな事があれば自害するようにも組み込まれているので」

「徹底的だな」

「はい。なので犯人は」

 我々の言葉を話すことの出来る奴隷、身長の高い奴隷、身長の低い奴隷、髪の美しいが訛りのある奴隷、この中にいる。

【中略】

「ボス! 何で呼んでくれなかったんだ!」

 ナエシエが不満タラタラにそう言って怒ってくる。仕方がないんだと言おうとするが、それはもう一人の奴隷が無言の圧力をかけて封じてくる。

「守護番殿、私達は貴方のような方には絶対に服従するのだから話を聞いてくださっても良かったのですよ」

「待て待て、この間までそんな感じじゃなかっただろ。何で突然そんな低姿勢なんだ」

「守護番殿となれば十把一絡げな有象無象とは違うのですから当然です」

「ねえ、この人怖いよ。なんか人っぽくない」

 パムラはこう形容したが、実際問題子孫永代「聖域の守護獣として生きるはずだった人型の生命体」にとって他者というのはそういう存在だし、偉い存在か否かの基準もそういうところになるのだろう。

「一応確認するが、二人共聖域に行こうとした山では何していたんだ。休憩し始めた辺りからでいい」

 これにまずナエシエが答える。

「ボスがおしっこしているからしばらく見ていたんだけど、瞬きしたらいなくなっていたから戻って皆に報告したんだ。それからみんなで少し探していたんだけれど、いないからおしっこ辿って探せないか必死だったけど無理で」

 この辺りで一度勇者は話を止めたという。そして、この話を聞くのを一度止めてもう一人の奴隷の話を聞いたという。

「えっと、じゃあ今更だけど名前から」

「はい。私の識別番号は『ムゲオスメムユイグス』……」

「待て待て待て待て、え? 名前? それ名前?  でも番号って」

「えっと、守護番殿やパムラは名前を『他者と違う個体だと識別する』ために使っているのですよね? 我々『解読中』が同じ意図で使うものは『識別番号』なので名乗ったのですが」

「ねえ怖いよ! 根本的に何かが違う!」

 勇者もこの価値観に引いていたと言われている。だが、話を聞かないことには状況は変わらないので続きを促すのだった。

「まず、私は森の中で食事を取ろうとしました。ですが、何か聞き覚えのない音が聞こえたのでそちらに移動しようとしました。危険な何かだとしたら事前に排除するべきなので。そして音のする方向に向かっていたのですが、その方向の更に先で別の音が聞こえました。恐らくあれは破砕音だったので『解読中』の壊されたことだと思われます。問題は、その時に防衛魔法により私は意識を失い近くの魔法にかかっていない生命体を襲うように仕向けられました」

「つまり、そこまでしか分からないと」

「はい、犯人は特定できず申し訳ありません」

「いや、いいよ」

 とりあえず、何かあったのは間違いない。

「ねえ、二人共何か凄い海良に従っているみたいだけれど二人としては大丈夫なの? やり過ぎたりしないよね」

「私はそんな事しないぞ。ボスのためならどんなことだってするくらいだ」

「同じく。どんな命令でも従う程度です」

「それ駄目なやつだろ。例えば『今ここで死ね』とか……」

「『グッ、カハッ』」

「『解読中』」

「バカバカバカ! 直ぐ首絞めるの止めろ!」

「変な魔法唱え始めないで! それ明らかに唱えちゃいけない奴でしょ!」

 すぐさま二人の行動をパムラと二人がかりで勇者は止めさせて事なきを得るのだった。因みに変な魔法の呪文に関してだが、本来なら明確な敵対存在などに囚われた際に使用する「精神体を崩壊させて、構成組織を内側から破裂させ、残存魔素も自然の中に放出する魔法」とのことだ。

 要するに魂を壊して体も壊す魔法とのこと。恐ろしい話である。

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