第14話 奴隷の証言

「私に話を聞くか……いいぜ、面白いじゃねえか」

 テノサとパムラが話を聞いた奴隷。彼女は随分と粗暴な言葉で話しかけてくる。

「何か印象が違うな。宴の時は丁寧な話し方をしていたように感じたのだが」

 宴の席で祈りの言葉をするように促していた同じ人物の姿と比較してテノサが話を聞いた。

「あー? あれは昔の家での話し方をしていただけだよ。親にはうざい程に口調とかを正されたが、意外と騙される奴が多くって使いやすいからよ」

「うわぁ」

「で、一体何をしているんだ?」

 彼女にあてがわれた部屋。そこにある沢山の透明な容器や沢山の金属製の器具に、山のように積みあがった薬草やら鉱石、それらが所狭しとばかりにあるのである。

「何って、実験だよ」

「実験?」

「これ? お前達だろう?」

 そう言って見せて来た一枚の紙、そこにあるのは海良が魔法学校の生徒に対して授業をする海良達の様子である。

「私もこれを試したが凄いなって思った。正直昔から魔法は何かが変だなと思っていたけれど、それを解き明かすために自然界の法則について調べていたがこんな簡単なことで解き明かせるなんてって感心したわけだ」

「それがどうした」

「だから私は従うことにした。私の発明品とかの価値もあの男なら分かるんじゃないかなって思ってさ。このイワミミ様がな」

 そう言って、少女は机の陰にあるハンマーを持ち出した。

「ほら、そっちの方が持て」

「え? 私?」

「そっちの魔法使いは明らかに魔法学校の奴だからこういう武器は使わないだろう」

 結果論として、これがパムラの愛用の武器との出会いだったが当人は当時訝し気に持ったのだという。

「へえ、私でも持てるくらい軽いね」

「いや、それ重いはずなんだが。確かに両手持ちだが上から打ち下ろすんじゃなくって下から振り上げて吹き飛ばすための武器だからさ」

 そう説明するぐらい、普通の村娘が持つには重いハンマーのはずのそれを難なく持ち上げるパムラである。

「なあ、この魔素を感じる何かはなんだ?」

「それか? それが一番の発明で、通称魔素カートリッジだ」

「魔素カートリッジ?」

「そいつを使うと武器に魔素を流すことが出来て、魔法の属性を魔法が使えない、もしくは才能に恵まれていない奴でも疑似的に使えるようになる発明だ」

「何? それってつまり魔素を貯めているのか?」

「そうだが」

 この時テノサはどうやってやっているのか頭を痛めたようだが、少なくともこんなことが出来ること自体がすさまじいぐらいに異色で画期的な発明であることは自明であろう。目に見えない魔素、魔法という奇跡を起こす魔素、それを貯めるなど何と形容すればいいのか。

「後はこれだな」

「何なんだ次は」

「えっと、昔の時代の言葉で『ボラーン』って言うのか?」

「こちら全てマニュエチ様が作られた服ですか?」

「は、はい。この村はヌムートの毛が名産とのことで、布も作っているようでしたので……」

 部屋に飾られた服の山。それらを眺めてアラエは感心しきりだった。身長の高い奴隷は最初挙動不審な様子であったが、服の話になると少しだけ話始めた。

 パムラはそうやって奴隷に寄り添うアラエの姿にこそ感心していた。

「では、マニュエチ様は服を作るのが昔から得意だったのでしょうか」

「えっと、私村の中では病弱でしたし身長も子供みたいに低くて……だから服作るくらいしか能がなくって」

 パムラもアラエも、何なら異性の海良も超えるほどの大きな身長で言われると正直びっくりするがそう言う価値観なのだろう。

「そんなに落ち込むことないと思いますよ。私より身長高いですから大人に見えますって」

「でも、私迷子にもなりやすいし、おっぱいも小さいし」

 普通に大きい胸をそう言われてパムラもアラエも怒りそうになったが、ぐっとこらえて話をしたという。

「因みに、あなたは寒い国から来たからですか?」

「え? どうして分かったんですか」

「それは」

 大きな獣の分厚い毛皮の服の内側に、胸と股しか隠していない服を着ているへんてこな様相が原因だが、これは本当にどう伝えるべきか悩んだという。

「今は話しかけないでくれ。作業中だ」

 そう言って、身長の低い奴隷は聞く耳持たずといった様子だ。

「せめてお名前だけでも良いでしょうか? 聞かないと将来的に仲良くなるのに時間がかかりそうですし」

「……トプシュワ」

 彼女はそれだけ名乗るともう机の上の何か石に向き合ってしまう。

「何か凄い色々な道具があるね」

「金細工で使う道具類と、鍛冶で使う道具のようですね」

「とうしろうにしては分かるんだな」

「一応質の高い物を見て育ってきたつもり……」

「触るな!」

 少女は突然、メルビーが触ろうとしたそれに触れないようにするためか大きな声を出す。

「それに触るな。爆発しても知らないぞ」

「あら、そうですか。申し訳ありません」

「全く」

 そう言って少女は作業に戻るのだった。

「えっと、何作っているんですか」

「は? 村娘が知ってどうする?」

「こういうの見るのは珍しいので。教えてもらえないかなって」

「お前なら何十年かかるか分からん」

「え、でも」

「ほら、作業の邪魔だ」

「パムラさん帰りましょう」

「はーい」

 そう言って彼女たちは部屋を後にする。

「あんた、これ一体どこで手に入れたんや」

「それか? それはまだ私が騎士の家にいた時に自分のお小遣いで作った剣ある」

「これあんたがどう思っているか知らないが材質は間違いなく一級品使っているから」

「高く売れるね⁉」

「売ったらあかんわ。こんな業物そうやすやすと見つかるか!」

 この独特の訛りのある少女、どうやら元貴族のようだが何なのだろう。色々な価値観が微妙になんか変なのである。

「で、じゃあこれはなんや」

「それある? なんか吉兆の宝石として高いみたいだけれど安く売ってくれたね」

「絶対その辺の石やからパチモンやで」

「なに⁉」

 価値観が、物の価値観がなんか違う。こう、子供独特の物の価値を正しく知っていないみたいな。

「あんた何処の騎士様の出身や」

「『解読中』ね」

「はぁ⁉ あそこの領地は帝国に滅茶苦茶近い辺境やんけ! いや! まさかあんた辺境伯の娘か⁉」

「そうなるね」

「じゃあ、名前も苗字あるんか」

「名前? エティエト・ヒカーリェね」

「はー」

 この世界では辺境伯は様々な人がいる。正直王族の臣下として雇うには問題があるがそれなりに才能がある貴族、もしくは本当にいざという時の防衛線を任せるに足る騎士、それらのような優秀な人がなるのが辺境伯である。

 パムラに近づこうとしたが逮捕された海良の前の領主もいわゆる辺境伯であり、偽造通貨の可能性に気付く程度には才能に優れていたのだから任されていたのである。村人からは嫌われていたが。

「何があったら奴隷なんかになるんや。あんたみたいなのが」

「何したあるか……あ、そうね」

 彼女は次にこう語った。

「帝国の密偵に疑われたね」

「はぁ?」

「何か、家の預かる王国軍の配置の書類を高く買うって人が話しかけてきたよ。そんなもの何に役立つのか分からないから引き受けたね。そしたら逆に王国軍に捕まって奴隷になったある」

「……」

「……」

「その買うって言った奴は帝国の密偵だったから処刑されたけれど、私は騎士階級だったから命までは奪われなかったね。でも奴隷なって不満ある」

「ねえ、ベリメちゃん。この人大丈夫だよね」

「……あかんかもしれん」

 彼女はそう言ったという。

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