第11話 メルビーが来る
「では、食事も終わったしデブローラの肉は調理して保存できるようにしたし向かうぞ」
「向かうって、冒険者統治機構に?」
だいぶ前から決まっていた予定について、朝食が終わってもう昼になるというところで話が決まる。それを奴隷たち全員に伝える。
「冒険者になるのか?」
そうナエシエが質問するが、俺は否定する。
「いや、勇者になる。とりあえず魔法学校でとある話をしたら、流れで勇者に推薦されてな」
「『解読中』」
「勇者って言ってね、冒険者よりもすごい人に海良を選ばないかって話があって今進めているの」
「『解読中』」
「そう、皆にはそのために協力して欲しいなって」
「難しいのではないか」
だが、そこで一人の奴隷が口を挟む。昨日も一人で先に帰ってしまった奴隷である。
「ねえ、どういう事それ。昨日も反抗的だったし」
「はぁ。私は弓を扱えるから良いが、お前含めて戦えない人もいるのに冒険者チームも作れるのか? 全員の武器に防具はどうする? 薬や食料は? そもそも今だって私を含めて十二人のパーティー。小隊にしたら指揮官は3人必要だぞ。それだけの情報を……」
「いや、むしろそのために君を採用したんだ」
「はっ?」
そこで海良が口を挟む。
「正直今言った情報はすべて正しい。俺含めて十二人の冒険者を動かすなんて俺には無理。だが、副官を置くことでそれを補おうと考えている」
「なるほどな」
だが、ここで待ったをかけた人がいる。
「あの、海良様。ここには『11人しかいない』のですが」
「え?」
慌てて勇者は人数を数える。勇者、パムラ、テノサ、アラエ、ベリメ、そしてナエシエ含めて奴隷が六人。
「なあ、十二人目って誰だ?」
「はぁ? あの王女様はお前の仲間じゃないのか? 魔力的な繋がりは太くあるぞ」
「あー! まさかメルビーも含めていたんか! 無理無理無理! いくら王女様かて冒険になんか連れて行けへんて」
「あら、つれないですね」
だが、ここで想定外の人が話に入って来る。
「メルビー……王女」
「会いたかったです。海良」
そう言うと、王女様は駆け寄って海良の体に抱き着いたという。
「ちょっと? 何故ここにいるのですか?」
「少しくらいなら私も魔法が使えますし、冒険者統治機構の試験にお手伝いが出来るのではと思いまして」
「だからって、裁判所は」
「私以外の裁判官を育てるため、または私の見識を深めるために必要だって言って部下に任せて来ました」
可哀そうに。
「ああ、お手紙も一向に返って来ませんでしたからずっと待ち焦がれておりました。あれだけ私の父上の治める国ために法整備を手伝ってくださった方のために我々にできることでお返しをしようと思っておりましたのに」
「ちょっと待ちなさい!」
そこでパムラが口を挟む。
「いくら王女様だからって、私たちの領主様になれなれしくは」
「良いじゃないですか、数ヶ月ぶりの逢瀬なのですから」
「どちらにしても、王女様を前面に出した冒険者部隊には入れられない。そこは許してくれよ」
「ちょっとテノサさん!」
「仕方ないだろう。王女の話を断って王様を怒らせたら全員処刑される」
「ですが、冒険で万が一死ぬ方が危険なのでは」
「それは私たちが頑張るしかない」
「ですが、事前連絡もなしに来られるなど」
「ああ、それならこちらに」
そう言って渡した物。それは……。
「王族印の手紙」
「お恥ずかしい話ですが、一番大事な私が向かうという手紙がトラブルで私と一緒に届いたようです」
彼女はそう言っているが、一部を除いて皆震えていたという。
【中略】
「勇者候補の試験、ですね。テノサ」
「はい」
「で、メルビー様がいらっしゃるとは聞いていないのですが」
「それは私達も悪いと思っている。だが異常事態があったんだ、許してくれ」
冒険者統治機構の支部長と魔法学校の代表としてテノサが話し合っている。内容は今回の試験内容だったのだが、難航している様である。
「まず、十二人の試験だと小隊規模の試験だけでなく大隊規模の試験にも合格していただく必要があります」
「ああ、だろうな」
「ですが……これは本当に盗んだものではないのですね」
そう言って「ナエシエが倒したデブローラの牙」を見る。
「逆に盗める奴がいるなら、既に勇者並みの実力者だろうそんな奴」
「だから聞いているのです。闇市場などで仕入れたのではないですよねと」
「確かにこれを一人で倒したなんておかしいと思う。だが状況証拠からしてそれしかないんだ、許してくれ」
「そう言われましても」
正直言いたいことは分かるのだろう。試験で倒すべきだったから「わざと討伐しないでおいた魔物がいなくなったと思ったら、解体されて帰ってきた」なんて信じられるはずがない。しかもナエシエ一人で倒したなど。
「ボス、ごめん」
彼女は彼女なりの言葉でこう謝りっぱなしだったようである。
「少々よろしいでしょうか?」
そこで、メルビーが話に入って来る。
「何でしょうか」
「試験の代案ですが、私に一つ考えがあるのですがそれでは駄目でしょうか」
「と、言いますと」
「聖域への供物の運搬です」
「!」
「それは」
「この近くにも、というより魔法学校と冒険者統治機構がある時点で有事の際に直ぐ駆け付けられるようにしているって事ですよね、お爺様がそう決めたはずですし。それに、時期的にはもうそろそろ供物の運搬と儀式も終わっていても良い時期のはずですが」
その話に支部長の男性は渋い顔をしたが……こういった。
「仕方ないでしょう。その運搬、皆様に依頼します。また、それを試験内容にいたします」
「! 良いんですか」
「ただし、口外厳禁です。帰れなくなる冒険者が出るかもしれないので」
「はい」
そんな感じで王女様が入ったおかげで一先ず話はまとまり、全員で準備をして聖域に向かう事になった。そのオズド車の中で、ベリメが注意したという。
「あのな、海良。聖域は私達『解読中』でも好き好んで行くような場所やないんや」
「なに」
「基本的に聖域は何か強い魔物や知能の高い魔物の住処。下手に刺激したら大災害が起きかねないから監視したり、供物をささげて儀式をするような場所。そんな王様たちが管理する地域の総称や」
「なあ、それってまずいんじゃ」
「そうや、今は車の中で皆呑気にしているが、はっきり言って王女様がなんでこんな場所の名前を出したのか分からへん」
気を付けるんや。そう言って彼女は注意して、どんどん彼らは山の中に登っていく。
「休憩、今の内に休め」
オズド車を止めて各々が荷物を開いて食事をしようとする中、海良はふと尿意に襲われて森の中に入っていく。そして尿をして帰ってきたとき、彼は異変に気がついた。
「どこだ、ここ?」
知らない湖が広がっていたという。ここからは海良の伝聞のためどこまで記載してよいか分からないが残そうと思う。
なにせどうやら彼は神隠しにあったのだから。
「興味深いな。王族が勇者候補を連れて来るなど」
「え」
そして話を聞くにこの話しかけた女性こそ海良と王族、つまりメルビーを自分の領域に誘った魔物だろう。
「さて、話そうじゃないか。楽しませてくれよ、小僧」
この時海良は知る由もないが、王族が招かれないと絶対に供物は届けられないはずなのである。何せ聖域への供物を届けるのは本来王族の仕事であるから。
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