第10話 奴隷たちへの宴

 そんなことがあって、まずは海良の屋敷に戻って選ばれた奴隷たちの歓迎の宴が開かれるのだった。

「じゃあ、まずはだが新しい村の住人の歓迎を……」

『ガツガツ』

『ムシャムシャ』

『ゴクゴク』

『バクバク』

「……」

「……」

 奴隷として購入した6人の内、4人は村長の掛け声など無視して一心不乱に目の前に用意された食事を食べていた。一人はそれを唾棄するかのように見ながら椅子に座って、もう一人は完全に無視を決めている。

 だが、これも仕方が無いのだろう。

「あの、一旦感謝の祈りをするので食べるのを止めてくださいませんか」

「『解読中』メランテ? 『解読中』」

「『解読中』」

 そもそも会話が出来ないのだ。種族や出身国が自分には分からないのだが違うようで、それゆえに言葉の訛りがあったりそもそも言葉が違ったり、とにかく会話が成り立たない。

「皆さんの国にもありませんか? 食事の前に挨拶する言葉など」

「ああ、あるな。だが奴隷になった今ではやる事は無いな」

「『解読中』」

「『解読中』」

「ほら、始めますわよ」

そんな感じでグダグダだが、まずは祈りの言葉を捧げてから宴は始まる。

「それじゃあ、自己紹介しましょうか」

 この時パムラは正直他の人と違い誰が周囲と会話が出来ない人か、出来る人か分からなかったようである。だからこそ、彼女は全員と話を出来る人だと思った前提で出来ない人に話しかけたようである。よって、以下は多少ごちゃごちゃだがあたかも全員が会話出来ている風に改変した内容であることを留意して読んでもらいたい。

「そうですね、じゃあ貴方から」

「あ? 俺か?」

 自分を指す呼称がこの時男性の一人称を使ったようであり、最初何人かは女じゃなかったのか、聞いた話は嘘だったのか疑ったようである。

しかし、この後の名乗りで納得した。

「私は名前無いよ」

「名前がない」

「私(本来は女性専用の呼称の様である)はスラム生まれで名前がないんだ」

「海良、呼び方も目茶苦茶だし名前無いって。どうしたら良いの」

 パムラが困惑して話を振ると、悩んだ末に海良はこう言った。

「ナエシエ」

「ん」

「語感だけで選んだけれど、良い名前じゃ」

「いや海良、ナエシエって雷と愛を合わせたってこと」

 この時、勇者は何を言っているのか直ぐには理解できなかったが、理解したときから慌てていたのだろうがそれより周りの流れが先だった。

「いつの間にそんな意味ありげな名前を思い浮かぶようになられたのですか」

「奴隷に名前を与えるだけでもすごい話なのに、それがそんな名前とは」

「違う! 本当にただ岩砕いたときの雷の魔法と語感を考えただけで」

「良いじゃないか。それこそまさしく、シエだろ?」

「止めてくれテノサ!」

 そんな中でも、一人きょとんとした顔の奴隷は少し思いふける様子だったという。

「ナエシエ。私の名前」

 初めての名前というのは嬉しいのか、まだ嬉しさを噛み締めきれていないのか、何か不思議な様子である。

「くだらない」

 だが、一人明確にそれに唾を吐く人がいる。さっきの唾棄した様子で見ていた奴隷だ。

「これだけ奴隷を集めてどんな変態かと思ったが、奴隷の食事や生活を保障するのも主の責務ではないのか。その程度も出来ないなら従う意味がないな」

「ちょっと! そんな言い方!」

「仕方ない、『解読中』の種族はそもそも人間嫌いで有名だ」

「ですが」

「それに、こんな場所では飯を食べられん。私は帰るぞ」

 そう言って、名前を聞く前に奴隷はどこかに行ってしまう。

『解読中』

『解読中』

『解読中』

「……大変な人の奴隷になっちゃったな、食べよう」

 他の四人の奴隷も落ち着きがない様子であるが食事をしている。

「はあ」

 その状況に海良はため息を吐くのだった。

【中略】

「ナエシエがいない⁉」

 次の日、早速問題が発生して奴隷や村人も招集していなくなった奴隷を探す事になった。なのだが、その時間が悪かった。

「まだご飯を作るより早い時間だよ。みんな起きてなんかいないって」

「だよな、目撃者がいない」

 そう、奴隷の目撃情報が一人もいないのである。太陽も昇りきっていない早朝。こんな時間に何処に行ったのかなんて知っている人は何処にもいなかった。門だって閉まっているため村の中ではないかと全員で探しているが。

「どうしよう」

「そう言われたって」

「『解読中』」

「え! 見つかった!」

「なに!」

 村人の一人がパムラに話しかけると、驚いた様子でパムラは話を聞いている。だが、少しずつ顔を困らせてもいったようである。

「え? 大きなデプローラを運んできた? どういう事」

「デブローラって何?」

「えっとね、海良。デプローラはプローラっていう動物の大きい奴なんだけれど、そんなの私達なら冒険者さんに討伐を依頼するような魔物だしこの辺にいるなんて聞かない魔物なんだよ」

「なるほど、とりあえず案内してもらおう」

 そう言って、海良達が村の門に向かうとそこには大きな動物を解体しているナエシエの姿があった。体長は勇者の3倍程度。鋭い牙が二本生えた大きな個体である。

「ボス! どうだ! 私が狩ったんだぞ!」

 海良達が来たのに気が付くとナエシエは嬉しそうに尻尾を振って下りてくる。

「なあ、なにこれ」

「これか! 向こうの……いや向こうか? とにかく、森の中にいたから狩って来た! これで朝ごはんには困らないな!」

「あ、朝ごはん?」

「何だ? ボスのために朝ごはん用意するのは当然だろう?」

「なるほどな、それが『解読中』の文化か」

 そこでテノサが話に入って来る。

「ボスや家族のために狩りに行ってご飯を用意する。そのために日の昇る前に動き始めた。結果として誰にも見られることもなかった」

「な、なんだそりゃあ」

「それより昨日の飯見て思ったが肉少ないなって思ったから狩って来たんだ。どうだ、偉いだろう」

 そう言って彼女は喜びを露わにしているが、村人たちは複雑そうな顔をしている。何せ魔物の肉を朝ごはんにしようとしているが、本来なら自分達に危害を加えるようなよく分かっていない存在を食べるなんて。それは文化的に嫌悪するのは普通であろう。

「危ないことをするな!」

「痛い! なんでだボス! 理由もなく殴るなんてひどいぞ!」

彼女は反論した。そして彼女は怒って噛みついたがこれは大変だと海良は思ったという。文化の違う奴隷を持つという事の大変さを。

「上手い」

「美味しい」

「ふふん、だろう」

 ちなみにデブローラの肉は焼いて食べたところ普通に好評だったという。

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