第9話 奴隷を買う覚悟

「どう動いても奴隷を買うのが一番やな」

「あまり魔法学校に昔在籍していた身としてはやって欲しくないが、仕方あるまいか」

「出自は様々あるとは言えど、本当に受け入れるのですか?」

 それは村の今後について話していた会議の際である。ようやくできた領主の館でもある海良の家、そこでベリメ、テノサ、アラエが話していた。そこにこの話で一番重要な人が戻って来る。

「おはよう、朝からどうしたんだ」

「海良、おはよう」

「おはようさん。挨拶上手くなってきたな」

「……」

「頑張ったって」

 翻訳をしたパムラがそう伝える。最近海良は少しずつだが言葉を覚えて、簡単な挨拶ぐらいなら出来るようになってきたようである。それでも、時々伝えたいことを伝えるためにパムラの手伝いは欠かせないが、頑張っているようだ。

「それで、何の話をしているんだ」

「まずはこれを渡さないとな」

「これは?」

 テノサが一枚の封筒を手渡す。既に中身はテノサ達によって確認済みのようだ。

「俺に断りもなく開けたのか?」

「重要な相手に送る手紙程まずは他の者が確認するのは普通だろう? 万が一即死魔法が仕掛けられていたらどうするんだ」

「そっか、そんなことも考えないといけないのか」

「お疲れ様です」

 そう言ってオゴッティルムさん、村長がお茶を出す。お菓子も運ばれると嬉しそうに女の子たちは手を伸ばす。そして話始める。

「まずは村のために租税の改正、また各種働きかけや労働力の確保。本当に感謝いたします」

「大したことはしていない、結局村にいた男の人達を連れ戻して、家づくりに尽力してもらっているだけだったし、今も山の開拓のために働いてもらっているだけだからな」

「いえ、元々前の領主様は労働力を割いて山を開拓して何も成果が得られないのを嫌うお方でした。なので山の開拓のために動いてくださるのはありがたいのです」

「鉱山が出てくれば凄い利益が見込めるが、でなければ無駄に出費が出るだけと考えるとあれですが……まあ自分には考えがあっての事なので」

 そう言いながら、窓の外に見えるとてもとても広い土地を眺めるのだった。

「ところで、お菓子の準備をしている間奴隷のお話をしておられていましたがお聞きしても」

「どういうことだ」

「ああ、海良の掲げる目標のための人材調達どうするかって話したら口を揃えて奴隷以外の考えが出なかっただけや」

「私はどちらかと反対寄りですが、海良様のためなら」

「詳しいことを聞いても良いか」

 そう聞くと、説明が一番うまいであろうテノサに視線が向く。よって、テノサが話始める。

「まずだが、海良の考えをもし実現できればそれは凄い将来的な発展をもたらすと思う。だが同時に、そんなことを許してくれる人材が集まるのかが一番の問題だ」

「やっぱり人は集まらないか?」

「水面下でメルビー王女様から手紙が来ていたが、結果は芳しくないようやな。他の王女様や冒険好きのお兄様に伝手をあたってもらったようだがなしの礫みたいやな」

「俺手紙が来ているなんて知らないんだが」

「あんな露骨に王女様が媚び売っとる手紙見せる訳ないやろ」

「え?」

「何でもあらへん」

 この時代の文化的なことを考えると、王女が異性に手紙を送るなど職務を除けば、それこそ他の領主の計画の目途も立っているか怪しい計画に協力するなど普通に考えてよっぽどの事情があると思われるのだが、あいにくこの辺の資料が少ないため事情は分からない。

 だが、恐らく何か込み入った手紙を送っていたからこそ先に確認をしたベリメ達から本人にわたることが無かったのではないかと思われている。

 それは良いとして、とにかく計画は難しかったようだ。

「そこで私の様な、事情がある人、例えば奴隷から優秀な人を集うのはどうかという事です」

 そう言ったのはアラエだ。

「私は今普通の信者ですが、元は白愛教の聖女と呼ばれる人を導く立場としていました。そのように何か事情があって、昔は位の高い階級にいましたが奴隷にまで落ちた人もいるのです。ですから、そのような人を人材として迎え入れるのはどうかという話だったのです」

「アラエは奴隷じゃないよな」

「はい。つまり私以上に何か罪深いことをしたか事情を持った人でないと求めるほどに優秀な人は奴隷になりえません」

 その言葉に全員の言葉が詰まる。天動説と地動説を間違えて、そして誤った裁判で人を罰してさえいた聖女でもならない程に階級を落とした者たち。本当に迎え入れて大丈夫なのか?

「でも、やるしかないよな」

 そう言うと、全員の顔には覚悟が決まり準備を始めた。

【中略】

「ここが、うちが探しに探した中でも『訳あり』の奴隷ばっかり取引しているからピンからキリまで揃っている奴隷斡旋所や」

 ベリメがそう言う。

「来ちまったな」

「まあ行こう。まずは何があるか見てから話そう」

 テノサに促されて海良は奴隷斡旋所の門をくぐる。中には怪しい風貌の戦士や気色の悪い笑みを浮かべた魔法使い、全身をローブで覆った変な人まで沢山いる。

 そんな人たちの様々な視線を無視して、テノサは受付に向かう。

「いらっしゃいませ、本日はどのよう……ま、魔法学校⁉ どうして⁉」

「私の見つけた勇者候補が奴隷を探している。誰でも良い。何か芸に秀でた者を見繕ってくれ」

「そ、それは性奴隷という意味で」

「違う、魔法や学力、他にも何か能力で秀でた者を集めたい」

「か、館長をお呼びしてきます」

 そんな会話があってしばらくして、館長に専門の奴隷調教師を引き連れて奴隷を確認する屋内広場まで連れていかれた。今回は奴隷オークションでしか使われない様な大きな場所を使うほど沢山の奴隷が集められた。

「出来るだけご希望に添えるように、魔法や剣術、武術、他にも色々な特技を持った奴隷を連れて来ましたが……」

 魔法学校と奴隷斡旋所は長い因縁の歴史があるだけに、館長は低姿勢で対応していた。

「どうするの、海良?」

「……あまり試したくはないが、一人ずつ見てみるか。パムラ、一人ずつ特技は何か聞いてくれ」

「特技? 分かった」

 そう言って、パムラが確認をする。

「な⁉ 私奴隷じゃない! そんなことしてない! 海良はそこらへんきっと優しい人です! 勝手な偏見で語るな!」

 何か奴隷と話して怒り始めた。というかパムラがあんな口調になるなど一体何があったのかと海良は他の人に聞いたようである。答えは返ってこなかったようだが。だが、どうにか話すことが出来たようである。

「岩も砕くような怪力が自慢だって」

「よし、じゃあ一時的に鎖を外して動けるようにしてくれ」

「はあ⁉ 万が一逃げたらどうするんや⁉」

「奴隷は奴隷紋があると言っても、そんなことは」

「服従」

 その一言だけ。それだけで全てのこの場所にいた人達が動けなくなった。

「俺の魔法って便利だね、一言いうだけでこれだけの人数でも従えることが出来る」

 その言葉に、魔法使いとしての理論を知っている人も、戦闘で培った経験則から考えた人も、そうでない者も本能的にこの人には逆らったら大変なことになると悟ったようだ。

 だからこそ、さっきまでパムラにいろいろ言っていたらしい黒髪の獣人の奴隷も静かになった。

「デネガジ」

 そう海良が呟くと、大きな岩が出現する。当然さっきと同じ具現化の魔法によるものである。

「じゃあこの岩を砕くようにつた……」

 そう言い切る前に、女奴隷は岩を砕いて見せた。そして、嬉しそうな顔を見せるや否や海良めがけて助走をつけて駆け出して……。

「ふん!」

「あがあああああああああ、邪魔スンナ!」

 無理やり調教師によって抑えられる。調教師の魔法によって女は眠ると、そのまま会場から退場させられる。

「良し、次行ってみようか」

 客が襲われなくて良かったと思う館長の気持ちなどどこ吹く風、海良自身は嬉しそうに奴隷たちの特技を試させるのだった。

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