第8話 暗殺者は堕ちる

「なんでや、何で来た! あんたは分かっているのか! 自分殺そうとしたんやで! なんで助けにこれんねん!」

 彼女の中では理解できない感情が渦巻いていた。今まで殺しに失敗したことなどなかった彼女にとって、きっとこの物語を書く上で書ききれなかった間に起きた村での出来事は眩しく、美しく、だからこそ初めて勇者でないとはいえ勇者の可能性がある人を殺すのを躊躇したのは汚点であっただろう。

 勇者を殺すことに意味があった『解読中』がそれを失敗したのだから。

「だって、君じゃないと駄目なんだもん」

「!」

 ベリメは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。そしてそれを『解読中』の少女たちは。

「醜い」

「面汚し」

「何て顔だ」

 軽蔑した。

「もういい、『解読中』であることを忘れて商人としての顔にも、女の顔にも染まりすぎた女など私が」

「『停止』」

「!」

「あ? もしかして喋ることも出来なくなるの? 心臓はでも生きている以上動いていると思うし、結構コントロールも出来るようになってきたんじゃないかな」

「ようやく物にしたか、魔法学園での魔法の特訓」

 

「さて、海良君には君自身の魔法について知ってもらう必要がある」

 テノサの講義が始まった。受講生は海良とパムラの二人。

「まずだが、魔法は大きく分けて二つの分類が今回の場合覚えてもらわないと困るものがある。使用者が魔法を使う意思を見せた時だけ発動する物と、意思とは別に発動するものだ。後者は『解読中』とも呼ばれる物もあるが、これは厳密には体内の魔素だけでは常時発動できることを説明できないからきっと何か秘密があると言われている」

 それを、どうにか必死に海良に伝える人と、興味深そうに聞く二人の姿があったそうである。

「まず、パムラのそれは間違いなく『解読中』だろう。そして、海良のは前者。間違いなく意思によって発動するものだ。しかも明確に言葉も必要な種類のな」

「あの、言葉も必要ってどういうことですか」

「ああ、パムラと本人が気付いていないのは仕方ないかもしれないが魔法を発動するときだけ私には『海良が普段使う言葉とは違う聞き慣れた言葉』に聞こえている。恐らく実際に『普通の言葉で発音している』のだろう」

「海良、そうなの」

 パムラはそう聞いたようだが、海良は否定したようである。しかし、話しはそこで終わらない。いくつかの実験をした結果、確かに海良は魔法を発動している時だけ『海良の言葉とは違う言葉を話している』という結果になった。

 しかも、『パムラの言葉を聞いた時にだけ使えるようになる』のである。

「恐らく、発音を無意識に覚えた事なんかが重要という事なのだろうな」

 海良は困惑した。要するにパムラが話した単語なら理論上どんな言葉でも魔法として使うことが出来るのである。物を言えば出現するし、炎と言えば炎を出せる。

「そこでだ、ちょっと他にも試したいことがある」

 そして検証したのが、動作や不定形の物を魔法として使うことが出来るのかである。

「さて、どうしようかな」

 死んだ女傑を囲んで、海良達は困惑していた。他の少女たちは生きている。だが、個の女傑だけは最後まで海良を殺そうとした。だからこそ心臓を停止させた。他にも体を停止させることで生きられなくしたのだという。

「勇者殺しの一族。表沙汰になっていないだけで結構噂はあったんだ。それがこうしてあっさり倒された。勇者の挑戦権を得るには十分な功績だと思うが」

「大丈夫です。殺人として……海良?」

「人殺しちまった……」

 ここで、今更だが海良は気持ちが悪くなったと言い出した。人を殺してしまったことが罪悪感として襲ってきたのだという。

「ふ、ふふ。ははは」

 それを聞いて、ベリメは笑い出した。

「あんたは本当に優しいんやな。最後まで殺そうという気持ちを隠そうともしなかった女にもそんなこと言えるなんて」

「だからって」

「決めた。あんたについていく。だから立派な商人にさせてくれや、ダーリン」

「は、はああああああああ!?」

 村娘の声が響くのだった。

 それからというもの、ベリメは大層よく働いたという。

「この割合はあかん、これも再調査や。この土器の材料からして値段が釣り上げられすぎとる」

「ベリメ、何か俺が指示したことだがいくら何でもやりすぎじゃ」

「自由にしてええんやろ。やったら、自分は商人としての知識で貢献したるから安心してや」

「……はい」

 彼女の商品や商売の知識、それは租税の調査において大変役に立ったようである。素材の質や値段を知っているからこそ、なにか違和感があればアドバイスできる。それは海良には無い強みだった。一方で困ったこともあった。

「商人としての働くのは良いのか」

「ああ、今はええ。店は将来的には確実に用意してくれるんやろ。だったら資金集めるのに協力したほうが早いと決めたんや」

 そう、何とこの時点で海良達はベリメに店を提供することを確約していたのである。だからこそ、彼女は少々の下心があるとは言っても、この村で働く方向に舵を切ったのである。だが、まだこの時点で彼女が把握していないことがあった。そしてそれは、商人としては確かにどうして知らないのか不思議だが、将来的に纏まるからだとでも思っていたからなのかもしれない。そう、資金調達の話である。店を開くにも当然資金は必要だ、だが今は租税調査の件だってあってまだ纏まっていないだろうって事は予想するに難しくないはず、なのだが。

「あ、いや、実は店とか色々確約できるのって資金調達のための方針が既にまとまっているからなんだ」

「なんやて!?」

「突然うるさいよベリメちゃん」

 今までの会話をずっと翻訳し続けていたパムラがそう怒る。最近はほぼ同時翻訳まで出来るようになっているのだから、彼女の成長ぶりは目を見張るものがある。

「あ、すまん。でも資金調達のための方針が立っているってどういうことや?」

「王女様って知っているか。第四王女の」

「メルビー様やろ。それがどうしたんや」

「……なんかあのお方も俺を勇者にしようと動いているみたい。その一環で色々な事業のお金も出してくれるって」

「はアアアアアアアアアアアアア⁉」

「五月蠅い!」

 パムラが再び注意する。

「せやかて、あの勇者を一人も出したことのない頑固な王女様が勇者⁉ なんの冗談や!」

「それは確かにそうかもしれない。だが、少なくとも話せば話すほど海良の世界は今の私たちの世界には足りない価値観を教えてくれる。だからこそ私もメルビー王女も興味を持ったんだ」

 テノサが大量の紙を持って入って来る。

「はあ」

「後、これらも租税調査が終わったら確認よろしくな。財政関係でのこの村の村民に取り入れてほしい提案を募った結果だ。具体的には山の開拓をして土地を広げて収入を増やしたいから金を集めてくれだそうだ」

「簡単にいうなあ‼」

 そんな話をしながら、今日も租税調査と村の開拓のために働くのだった。

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