第6話 会議中の珍客
それは先ず海良達がシオンの村に戻ってきてすぐの事だった。村長のオゴッティウムやパムラ達を交えて会議が開かれたのである。
「まずは滅茶苦茶な租税の分配見直しからしたいと思うが、皆の意見も聞きたい」
「えっと、どういう事」
「私が説明する」
海良がそう言うとパムラが質問をして、テノサが説明を始めた。
「実は海良裁判の後、それでも納得をしなかった元領主が少々トラブルを起こしてな。海良と入れ違いに裁判に掛けられて有罪になったのだが、その際に私財没収刑だけでなく階級剥奪刑も言い渡されて追放処分になったんだ」
「『かくかくしかじか』だって」
「何していたんだあの領主。まあいい、話を続けるように伝えてくれ」
「『まるまるうまうま』だって」
「ああ、それで元領主と入れ代わりで領主に任命されたのが海良何だが。理由はその知識量らしい」
「知識量ですか?」
村長は難しそうな顔をしたが、そこはテノサが簡単に説明をする。
「海良は労働刑三百年を言い渡されるような犯罪をした扱いになっていた。だが、それを彼が生きていたと本人は語る世界の知識を話すことで解決した。いや、解決させてしまったんだ」
「ちょっと待ってください、異世界とはどういうことですか」
「彼は異世界から来た存在だ。しかも、魔法はない代わりに科学というこの世界の神秘や理を解き明かして生活を豊かにして、文明を発展させた世界のな」
「し、信じられません」
村長はそう言うのがやっとだったという。何せ異世界だ、未知の世界だ。そんな世界が実はありましたなんて話も、信じるように言われる方が確かに無茶だろう。それに何より、この話にはおかしな話がある。
「魔法が無いのに、世界が発展するなど」
「だが、彼のおかげでより自然現象に近づけた気がする。私の苦手だった魔法も強くなったのは間違いないしな」
テノサはそう語った。そして大真面目にこう言った。
「我々は魔法によって発展した。だが、一部の者は気が付き始めている。魔法による教えや考えだけでは間違いに気が付けない事象があると。だからこそ、海良の世界で言う科学が重要になるかもしれない」
「科学?」
「ああ、この世界の法則自体だ。例えば、物が落ちる、とかな」
彼女はこの後話を理解できない者たちに長々と説明したが、海良以外に伝わることがないためにここでは申し訳ないが割愛しようと思う。
「そんな事を考えた際に、海良が気になったのは先ずは社会分野について考えた際の疑問だ」
「それで具体的な内容は」
それから、海良の話がパムラを通して全員に伝えられた。
「まず領主の帳簿だが、集めた報告書と奴自身が記載した帳簿を見比べてほしい」
そう言って領主が持っていた帳簿と、魔法学校が管理する王族に本来は渡すはずだけの用途の帳簿を見比べさせる。
「これが、何か」
村長の疑問に海良が答える。
「帳簿には働いている人数や気候による影響は少ないと書いてある」
「はい」
「なのに、この一番収穫量の少ない年の五回分の量のヌムートの毛によるお金が集まったなんて風に記載されているこの年。何があったの」
そんな風に質問すると、村長は驚いた声を出す。
「それは誠ですか。ここ数年、毎年我々からしたら生活ギリギリの量まで生産したヌムートの毛を税として持っていかれましたが、そんなに豊作だった年などありませんぞ」
その返答に翻訳された回答を聞いた海良は「だろうな」と答えた。
「ああ、知っている。だからこそ、まずは近隣の地域すべての税の確認。そして重すぎる徴税で苦しむ村などを救う方針だ」
海良の言葉が伝えられる。
「それ以外にも私やアラエは仕事があるが、それは先ずは私たちの家が完成してからだな」
「それまでは海良様のお家にお世話になりますが、それからはしっかり働きましょう」
そんな時だ。
「邪魔するで」
「! ベリメ」
「せや! ベリメちゃんや! 久しぶりやな、パムラ!」
勇者を無視して、その少女は会議室の中でパムラと抱きあったという。
「おい! 今は大事な会議中だぞ! 勝手に入って来るな、ベリメ」
「おや? 知らない人がおるな? 誰や?」
そこでようやくその少女は、新しい領主の顔を見つけるのだった。
【中略】
「はー、あの糞領主こんな事やっとったんか。噂はあったけれど、話聞いていざ帳簿を見せられるとなるほどなって思うわ」
ベリメという少女は二つの帳簿を見比べてしきりに関心をしたそうである。
「計算出来るのか」
「まあな、商人やから数扱う位は出来る」
「なあ。お願いがあるんだ」
「何や」
領主の言葉に、海良の言葉にベリメは首をかしげて聞いてくる。
「俺の村で働いてくれないか」
「はぁ?」
その言葉に彼女はとても困惑した顔をするが、この際に海良はこの村を大きくするための計画として何か話したようである。
「なるほどな……それが叶えば確かにすごい出来事や。そして、そのために足掛かりとして商人の力が必要なのも頷ける」
「なら」
「だからうちは断らしてもらう」
「何で⁉」
パムラがそこで大きな声で聞き返したという。
「うちはビッグな商人になりたいんや。だからこそ生憎やがもっと大きな街の商人の所で技術磨けるまでにならないといけないんや。旅の商人はそうやって技術磨くのが普通やからな」
どんな商人でもこの世界ではまずは旅の商人として働き、各地の商人の技術や商品の相場を知ることから始める。そして、その次にお店を持って働く、それが普通である。もしくは、何処かの大きなお店の従業員として雇われて働き、お店を暖簾分けするなどである。
「何年かけるつもりか分からんが、ちゃんと村の規模から考えてどれだけの資金をまず用意する必要があるか、それが考えられてへん計画には乗れない。危険すぎるからな。たとえそれが、パムラのおる村やとしてもな」
「ベリメちゃん! そんな言い方!」
「すまんな、こればっかりは商人として譲れへん。その代りちゃんとこの村の商品は出来るだけ高く買うさかい許してや。それじゃあ」
そう言って、彼女は出て行ってしまう。
「そんな」
「何と不躾な」
「気に入った」
「……海良?」
「あのベリメって商人。なんとしてでも村の商人として迎え入れる」
その言葉にパムラがまず驚き、そして伝えられると全員が驚き始める。
「良いのか、勇者の情報を知らないような女だぞ」
「うーん、どうだろうね。まあ、話がそれたしまずは税金について考えよう」
海良はそう言いながら会議を再開したという。
一方で……村の近くの森の中。
「対象はどうだ」
「不審がられないようにはした。だけど、少し違和感があったからより距離を置くことにした。しばらくはいつも通り村に滞在して情報を集めてから動く」
「ああ、それでいい。今回の相手は本当に勇者である判定を受けた対象ではないからな」
そう言いながら、影の中の何かとベリメは話を終えるのだった。
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