第5話 新たな領主としての始まり

 それから一ヶ月後(大体二十四日らしい)、勇者とパムラ達は村に戻ってきた。

「ただいま」

「お帰り。良く戻ってきた、海良も元気そうで良かった」

「ありがとうございます」

 村長はねぎらい、そしてそれから、何があったのか聞いたという。

「俺はあの後、異世界の知識を教えることで刑を終えることが出来ました」

 勇者の話によると、魔法学校に向かいそこでいくつか実験をしたようである。

「例えば地動説の証明をしました」

 今となっては当たり前であるため後の章で話すが、この時代まだ信じられていなかった地動説という説の証明。それを何と魔法学校という優秀な生徒のいる実験室の中で行ったのだという。やった内容は出来るだけ天井の高い場所から紐を垂らしてその先に球を吊るし、そして一方向にだけ揺らすだけ。

 それだけで地動説を説明したというのだから凄い話である。少なくとも、勇者は自分のしたことは他の人の発明した方法を披露しているだけだから褒められたものではないと語るが、これは話を理解できた魔法学校の一部の生徒には画期的だったようである。

「じゃあ、どうして白愛教(便宜上こう訳す事にした宗教法人)の人がいるのでしょうか。かの宗教は天動説を布教していたのでは」

「罪の浄化、と言えば聞こえは良いですが、私がしてきた罪を見つめるため海良様に従うことにしばらくなりましたので」

「はあ?」

 この女性はアラエ・ノーヴェリム。白愛教の聖職者だったようである。ただし、彼女がついて来たことには理由がある。

 なんでも、海良に対する二度目の裁判がこの一回目の裁判の判決が出た後に行われたようである。ただし、この際に神前裁判という王族と同等程度に効果があると言われている神のお告げによる判決を降す流れになったようである。

 これで本来は白愛教の名の下に有罪になるはずだったのだが、結果はなんと無罪になったようである。その理由は、白愛教が信じていた天動説ではなく地動説が正しいと神のお告げの元に証明されたから。

「神は言いました。昔に天動説を唱えた我らの先祖を導いたと。ただし、それは知識に対して興味を持とうとすることを許したのであって、天動説自体を肯定したのではないと。ですが、我々は天動説を信じない者を天罰の元に処刑などを行っておりました」

 そう懺悔した。

「この裁判を通して、白愛教は間違った導きをしていたことが露見してしまいました。だからこそ、私は導く聖職者よりまだ教義を見つめなおす信者に降格されて、また労働刑による奉仕も言い渡されました。自分達が間違っていないなどと絶対的な妄信をしていた。その罪ですので、せめて報いようと」

 聖女はそう語った。

「では、調査官様がこの村にいるのは」

テノサ・ミドリエ、前回は裁判に海良を連行する為にやって来た人がまたいるのだ。村長の質問に、彼女はこう答える。

「ああ、私は単純にこの村の発展のために来たんだ。何せ勇者の可能性に気が付いたのは私だからな」

「はあ」

 この時村長は後の日記で村長も彼が勇者ではないかと思ったことを告白していたが、まあそれはいずれ語ろう。だが本当にこの状況で重要なのはそんなことではない。魔法学校の魔法使いが村に、ごくありふれた田舎の村でしかない場所にまたやって来たことである。

 それも明確に村の発展のためだと語った。

「あの、どういう事でしょうか?」

「まずだが、この地域の領主が変わることになった」

「何と、そんな連絡は聞いておりませんぞ」

「そりゃそうだろう、何せ領主の紹介と連絡をこの村は一度に行えるからな」

「それで、新しい領主様はどなたなのです」

「ここにいるだろう海良だよ」

 この時領主はそれはそれは驚いたという。

「しかし、海良が新しい領主様となると、お話しできるのでしょうか」

「ああ、心配するな。基本的な領地経営や庶務的な仕事は私も手伝う。基本的な方針はあくまでも海良に任せるがな」

 その際の彼女の顔は面白い物を見る顔だったという。まるで、未来のこの名前も知られていないような村が途轍もない発展をするのを知っているかのような。

 ここからは、私が特に気になった話から徐々に綴っていこうと思う。既に勇者だとこの物語を書いている時点では既に知られているが、当時はまだ知られていなかった海良が勇者と呼ばれるまでの軌跡を。

桑鷹三好の遊び場

小説を書くのが好きな男が好き勝手に小説を書いたり色々な事を想像したりするサイトです。 基本的に良識のある対応を出来る人なら誰でも歓迎です。

0コメント

  • 1000 / 1000