第3話 裁判前編

「これが王都、凄い」

 少女はその光景に驚嘆していた。何せ今まで村の狭い世界でしか生活したことのない彼女にとってその都市は途方もなく大きく、そして未知の世界のように映っただろう。

「奇麗な道路、統一されていながらカラフルな基調の家の街並み、行商人や魔法使いに冒険者やそのほかにも様々な目的で人々が集まる。ここが王族も住まれる場所であるからな」

「なに、海良? え? これからどこに向かうのかだって?」

「ああ、それは勿論」

 王族裁判所だ。テノサはそう語った。

「裁判所?」

「……」

 パムラは首をかしげる。海良は黙る。そしてテノサは話す。

「王族主体の裁判所。絶対的なる憲法と円卓会議の定めた法律群の元に悪人かそうでないかを決める場所だ。何より、今回は久しぶりの国家存亡に関わる裁判だ。なんとしても傍聴したいという貴族や商人に情報屋も集まるだろう」

「は⁉ なんですかその見世物みたいな扱いは!」

「見世物と言っては不都合だが、まあ情報屋はともかくそれ以外の連中は物見遊山感覚で来ているのは否定できないな」

 この時代裁判はまだ厳格だったとは言えない、それが確かに一種の娯楽の様になっていたのは否定できないだろう。だが、それを改めなくてはいけなくなったきっかけに今回の裁判がなったのも事実である。だからこそ、出来るだけ情報を正確に残したいと思う。

 裁判が始まったのは三日後、裁判長は王族の第四王女メルビー様。そして弁護人にはテノサが付き、円卓会議は裁判官として参加した。

「被告よ、前へ」

 メルビー様に促されて、海良が前に出る。

構造は縦長の部屋の一番奥にメルビー様と他の円卓会議が座る最上位の席。そこから左右に原告席と被告席を用意される。そしてそれらを取り囲むように傍聴人たちの席が用意されるのである。席はあくまでも王族の上や後ろに用意されないようにだけされているが、王族の認めるもの以外を後ろに立たせない配慮であろうと言われている。むしろ正面などだけは傍聴人たちを止めるためにも許されている事こそ凄い事であろう。

 そんな部屋で、王族を差し置いて中央に置かれるという事に普通は違和感があるのだろうが、ここではそれが許される数少ない状況。だからこそ特別であるともいえる。

「これより、裁判を始めます」

 王族の号令により、裁判が始まる。

 だが、まず裁判の前に弁護士もやるテノサより提案がなされる。

「まず、被告人は私たちの用いる共通語を話せません。だからこそ、今回の裁判に話を代弁するためのパムラという手伝いを用いる許可をとっても良いでしょうか。私の調べでパムラは被告人の言葉を理解する魔法が使えることを確認取れています」

「よろしいですかな」

 しかし、検察がそれを許さない。

「もし万が一共謀して嘘の供述をしようとしているのであればそれは大問題。少しでもそのようなリスクを私は減らしたいのですが」

「ならばあなたの得意な嘘を見つける魔法を使えばよいでしょう。私は魔力を供給する魔法も使えますからお手伝いしますよ」

「良いのですか」

「はい。裁判長、許可を」

「良いでしょう。パムラを隣に」

 

 そう言われて、パムラがおっかなびっくりしながらも前に出る。そして尋問が始まる。

「まず被告人、あなたは通貨偽造をすることが出来ますか」

「……」

「パムラ、伝えてください。伝えないと妨害としてあなたにも」

「パムラ、伝えてください」

「ですがテノサさん」

「良いですから」

 パムラは納得し切った様子ではないが何とか伝えた。そして海良の言葉を伝える。

「はい」

「検察、嘘は」

「ありません」

「では次の質問です」

 そんな感じに幾つか質問をした末に、次に検察からの質問が始まる。

「あなたは自分の意思で、自分の魔法で、通貨偽造をした。そうですね?」

「……」

「はい」

「そこに国家転覆を図る意思はありましたか?」

「……」

「いいえ」

「本当ですか」

「……」

「はい」

「ですが、あなたは通貨偽造が国家反逆罪相当に当たると理解していた、違いますか」

「……」

「はい……理解していました」

「何故理解していながら国家転覆の意思もないのに魔法を使ったのですか」

「……」

「え、え⁉ 待って、それって私のせいじゃ……」

「パムラ、落ち着きなさい。そして話をしてください」

 パムラは裁判長に宥められて、話をする。

「私が……私がお金を欲しいと言っているって領主様が言っているなんて伝えたからです」

「どういうことですか」

「海良は私の発言した言葉なら魔法で作れると気が付いたみたいです。それで、私お金って領主様は良く欲しがっているから今回もお金だと思ってそう伝えて」

「あなたは被告の前でお金と言ったのですね」

「はい」

「それを聞いて、海良はお金を魔法で偽造したと」

「……はい」

「その話は後程詳しく聞きましょう。まずは弁護人の話です」

 弁護人の話になった。だが、ここで驚きの事態が発生する。

「まず、こちらの書類を見てください」

 そう言ってテアッス(脳内に映像を投影することで魔法や情報を伝達する装置)によってとある情報が検察と王族や円卓会議の面々に伝達される。その瞬間に全員が驚愕し、慌てだして、それを見て傍聴席の伝えられていない人達は顔を見合わせる。だが、テノサは落ち着いた様子で話し出す。

「いま送った映像は、私が数年前から円卓会議やその下部組織の鍛冶工房や王立銀行にも提言した貨幣の偽造防止魔法関連の不具合に関する提言と防止策の提案書です。しかし、これは一切届くことはありませんでした」

「その話が一体何だというんだ!」

「気が付きませんか? その書類に書いているのは魔法が効果を失い貨幣を見分ける方法が無くなる危険性の提言。そしてそもそも今回の貨幣偽造の発覚は領主の提言によるありえない貨幣登録番号であることの発覚の他に、偽造防止魔法が使われていない事の発見です」

 今の今まで海良達には明かされていなかったが、どうも裁判は今言った内容が厳密には罪刑として挙げられた内容だと明かされてパムラはそれを海良に伝えた。

「だからそれがなんだと」

「今回私が独自に調べたところ、偽造通貨の他にも偽造ではないはずの貨幣でも同様の魔法が効力を失っている、要するに魔法が使われていない貨幣と見分けのつかない状況であることが分かりました。これは国家の怠慢ではないでしょうか?」

「貴様!」

「静粛に」

 女王が一喝することで裁判場は静かになる。語気を荒げた検察も黙り、そして女王は静かに隣の円卓会議の面々に顔を向ける。

「私は今回の書類を知りません。ですが、他の王族が知っている可能性もあります。教えてください。あなた方は誰かにこの情報を伝えましたか」

「女王様、恐れ多くも今回の話は被告の裁判とは無関係」

「伝えなさい」

「ですが」

「検察、あなたもこの被疑者の捜査に協力しなさい」

 これは驚きであった。きっと裁判で傍聴していた人たちもさぞ驚いたであろう。何せ同じ被告を裁くはずの裁判官を明確に被疑者と言ったのだから。

「それであなた方は伝えましたか」

「……いいえ、女王様にも現国王にも伝えておりません」

 女王様は直ぐに検察にそれが嘘か見抜くよう顔を向ける。

「恐れ多くも女王様。かの弁護士は関係のない話で」

「伝えなさい」

「ですが」

「妨害により労働刑3年を言い渡します」

 検察に被告よりも先に罰則を与える。これはとんでもない話であろう。だからこそ、それはそれは傍聴人たちは慄いたようである。王女にとっては裁判を進めるうえで自分の考えを妨害され続けるのが嫌だったのかもしれないが。そして罰則をこれ以上は嫌ってか検察は話し出す。

「嘘はないようです」

「はあ、国家危機に対する提言をみすみす聞き逃すなど」

 そう言いながらも、女王はテノサに質問をする。

「どうしてこの話をしたのです、弁護人」

「まず、今回の偽造された貨幣はユミン貨幣(日本で言うなら1万円札相当の高額貨幣)です。偽造したらすぐ足がつく。ですが、極端な話スルト貨幣(日本で言うなら千円相当の貨幣)ならここまで早く足が付かなかったでしょう」

「それがなんだと」

「彼は魔法を完璧に操れるわけではないのではないでしょうか? だからこそ、過剰に高額な貨幣を用意した。違いますか?」

「海良被告」

「……」

「はい、そうですと」

「そうなると、彼には悪意が無かった可能性が高いと言えます」

「そんなのでっち上げだ」

「検察静かに」

 女王は静かにさせる。そして短く、テノサさんはこう告げる。

「私からは以上です」

「では、明日からは参考人たちの話を聞きたいと思います。一時閉廷」

 裁判が一時終わると、休憩室でパムラは椅子にもたれかかって息を吐く。

「うわああああああああああ、大丈夫なの海良」

「正直綱渡りな裁判であることは間違いない。だが、国家危機を見逃したという大きな釣り針で悪意が無かったという、どうにかせめて足掻くのに必要だった情報は伝えた。後は明日の結果次第だな」

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