第2話 連行される海良
それから数日間は平和な日々が続いていた。しかし、そんな日も長くは続かない。
「『解読中』」
「どういうことですか、海良が逮捕されるなんて!」
村の中央でパムラが大きく声をあげて反論する。だが、突然やって来た女性と軽装の鎧姿の男たちに終始気味の悪い顔をした領主が気味悪い。
だが、海良はこの時にも終始落ち着いた様子でいたようである。
「では、まずは再現性について聞きたいです。領主よ、問題の男はどなたですか」
「は、あそこの男になります」
「違う! 海良は関係ない!」
「娘! それ以上妨害をするなら貴様も連行するぞ!」
「でも!」
「ダイジョウブ。パムラハシンパイシナイデ」
「海良」
勇者は一歩前に出ると、パムラに何の話をしているのか聞いている様である。そしてパムラが伝えると、パムラを挟んで女性と話を始める。そして、呟くのである。
「『お金』」
そう言うと、確かにお金が出現する。
「海良!」
「なるほど、魔法の力で出現させたという事ですか」
「こんな奴直ぐに逮捕を」
「待ちなさい、調べる必要があります」
領主は逮捕を進言する。だが女性はそう言って制止させると、連れの男たちに貨幣を渡して何か魔法を使わせる。そして、その結果を伝えられてもう一度向き合う。
「この貨幣は王国の定める貨幣の条件を満たさない偽造通貨である。よって、ただいまより偽造通貨製造の重要参考人として連行する」
「そんな! 待ってください!」
パムラは止める。だが、勇者の方はむしろ何が起きているのか話を聞いた後、それを受け入れるように頷いた。だが、一言だけパムラを挟んで願いを伝えた。
「あの、魔法使い様」
「はい、何でしょう」
魔法使い、領主より影響力のある魔法学校の支部より派遣された女性はパムラの願いを聞こうとする。
「海良のお願いで、私も一緒に連れて行って欲しいとのことです」
「な、何を言っている! お前の様な罪人の発言が! この状況でそんなことが許されるわけが!」
「良いでしょう」
「な」
パムラも、領主も驚いた。だが、女性だけは何も不思議な事を言っていないかのように宣言した。
「重要参考人のために、村娘一名の同行を特例として許可いたしましょう」
「待ってください! こんな奴のためにそんなこと!」
「何ですか? 何かこの村娘も一緒に行くことで何か不都合でも?」
「……いえ」
領主は引き下がる。流石に魔法学校より派遣された調査官に歯向かうようなことはしなかったようである。そして、女性はついて来るように言うと、海良とパムラが連行される。
オズド(大型の四足歩行の動物。体長は2メートルにもなるほど巨体で、筋骨隆々で肌が黒くて角が大きい牛の様な外見らしい)の引く車に乗せられると、車は動きだして中で女性に話しかけられる。
「さて、ゆっくり話そうじゃないか。幸い王都まで長旅だ、いくらでも聞きたい事には答えよう。第5階級魔法使いとして」
「海良は悪いことはしていません。逮捕を止めてもらえませんか」
「済まないが連行を止めることは出来ない。何より私は逮捕をしていない。話が嚙み合わなくなるからその勘違いは訂正しないとな」
「どういうことですか! こうして逮捕しているのに!」
オズド車に揺られながら移動している中、パムラが女性に反論するが女性は掌を下にして水平に動かしてパムラを制止すると話し出す。
「まず、私の名前はテノサ・ミドリエ。これでも一応貴族の出自だが、魔法の才能を見出されて魔法学校で働いている。そして、今回そちらの男性を呼んだのはとある国家危機に対して私が既に何度も警鐘を鳴らしていたのに退けられていたからこそ、起きてしまった非常事態に対処するためなんだ」
「どういうことですか」
「ここまでの話を一度そちらの男性に伝えたらどうだ。それに、私もそろそろそちらの男性の名前を知りたい」
「は、はい」
そう言って、テノサは自分の話を伝えるようにパムラに言うと、パムラは海良に今言われた話を伝えた。すると、海良はこう伝えるように話をしたという。
「あの、通貨偽造の疑いがある事に繋がるからですねって。あと海良です」
「おや、どうやらそちらの男性はどれほどの事態になっているのか気が付いているようだね」
「あの、どういうことですか? 通貨偽造ってそもそも何ですか」
パムラはその聞き慣れない通貨偽造という言葉にピンと来ていなかった。だが、テノサは丁寧に何をしたのか伝えた。
「言葉通りなのだが、まあ君には身近じゃないかもしれないがまずこの貨幣という物があるのは知っているかい」
「はい、領主様もヌムートの毛で作った製品より貨幣を税として集めたがっていますので」
「じゃあ話は簡単だ。その貨幣、これの偽物を作ったんだ。彼はな。だからこそ大変な事態になったんだ」
「? どういうことですか?」
テノサは息を一つ吐くと、話し出す。
「まず、ヌムートの大人を君に渡そうと約束したとする」
「はい」
「だが、実際には毛の質の悪い老体のヌムートを渡されたらどう思う」
「そんなの、騙されたって思います」
「そうだな、騙されたと思うし信用も出来なくなるだろう」
「それがどうしたんですか」
「彼はそれを貨幣でやってしまったんだ」
「はい?」
パムラはよく分かっていないが、テノサはこう諭す。
「貨幣は国家の信用を担保、要するにこの物は凄い物ですよって国が認めるからこそあらゆるものに使えるという意味を持つんだ。物の売買、税金、他にも田舎の村では知らないような君には想像もつかないほどにあちこちで使われている」
「それがどうしたんですか」
「君は我が王国が凄い国である。だが、そこで使われている物には偽物がはびこる国である、なんて言われて信用出来るかい」
「それは、出来ないかも」
「そういう事だ。信用できない、騙されたと思う人も出るだろう、そんな状況を引き起こしかねない事態を彼は起こしてしまったんだ。これは国家へのとんでもない反逆だ、理由がどうあれな」
パムラには此処まで言われてもまだピンと来ていなかった。正直海良を何とかしたいという思いによって理解を拒んでいたのだろう。だが、事実としてこの時点で通貨偽造の疑いにより連行されていたし、海良は作るところも見せてしまったのである。
「だが、私としては何としてでも海良君の罪を軽くするためにも話を聞きたいと思っている」
「はい」
「だから今言ったことを海良君に伝えてくれ」
「あの、直接伝えれば」
「君気が付いていないのか? 君も魔法使いだぞ。それも詠唱無しで会話の通じないはずの相手と会話が出来るという魔法の。下手したら『解読中』かもしれない」
「え、どういうことですか。会話が通じないって」
「君にしか分からないだろうから思い出してくれ。何回かなかったかい。彼が他の村人と会話を出来ていなかった時が無いか」
そう言われて、パムラは思い出そうとして気が付いた。
「そう言えば、村長も領主様も海良の話をよく分かっていなかったかも。もう一度言ってって言っていたし。海良も、なんか難しい話を村長にしてくれって言っていた時もなんで私を通すのかなって思ったけれど」
それは村長とパムラと海良が話した夜の事。彼は村長たちに次の質問をした。
・京都や東京を知りませんか?
・惑星って知っていますか?
・村人と話をさせてもらえませんか?
このあたりで、もう気が付いていたのだろう。彼は、話しが通じないという事を。
「惑星……惑星か……」
「あの、テノサさん?」
「いや、何でもない。気になる言葉が出て来たなと思っただけなので。それより、そこまで聞いていたのなら確定ですね。彼はいち早く自分の言葉があの村の人や出会った人に伝わっていないことに気が付いていた。だからこそ、パムラさんを連れて行きたいと」
「私がいないと、そもそも話が出来ないから」
「ああ」
テノサは懐から砂糖菓子を取り出すと口に入れて舌の上でそれを転がしたようである。そんな旅をしながら、彼らは王都に到着するのであった。
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