第6話 戦争の前に3

「それでさあ、俺この後いつまでこうしていればいいの?」

「落合が許可下すまでだから、三日位かな?」

 後藤にそう聞くと、返事は途方もない物だった。

「どの程度魔法が持続するかもわからないのに、そんなことして大丈夫なの?」

「そこは検証よ検証。落合、そっちはどう?」

『感度良好。因みに敵兵は山の中で山越えできない事には気が付いている。ただし、食料について奪い合いが始まるのはまだかな』

「了解。それなら今日はもう料理を食べましょう。戻ってきていいわよ、軍君」

「はーい」

 そう言って、俺は地面に戻ると野営地に戻った。

「お、大魔導士様のお出ましだ!」

 そんな声が野営地から聞こえ、そしてげんなりとする。

「ねえ、俺こういう雰囲気嫌いなんだけれど大丈夫なの」

「少しだけオルギウス兵の士気維持のために頑張って。結局自衛隊しばらく出なくて良くなっちゃったのは聞いたんでしょ?」

「まあ、そうだけれど」

 あの後、平原での戦いをほぼ無血で終えた(頬の傷や多少の馬の傷など軽微なものしかないから、後藤は大戦果だと言っていた)俺達は、山越えをした千人近くのサルバーン国の兵士を捕縛した。

 しかし、この兵士をどうしようかと言う話になり殺すかという意見が多かったのだが、俺がオルギウス王国の収容所があればそこにオルギウス王国の城から運んでもらえないかと提案した。そして、転移魔法を使い千人すべての捕虜を移送したことでオルギウス兵たちが「大魔導士だ!」と俺を祀り上げ、落合と猿渡が顔を困惑させ、そして後藤が「これは使える」とにやけた。

 その結果、俺達は現在山越えをしている第二次侵攻軍約五千の兵士を相手にしているのである。しかし、その戦場は大変優雅なものだった。

「おーい、こっちは酒だ!」

「肉を持ってきてくれ!」

「はーい、ちょっと待ってね!」

 兵士たちは酒をあおり、肉を食べ、そしてきれいな女性たちが兵士たちに食事を提供している。

「これ、少なくとも普通の戦場の光景じゃないんだよな、猿渡」

「ああ、女抱く奴は戦場でもいたけれど、ここまでだらけきった戦場は初めてだ」

「落合君は現在進行で頑張っているから申し訳ないけれど、軍君の作ってくれた魔法の壁を敵が越えられない限り、相手は食料にありつけないしね」

 そう言いながら、高い魔法の壁を見ながら後藤はため息をついていた。

 あの後、山に入る前に村を借りて仮の野営地を築いた俺達は、後藤からとある作戦を言い渡された。

「兵糧攻めしよう」

「兵糧攻め?」

 その言葉に、俺達は困惑した。それを見てか、具体的な案が出される。

「まず、稜線に沿って軍君に魔法の壁をはってもらうの。出来れば石や砂より、直ぐに指パッチン一つで消える様な素材で作ってくれると助かるな。そして、敵軍に山越えを出来ないようにしてもらうの」

「それで、どうするのさ」

「敵軍が退却するのを待つの」

「は?」

「だから、自然に敵が退却するのを待つ。それで勝てるわ」

「何言っているんだ。こっちはそれだけの食料は無いぞ。あくまである程度の猶予はあるがって分の食量しか持ってきていなくて、現地調達前提なのに」

「村に迷惑かける」

「あら? それは敵兵も同じじゃない。こっちには軍君の転移魔法があるけれど」

「!」

「!」

「え?」

 そこで、猿渡と落合は納得したような顔をしているが、俺は何にも分からなかった。

「転移魔法を使って食糧輸送を行えば半永久的に食料の確保が出来る。一方で敵はこちらの食料を強奪する前提だろうから何人が影響受けるか分からないけれど、足止めするだけで戦力を大幅に削減できる。確かオルギウス王国って食料は大量にあるのよね?」

「はい! 城の貯蔵庫の食料を開放しても、何ら問題ありません」

 若いオルギウス王国の指揮官がそう言う。

「じゃあさ、軍君の転移魔法が壁を維持しながら使えるかとか検証もしたいから、ちょっと敵兵が山越えする前に稜線に沿って壁作ってくれないかな。それで、敵兵だけ食料がどんどん減ってそのうち仲間割れするのを誘発する作戦で行きましょう。少し時間はかかっちゃうけれど、そうすればそのうち変化が訪れるはずだから」

「ねえ、最後に聞きたいけれど」

 俺はそう切りだして質問をした

「どのくらいの距離の壁作ればいいの?」

「うーん、飛竜って存在も見た事ないけれどそれも超えられないくらいの壁を作ってもらえると嬉しいし、高さ五十キロメートルくらいかな? それで、横幅十数キロくらいあれば流石に敵兵も抜け道探そうとはしないでしょ」

 俺だけが途方もなく絶望した瞬間だった。

 と、そんな作戦を決行して三日目の朝、ようやく事態は動き出した。

「敵兵が山を下り始めている?」

「うん、食料は俺がこっそり回収していたのもあるけれど、もうごまかせない所まで来たみたいだから撤退を開始したみたい」

「よし。じゃあもういいかしら」

後藤はそう言って、オルギウス兵を前に語った。

「全員、よくこの作戦に付き合ってくれた。正直軍君の魔法が寝ている間は消えちゃうとか心配はいくらでもあったけれど、杞憂に終わり作戦は無事に成功。敵兵の撤退に成功した」

 兵士たちは笑顔で応える。歓声も少し起きた。

「時は来た! これよりこちらに一方的に攻め込んだサルバーン国に攻め入る時だ! これからは敵の領地! これからは何が起きるか分からないけれど、私たちは負けるつもりで来たわけじゃないことを胸にしっかり刻んで戦いなさい!」

 おお! と、全員が声を合わせる。

「軍君、壁消して」

「はい」

 俺は言われた通り、壁を消す。

「全員、突撃!」

 そして、全軍山を駆け下りた。

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