第5話 戦争の前に2

「異世界ねえ、食事も見た事ない物だとは思っていたけれど本当かよ」

「と言うかよく食べる気になったね」

「だって美味そうだったし」

「それで、どうするの。私が言えた事じゃないけれど自衛隊は交戦するんでしょ。私達何が出来るの」

 後藤がそんな情けないことを言う。

「それはそうなんだよな、ぶっちゃけ何もできないと思うから」

「自衛隊って何人今この異世界? にいるの」

「上官がいないから何も言えないけれど、流石にまだそんなに沢山の部隊がいるとは思えない」

「でも、自衛隊は大量虐殺の確認を取ったらしいけれど、それは」

「ああ、それは俺達が最初襲われたときの話だな」

「ん?」

 そうすると、猿渡が教えてくれる。

「俺達は最初突然変な場所に落ちてきたんだ。どこかの森の中だったな」

「ああ」

「それで、三人で合流して」

「うん」

 いきなり大切なところを端折られた気がするがまあいい。

「落合が遠くに村が見えたからそこに向かおうと言ったら変な奴らに森の中で襲われたんだ」

「ああ」

 もう結果が読めた。

「だからたったの30人位だったから返り討ちにしたのさ。後藤の正当防衛に何としてでも持ち込むってお墨付きももらったしな」

「それで、三人で倒しちゃったって事?」

「いや、三人一人ずつ捕縛で来たけれど、他の奴らは逃がしちまってよ。だから一先ず捕まえた三人運んで、村の人に事情を説明して衛兵? とかいう人たちに引き渡したら何かここで飯奢ってもらえた」

「絶対大切なところ理解していないだろ」

 ただ襲ってきた暴漢? 倒しただけで飯奢ってもらえるはずがない。恐らくこいつらが倒したって言う、襲ってきた奴はサルバーン王国の派遣した先遣隊だ。人数的にもあり得る。

 兄貴が話していたあれ、後藤達なら十分あり得るとは思っていたけれど心の何処かで間違っていて欲しかったのかな。

「よろしいでしょうか」

「はい」

「宰相のザリスです。国王に代わり、皆様にお伝えしたいことがあります」

 そう言って、ザリスが話を始める。

「皆様が助けた村はこのオルギウス王国首都マナハから北東に30キロメートルの位置の山岳に位置する村です。夜に敵が進軍するとは考えられませんが、既にマジャンの毒が捕縛されてから一日経過している以上、敵は既に山岳を超えてもうこの城を目の前にしているものと思われます」

「城と山の距離が近すぎない?」

「元々森の民の神聖な森にも隣接しているサルバーン国はこの国に対して山越えできる装備を持っていないはずでした。しかし近年、山越えできる動物を多数そろえているとの情報はありました。なのでいつ攻められるかと防衛戦力を揃えておりましたが、この王不在のタイミングを狙って攻めてきたようです。しかし、倭国が急いで帰国させてくださったことで王は正式にサルバーン国に攻め入ることが出来るようになりました」

「じゃあ、俺達は何もしないってことで良いのか?」

「いえ、サルバーン国は捕縛した三名のマジャンの毒の解放、及び貴殿ら三名の首を要求しております」

「……へぇ」

「……」

「それは、倭国への正式な要求でしょうか」

「倭国が貴殿たち三名の首を差し出すことを拒否するようであれば、我々は正式にこれを支持してオルギウス軍の飛竜などを差し向ける準備があります」

「ザリス様!」

「何だ」

 そこで、ザリスの部下と思われる人が何か耳打ちをする。

「何だと! そんな馬鹿な事を言っている場合か!」

「しかし、このままでは貴族から反感が」

「ああ、もう!」

「どうしたんですか?」

 落合が聞くと、ザリスは悩んだ末に言い出した。

「一部の貴族が自分の領地に自衛隊の馬が通るのを禁止しているそうです。なんでも、未開の国の馬を通してスパイの疑いを持たれては敵わないと」

「は⁉ 今もう攻め込まれているところだろ⁉ 国王が自衛隊の派遣を良いって言っているのに、貴族が邪魔しているのか⁉」

「おそらく攻め込まれた後の領地の関係で既に寝返っていたのでしょう。私の失態です」

「ねえ、少し良いかな」

 ここで、後藤が語り始める。

「敵の兵力ってどの程度ですか?」

「報告では一万人程度の歩兵に三百騎程の飛竜部隊だと聞いておりますが」

「こっちの戦力は」

「今展開しているのが六千人です。王城防衛に同数程度を控えさせておりますが」

「なら、三千人の指揮、私に任せてもらえないかしら」

「え?」

「因みに、俺と落合がお前の部下に入るってことで良いのか」

「了解」

「部下じゃないわ。協力者よ。だからあくまで指揮下に入っている訳じゃないから自由に動いて結構よ」

「ねえ軍君、本当にこの後の戦いにあなたも参加するの」

「まあ、いるだけで良いと王様に言われちゃったし」

「軍が何か出来ると思えないけれど、まあいい」

 そう言って、三千人の兵を引き連れて、俺達は北東に向けて進軍していた。馬上での会話であるが、隣の馬には後藤と猿渡、落合は別の場所で一人自由に動いている。

「それで、何か策はあるのか」

「正直普通の戦闘なら何も問題はない。けれど、魔法って言うのは何が出来るのか分からないし、それ次第よね。飛竜ってよく分からない存在もあるし」

「一万人の兵力相手にするのは疲れそ……」

「総員注意。眼前二キロ。敵の駐屯地思われる場所を発見。既に補足されている前提で動き給え」

「了解。肉眼はともかく魔法で捕捉されている前提でこれより動く」

 一斉に後藤が呼びかけるが、俺達しか注意をしない。もしかして魔法で捕捉するのは意外とこの距離だとできない?

「! 気が付かれた! 総員全速力で散開! 狙いを分散させろ! 猿渡はもう突っ込んで!」

「了解!」

 そう言うと、オルギウスの軍は散開を初めて、一人猿渡は直線に進み始める。

「良いのですか。単騎突撃など」

「あのアホは囮。本命は、最後まで隠さないとね」

 そう言って後藤は前を見据える。

「魔法が来るぞ!」

 その声が聞こえた時、前から何か風のようなものが吹いてくるのを感じた。それと同時に、風が俺の肌を切り裂くような感覚がした。

 頬に触れると、血が垂れている。

「総員風に注意! 少しでも異常を感じたら移動して避けるように!」

 後藤が指示を飛ばすが、それはらしくない指示だった。目の前の脅威に対して手段が無いと言っているようなものだった。だって、何処に逃げるとか、隣り合った馬上でそれをやるのかとか疑問がつきない。そう思った俺は……。

「!」

 同じ事を相手に向けてやる。風を放つと、敵の拠点で暴風が吹き荒れて先ほど攻撃してきた兵士がいなくなる。距離残り一キロを切った所だ。

「軍君あんなこと出来るの⁉」

そこで、後藤が隣から話しかけてくる。

「ああ、なんか真似したら出来た」

「ねえ、相手の陣地に一人で飛んで行って、それで眠らせるとか出来ない?」

「は? いきなりそんなこと言われたって」

「良いからやる!」

「わ、分かった!」

 そう言って、俺は馬から飛び立つとそのまま一人敵の拠点に向けて飛んで行った。

「本当に出来ちゃうんだ、幸運って」

 後藤はそう言うのが精いっぱいだった。

それからは、とある狙撃手の視点から語ろう。彼は一人、上空から静かに移動していた。あくまでも単騎突撃する猿渡も、後藤達三千の兵もすべてが囮だと聞かされていた彼は、それだけで自分の仕事が重要だと認識していた。

この世界で初めて乗る飛竜という未知の生き物の背中からの射撃。いつも通り何とかしようと思っていたのだが、連絡のない笠松軍の敵陣への特攻に何かと思ったら、何と敵が眠り始めたのである。

「作戦変更があるなら、ちゃんと連絡が欲しい。手段が無いのかもしれないけれど、流石に眠った敵兵撃つのは問題になるかもしれない」

 そう言って落合翔は、銃口を収めるのだった。

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