第3話 急転
それから京都で倭国の食事に舌鼓を打った後、私たちはホテルと言う宿泊施設に移動した。いわゆる宿だというのだから、どんな施設に移動するのかと思ったら室内は快適な温度で明るく、とても過ごしやすい場所である。
今私はありのままに書いているのだが、倭国と言う国は途方もなくすごい国だ。いや、凄いと言いう言葉でさえも表現するには足りないのかもしれない。
今ここでエルフの民への手紙を書いていう紙さえも途方もなく質が良い。
「はぁ」
「どうですか。書き終わりました?」
「いや、全然書き終わらん。これが森の民に信じてもらえるのか不安だが、初めて見た者として正直に伝えるしかない」
「でも気になったのですが、もしかして小食か野菜しか食べない種族なんですか」
「ああ、我らは穀物か野菜、果物しか食べず肉も虫の肉しか食べない。だから食事もせっかく用意してもらったのに済まなかったな」
「いえ、文化的な配慮が至らないのはこちらの問題ですし申し訳ありません」
笠松奥儀の部下だと言う女性と二人で一部屋あてがわれて過ごしているが、二人用の部屋だというのに清潔感があり細部までこだわられたような部屋に驚きを隠せないでいる。
少し狭い感じがすることだけ不満か。
「良ければシャワーありますから体洗ってください」
「シャワー?」
「お風呂って言えばいいんですかね。体の汚れを洗うために」
「もしかして湯あみか? 人間族の貴族がやるらしい」
「アルテアさんの世界ではそうなんですね。私たちの世界ではよっぽどの環境じゃない限り身分関係なくできますよ」
「なに? それは本当か?」
「はい」
それから、初めてのお風呂を堪能したアルテアは、また手紙にこのことを記したという。
「それで、魔法が使えるってどういうことだ、軍?」
「そのままだよ兄貴。アルテアってあのエルフの女の子のおかげで魔法が使えるようになったの。見せたでしょ、オルギウス王にお風呂の使い方を教えたの」
「ああいうのは、王様は自分でやらない場合もあるから慎重に動いて欲しかった。それはそうと、戦略級ってどういうことだ」
「そっちは知らない。俺も把握していない」
「良ければ教えましょうか」
そこで、お風呂から出てきたバステル・オルギウス王がこちらを見る。
「よろしいのですか」
「ああ、こっちでの文化のことは分からないから私の申し出で同室にしてもらったが、快適すぎてありがたいよ。その分のお礼にもならないかもしれんが」
「かまいません、我々は魔法に対して疎すぎますので、少しでも情報が欲しいです」
「うむ。まず何から話そうか」
そう言いながら、椅子に座った王様は喋り始める。
「まずじゃが、魔法使いとはこの世界に満ち溢れる魔力を媒介して神の御業たるあらゆる現象の一部を操ることが出来る者たちを指す。例えば、光をこのように出すなども魔法の一つだ」
そう言って、王様は掌の上で光の珠を出す。
「オルギウス王も魔法使いなのですか」
「左様。だが、私は通常級じゃ。大したことは無い」
「それでは、通常級や戦略級はある種の位分けなのでしょうか」
「魔法使いはその魔法の扱える規模や種類などからおおよそ分類される。多くの一般人、もしくは弱い魔法使いは通常級、その上に兵士として使える兵士級、その上に一つの小隊や歩兵を複数人纏めて倒すことが出来る戦士級、そしてさらに上に一つの大隊や歩兵の軍団を纏めて倒せる戦略級とある。その由来はたった一人で戦争の行く末を操ることが出来る、一つの戦略足りえる能力から由来する」
「お前」
「俺に、そんな力が?」
「森の民が言うのだから間違いあるまい」
とりあえずようやくまずいことになったと自覚が出来た。知っているのは王様と兄貴、そしてアルテアだけとはいっても、これがもしばれようものなら大変なことになる。
「とりあえず、あまり下手に魔法は使うなよ。もし話が本当なら、お前の魔法次第で国の行く末が変わるかもしれない」
「あんな話聞いて使おうと思うかよ」
「しかし、戦略級魔法使いは覇権国家に知られようものならどんな犠牲を払ってでも手に入れようとする国は多数あるはず。かくいう私も、もしお力を貸していただけるなら欲しいものだ」
「どういう事でしょうか」
兄貴が珍しく怖い顔をした。
「我がオルギウス国は肥沃な大地の恵みに富んだ国。畜産業と農業が盛んで毎年国民が食べる食料の十八倍は平均でも採れるから食料には困っていない」
「十八倍⁉」
「どうしているのでしょうか、その食料は」
「周辺諸国に売っている。しかしそれでも毎年無駄になる食糧は多く困っていた。何せ、敵国にも売らないと食料が国内で腐ってしまうのだからな」
「敵国とは?」
「サルバーン国。周辺では一番兵力の高い国だ。多数の飛竜を飼いならし、我が国の食糧輸出で食料にも困っていなくて、ミセバジャ王国を属領にすることで優秀な武器技術を手に入れた国だ。我が国も何時属領になるか分からん」
「……」
「本当のことを吐露するとな、不安なのだよ。何時サルバーン国が我が国に戦争を仕掛けないか。何せ国王不在ならばその隙に国王が死んだからと適当な理由を付けて属領統治をされようものなら国民がどんな目に遭うか分からんのだ。しかし、我は帰る術がない」
「兄貴」
「ここまでもてなしてくれたことは感謝する。だが頼みたい、どうか我が国に帰国する術を教えてもらえないだろうか。そうでないと、我が五百万の民が死んでしまうかもしれない」
「何とかならないのか」
「王、少々よろしいでしょうか」
「何だ」
「今から農林水産省と防衛省、我が国の食料生産に関する省庁と防衛に関する省庁に問い合わせます。そこでもしよろしければ食糧輸出について我が国に確約をしていただけないでしょうか。そうすれば私があなたの国をお守りするよう自衛隊、我が国の防衛戦力を動かします」
「本当ですか!」
「待て兄貴! いくら何でも戦争に派兵させるのは」
「派兵じゃない。現地調査だ。あくまで大量虐殺が起きているならそれを非難する声明文を通達の上でならどうだ?」
「ええぇ」
なんか無理やりな言い訳にしか聞こえないが、兄貴はそう言うとスマホを取り出して問い合わせ始める。
「はい、今ですか。京都市内のホテルに、なに⁉ それは本当ですか⁉ 既に衝突済み⁉ 誰ですかそんなことをしたのは、天下原学園の生徒三名⁉ 三名で先遣隊の三十名を、本当にですか。はい、はい。分かりました」
なんかすごい汗を兄貴が書き始めたが、兄貴は顔を務めて冷静にして話始める。
「オルギウス王、残念なお知らせから話すのをお許しください」
「何だ」
「サルバーン王国が既にオルギウス王国に攻め込んでおり、大量虐殺の確認も自衛隊により確認が取れたようです」
「そんな」
「……」
王の顔がゆがむ。最悪の形で事態が動いていることに動揺が隠せない。しかし、これに兄貴は続ける。
「ですが一方で、自衛隊所属の後藤特別陸士長及び天下原学園生徒二名がこの大量虐殺をした先遣隊を敗走させた模様です」
「なんと!」
「後藤って、後藤恵梨香の事?」
「ああ、お前の同級生だよ。普通なら問答無用で降格ものだが、事態が事態だから御咎め無しだろうな」
兄貴がすんごく嫌そうな顔をしている。
「これよりオルギウス王には、広島の呉にある海上自衛隊基地よりオルギウス王国に向けて船で移動していただきます。それから、即座に自衛隊の大量虐殺に関する調査に協力していただきます。あくまでも倭国では自衛隊は防衛戦力、自分達から攻撃することは正当防衛でない限り原則出来ないですが今回は事態が事態なので何とかしてみせます」
「頼む」
王様は強く願うのだった。
【補足】
笠松軍(かさまついくさ)……倭国の高校生。特殊な才能を持った倭国天下原学園に「超級の幸運」枠として入学した。帰宅部。アルテアに魔力を見えるように施術を施されたことで魔法を扱えるようになる。その能力は一人で戦局を変えられる程度にまで。18歳。
アルテア・ミフォール……森人と呼ばれる人々で、森の守り人という意味も持つ種族の少女であり、現在の族長の娘の一人。異世界に飛ばされた倭国の人の一人。見た目はエルフが近いが、エルフは森人が自分達を呼ぶ際の言葉のためどうして人間が知っているのかと疑問に思う(描写無し)。人間年齢18歳(実年齢80歳)。
笠松奥儀(かさまつおうぎ)……倭国天下原学園卒業生。「超級の交渉人」として入学した経歴を持ち、外務省の外交官をしている。24歳。軍の兄。
バステル・オウギルス……オウギルス王国現国王。笠松奥儀の元に召喚された国王で、現在国の未来を思って思案中。
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