第2話 観光1

「それじゃあ、二日間外出ですね。承りました」

「ありがとうございます」

 そう言うと、俺は校門を出てから物陰に移動。魔法を使って呼び出す。

「アルテア、大丈夫だよ」

 そう呼びかけると、魔法陣が出現してそこからアルテア……昨日の少女が出現する。

「何故だ。何故昨日の今日で空間移動魔法など使える。無茶苦茶だ、軍は」

「俺もそう思う」

 そう言いながら、俺は二人で外出をすることにした。

「それじゃあ早速だけどまずは俺の兄貴の所に行こう。流石に兄貴ならもしかしたら俺より既に何か情報を掴んでいるかもしれないし」

「情報を掴んでいるも何も、信用出来るのだろうな。その兄は」

「外交官しているから俺よりはこんな時でも大丈夫だと思うけれど」

「しかし驚きだぞ、魔法もないのにそこら中に鉄の馬が走っている。建物も空を覆わん程に高いし。神聖なる森の木には届かないが、それでも高い」

「俺はそんなに高い木が立つ森で生活していることが信じられないけれど、本当なのかな」

「な、誇りあるエルフが嘘をつくなど」

「ごめん、そう言う意味で言った訳じゃなかったけれど」

 少々プライドの高い彼女たちにはこれでも駄目なのかと反省して、俺は駅に向かった。

「霞が関だから、電車だね」

「電車?」

「な、何だこれは」

「何だって電車だよ」

「電車⁉ こんな鉄の蛇が速く走っている! 信じられないぞ! 本当にこれも魔法じゃないのだな⁉」

「うん、魔法じゃないよ」

 アルテアが驚きっぱなしなのをどうにか落ち着かせたくって素直に答える。周囲からは少し笑っているような声が聞こえるのが恥ずかしい。そんな思いをしながら、ようやく霞が関に到着して、外務省に向かって歩いていく。

「もうすぐ外務省、お?」

「どうした、何の音だ⁉」

「ごめん、スマホが鳴った。兄貴だ、タイミングぴったり」

「お兄さんなのか?」

「そうだよ。じゃあちょっと話すから静かにお願い。ああ、もしもし兄貴。うん、うん、今霞が関。そう、と言うより外務省にもうすぐで着く」

 そう連絡しながら、話を終えた俺はアルテアに伝える。

「兄貴丁度大きな仕事が一段落したから話せるだってさ」

 そう言って俺は二人で向かうのだった。

「お待たせしました。外務省異世界緊急対策部外交官の笠松奥儀です」

「アルテア・ミフォールだ。よろしく頼む。それでそちらがオウギルス国の国王なのだな」

「さよう、バステル・オウギルスだ」

「兄さん、俺帰っていいかな」

「天下原学園にはこれから沢山働いてもらうからお前も逃がすつもりはない」

 兄貴の笑顔に中指を心の中で立てながら、俺は話を聞くのだった。

「それで、異世界緊急対策室って仰々しい名前だけれど、それってつまり」

「ああ、倭国は異世界に転移した。それも国ごと全部がだ」

「やっぱり帰っていいかな」

「国税で運営されている天下原学園には、国家危機の際には生徒も危機解決に対して積極的に挑むように校則にあるんだ。卒業間近とはいえ生徒なんだから、素直に従うべきじゃないかな」

「でもさあ、信じられないよ。国家単位で転移? 証拠は?」

「まず一部の衛星が自動計算プログラムでどうにか修正したとはいえ、国家転移に伴い衛星軌道が変化してしまった。これ自体がまず転移した証拠。そして次に、これが機密情報なのだが、まあそのうち民間にも伝えないといけないから良いだろう」

 そう言って、俺は一枚の地図を見せられる。

「これ衛星写真? ユーラシア大陸みたいな大陸の他に、日本の南に知らない大陸があるけれど合成とかじゃないの?」

「残念ながらこれは合成じゃない。それぞれの大陸に現在使節団を派遣して、どうにか交渉が出来ないか模索しているところだ」

「マジか」

「既にこれは総理大臣や各省庁の大臣にも伝えられて、緊急で対策が取られているところだ。俺のいる緊急対策室もその一つだ」

「それさあ、ますます俺の関わる話じゃないよね。どうするの」

「お前にはこれから使節団の一人として、俺の部下になってもらう」

「……は?」

「丁度隣に昨日から軍と話をした女の子がいるみたいじゃないか。どうにか彼女たちとも国交を結べないか頑張ってくれ」

「嘘だろ。いきなり外交官の真似事しろって言うのか」

「駄目か?」

 ふざけるなよ糞兄貴。

「ちょっといいかな」

「何でしょうアルテアさん」

「私は神聖な森を守る民の一人、と言うより族長の娘の一人だが、難しいかもしれないぞ」

「どういうことでしょうか」

「理由は二つあるのだが、まず一つ目として我々は誇り高い民族だが国ではない。森を大切に出来ない民族とは関りを持つつもりはないから、それ相応の証拠がない限り条約も締結できるか分からない。それは例え我々を国と認めたとしてもだ。そして二つ目は魔法使いではない者を認めていないという事だ。神の恩恵たる魔法を使っただけなのに、過去には酷い迫害を受けた民族たる我々は魔法の使えない者との関りを認めていない。しかしこの国ではどうもその者が多いように感じる。すまないがその様な者たちと関われない」

「そこわ私も気になっていたところです。この世界では魔法が使えない者が多いのですかな?」

「そうですね。私たちは魔法が一切使えません」

「何と」

 オウギルスの王様の驚き様を見るからに、異世界では魔法は普通の技術なのだろうか。

「しかし、我々は物の理、物理や科学を探求してそれによって様残なものを生み出しています。それが異世界でどの程度通用するか分かりませんが、判断はそれを見てからにいたしましょう」

 そうして俺達はその後、新幹線に乗っていた。

「すごい、速いぞ! さっきまで乗っていた鉄の蛇より速い!」

「そうだね、アルテア」

「素晴らしいですな。鉄の馬も速いと思っていたのに、森の民が驚くのも無理もない」

「そう言っていただけて幸いです」

 政府専用新幹線(どうやって昨日の今日で調達したこの兄貴?)は、東京より京都に向けて出発。午後には観光を始める手はずになっている。

「森の民の方々が何処まで納得していただけるかは分かりませんが、倭国の木造建築を観光していただきます。オウギルス王もそれでよろしいでしょうか」

「ああ、構わん」

「エルフって森の中で住んでいるんだよね」

「あ、軍」

「なに」

「その、エルフと言う呼び方は出来ればまだ軍以外には言わないようにして欲しかったのだが」

「え?」

「エルフと言うのは我々が自分達を呼ぶ時の呼び名で、普通は他の民たちは知らないんだ。知っていても相当友好的な者たちだけだ」

「あ、え、ごめん」

「大丈夫です。私たちは聞かなかったことにいたしますので」

「私も森の民の意思を尊重しよう」

「ああ、済まない」

 そんな会話をしながら、政府専用新幹線は京都駅に到着する。それから、京都の寺社仏閣の観光を始めるのだった。

「素晴らしい」

「なるほど、これは洗練されたものですな」

「この法隆寺は日本最古の寺院として元居た世界では世界文化遺産として認められて、世界的に後世に残そうとする運動にも認められた由緒ある建造物です」

「最古と言うと、何年程度でしょうか。100年程度ですか」

「このお寺が建立されたのは約1400年前です」

「1400年⁉ 我々でもそんなに長生きではないぞ⁉ 君たち人間族はそれほど長生きなのか⁉」

「いえ、あくまでも細かい修復などはきっと行って来たでしょう。ですが、それだけの技術を継承し続ければ、1400年前の建造物もこうして残すことが出来るのです」

 二人が目を丸くしている。外国の人ってやっぱりこういう反応をするのかな。

「では、あの新幹線も」

「いえ、新幹線は1964年に東京と新大阪間、私たちが乗車した駅から今いる京都のもう少し西までの区間に開通してからなので割と最近できた技術です。それでも50年は経っていますが」

「50年前にはあんなに速い鉄の蛇が動いていただと?」

「大丈夫アルテア?」

 アルテアが頭を抱えている。

「しかし、ここまで魔法無しに成しえるとは。これでは魔法が形無しですな」

「そうとは限らないかもしれません」

「ほう」

 俺は魔法に対する自分の私見を述べる。

「最初は魔法の存在が否定されるかもしれませんが、俺が瞬間移動の魔法や空間転移の魔法の存在を証明すれば、これから倭国は魔法の研究を始めます。その時にはオウギルス王国は日本に魔法の教授と言う立場で優位を取れるかもしれませんよ」

「なるほど」

「軍、それではまるで魔法を使えるみたいじゃないか?」

「使えるよ」

「ん?」

「使えるよ、なあアルテア」

「すまない、私も想定外だったのだが戦略級の魔法使いだったんだ軍は」

「森の民の魔法覚醒能力ですか。ですが戦略級とは」

「あの、申し訳ないですが後程弟のことについて伺ってもよろしいでしょうか」

「ああ」

この時笠松奥儀は聞かなかったことにしたかったが、そうはいかないだろうなと頭を悩ませていた。


【補足】

新幹線……新しい幹線鉄道の意味は同じ。また、最高速度をどうするか決まっていないために何も言えないのだが、330km/h程度にしようかと思っている。因みに後述の天下原学園の生徒及び卒業生なら政府専用車両を緊急で手配できる場合もある。

天下原学園……国家運営の特別な学園であると同時に、世界的に優秀な生徒を育てることを目的とした特権的な学園。主人公やその兄の通っている、もしくは卒業した学園で、ほとんどの主要な重要人物(倭国に限る)はここの関係者。

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