第四話 ファンに拾われて配信者を始める
「ああああ!」
悪夢から目覚めた朝は最悪の目覚めだった。起きてみれば服は冷や汗で大変なことになり、寝つきも最悪だった。
「どうしたらいいんだ」
久しぶりに帰った実家の近くの公園で、自分は項垂れていた。
「まさか、会社都合で退職してそのまま会社の社宅も追い出されるなんて」
会社が無くなり社宅が証拠を押収するための立ち入り検査の対象となったことで住めなくなり、私は野宿をする羽目になったのである。
じゃあどこでやるのかという話なのだが、実はどこでやるにしてもいい場所が思いつかなかったのである。
個人的にはダンジョンの上層なんかモンスターも弱いし、野宿の場所に選ぼうなんて発想する奴が他にいるとも思えなくて良いんじゃないかと思ったのだが駄目だった。
理由は万が一真似する人がいて死亡事故が発生すると困るからだそうである。
結局、そのために実家の近くに来ていたのである。
「まあダンジョン内での就寝や長期休憩は遠征とか特別な事情がある場合じゃないとだめだしね」
あと睡眠系列の能力で無理やり眠らされた時とか。私いつも寝不足だから大変なんだよなあ。
「はあ、本当に気を付けよう」
「あの、質問良いでしょうか」
その時である。一人の女性が声をかけてきた。外人風っぽいが日本人の様な様子も見える。ハーフの女性だろうか。
長い金髪と黒髪の両方の色合いを持つ髪がきれいな女性である。
「はい。なんでしょうか」
「ありがとうございます。実は探している人がいまして」
「はい」
「あなた冒険者の夕凪さんですか」
「……人違いだと思います」
私はここで(負けるつもりはないのだが)追剥みたいなやつに出会った可能性も考慮していったん白を切ることにした。
しかし、相手は確証を得たみたいな感じで話しかけてくる。
「でも変ですね。この近くの人たちに同じ質問というか『この女の人を知っていますか』って聞いたら『近づこうとしただけで勝手に痛みがひどくなってくるから近づけない』って言っていたんですけれど。それって冒険者の自動迎撃が発動していますから間違いなくあなたは冒険者のはずなんですけれどね」
「……」
そう、自分も気が付いていたのだがこの近くの浮浪者の一部は確かに私に近づこうとしていた。
でも私のテイムしたボスモンスターの力で自動迎撃されていた。何をしたのかと言えば、近づくと肉体的、精神的にダメージを負うようにしただけである。万が一近づかれてもボスモンスターが殺さない程度に対処してくれるように指示をしていたし、要するにそれを彼女は突破した……いや違うな。
「朝になって起きたから迎撃の対象時間外になった。だから自己対処しろってことか」
「オーライ。だから私も近づけました」
「はあ、そうです。私が夕凪千尋です」
「イエース! 私立花弥生です。日本人です」
そのきれいな金髪で日本人かよって突っ込みは出なかった。だって夜からずっと朝になるまで待っていた可能性の高い奴に近づかれるのは軽めに言っても恐怖でしかないから辞めてほしい。
「それで、あなたは一体何の用で」
「はい! 私のパーティーに入ってください!」
「はぁ」
「お給料はあなたぐらい強い方の分は直接お支払いできないのでダンジョン産の素材の現物支給とかになっちゃいますが、その分分け前は多く出します。その代わり、私たちに特訓を付けてほしいんです」
「特訓?」
話の筋が見えなくて私は混乱する。
「あなた特訓っているの?」
「どうしてです?」
「だって、私の可能性には気が付いていてもちゃんと近くの人たちに話を聞いて対策を練って、朝まで待つ選択をしたんでしょう」
「はい」
「それにこれだけ話をしているのに、誰も違和感を覚えていない」
「はい」
そう。この公園の中でそろそろ人もまばらだが見えてきているのに誰も私たちに『違和感』を感じていない。その証拠に誰も話しかける様子がない。
「認識阻害の道具でも使っているのだろうけれど、それ高いでしょう」
「それを使ってでも私はあなたを雇いたいって決めましたので」
「いつ」
「それは勿論あの運命の時刻からです」
あ、なんか変な時間が始まりそう。具体的には凄く話が長くて聞くだけ無駄そうな時間が。
「あれは私に一通の変なメールが届いた時からでした。私も最初はスパムか何かかなって思ったのですが、そもそも私にメールかスパムを送れる誰かがいることがおかしいので興味本位で私は開きました。中にはここ日本の動画サイトのURLが貼られていました。なので開いてみて私は驚きました。ああ、日本に来たばかりなのに日本のトップクラスに強いなって直感的に感じられる冒険者の動画を見られるなんてって。他の人達は御徒町っていう街のダンジョンだから強いって思っていたようですが、私はそれ以外の理由で強いってすぐに気が付きました。ずばり立ち振る舞いです。あなたの体幹はとてもぶれていないんです。ありとあらゆる状況にすぐ対応できるようにしている体幹でした。それは正しくクッキーナイトの攻撃をいなして迎撃するさまや、変な方向に落下するもそのまま着地してすたすたと歩き始めてしまうあの動きからさらに確証を得られました。そして極めつけは水場に落ちてもすぐに泳ぎ始めることが出来る水場への慣れです。冒険者でも水場での戦闘は普通に考えれば苦手です。そもそも陸上の戦闘だけでも大変ですから。場数を踏む問題や、水中を主戦場とするモンスターとまだ慣れていない状態でいきなり戦わされるのですから普通は慣れる前に死んでいます。それが普通です。でもあなたは死なずに戦っています。それってやっぱりあなたが普通じゃないって説明になりますし。あとあと、バースデーミミックのテイムですが、私の直感的にはお互いにプレゼントを渡ししあう事をすればテイムできるんじゃないかなって思っています。そもそも、あのモンスター私に直感だと怖がっていました。多分強い力にも何度も殺されることにも怖がっているんです。モンスターが? なんて疑問も浮かびますが、モンスターを私たちの杓子定規な考えで推し量れないって言っている研究者の話って奴なんですかね。とにかく、あのモンスターは討伐することではなく友好関係を結ぶことがテイムの条件だと踏んでいます。それこそ、量子龍の様子も見ていて気が付いたのですが、あのモンスター寂しがっていませんですか? 多分沢山討伐したらテイムできたのかもしれませんが、案外テイム条件も『単一の冒険者だけで連続討伐を数回達成』もしくは『五十回程度の連続討伐を一人だけで達成』とかなんじゃないですかね。要するに量子龍の寂しさを満たしてあげるってことです。それなら量子龍が私にメッセージを送ってきたのも頷けます。だって私もボステイマーですが、最初の達成したモンスターは『会話をする』っていう条件の禁忌に触れた精霊女王ですもん。彼女が禁忌に触れた理由に共感して、そしてでも悪いところは指摘して改心させたらテイムできました。そんな私に量子龍はきっと期待したんですよ。私ならあなたの心に寄り添えるって……」
そこでようやく弥生は気が付いた。
「あー! 何処に行っているんですか。呼び戻してください精霊女王!」
「うわ! 呼び戻された!」
そこでそう指示をすると、千尋が呼び戻されて再び私の前に現れたためこう切り出す。
「さあ! 私のパーティーに入ってください!」
「どうして」
「配信者になるんです!」
「はぁ!」
私はあの配信で確信した。それを声高に宣言する。
「あなたなら! 日本一の配信者になれますから!」
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