第二話 深層攻略を出来る冒険者

「煩いなあ、今日は一段と」


 連絡端末にさっきから入る何かの連絡が来たバイブ音と振動に苛つきながら、私は慣れた手つきでトランプファイターを倒していく。

 防御力が数字の数だけより固くなるが、スートか人の顔さえ狙えばいくらでも倒せる。今言った箇所は他よりとても脆いのである。


「よっと」


 そして、タイミング的にそろそろ来るかなと思ったタイミングでファンタジーパペットやマジックキャンディの魔法をトランプファイターを盾にして躱す。

 こういう時に面積の広い敵は役に立つ。敵の攻撃にあたる位置に移動するだけで自然と倒れてくれる。


『トランプナイト蹴って魔法躱したぞ』

『キモい』

『そうかな? 私はとても興奮しているぞ』

『普通A級ダンジョンのモンスターなんかあんな風に倒せないんだって』

『だからだよ。ジャパンはやはり強いテイマーが沢山いるんだなって』

『モンスターと自分で戦っていてどうしてテイマーとして強いってなるんだよ』

『そっか、そう言えばモンスター一体も使っていないな』 


 普通初心者の冒険者ならいざ知らず、ある程度歴のある冒険者なら自分の集めたモンスター達に戦わせることが出来る。


『いや、映していただろう』


 それが『コレクトシステム』である。

 倒したモンスターや特定条件を満たしたモンスターは主人と認めた相手に従うようになる。それをテイムと言う。


『というか、今も映っているじゃないか』


 そして、そのモンスターを野生のモンスターと再び戦わせることが可能になるのである。

 そうやって冒険者はより深くの迷宮へ探索に向かっている。


『戦わせていないが、後ろにモンスターが』

『もしかしなくても量子龍』

『何で戦わせないんだよ』

『さあね、でもこれはメッセージかもね。あのモンスターが主人を助けてって』

「さて、次の部屋に」


 向かおうとして部屋を出た瞬間に重力が歪む。そして今まで向いていた重力と違う方向に引かれて。正面に落下する。

 当然正面から地面が迫ってくる。


『うわ!』

『前に落下した!』

『こんな事あるのか』

『A級こわ』


 そんな風にコメント欄が盛り上がっていることなど露知らず、画面の中で彼女は落下して地面がぐんぐん近づく。


「ホッ」


 そして地面にぶつかる瞬間、落下した地面にスタッと着地したらそのまま歩き始める。

 なんてことはない。猫がグイッと体を曲げて体勢を整えるようにしただけである。


『ええ? なんかスタスタ歩いているけれど』

『今の何か向きがグンッて曲がったのキモい』

『これが重力の違うダンジョンか。面白いね』

『何で着地できんの』


 そして道なりに進んで途中で右に曲がるとグンって左に重力がかかり足場から引き離される。

 どうやら再び足場と重力の向きが違う場所に出たようである。

 そして水場に落下する。


 ドボン!


 そんな水飛沫が上がると同時に、今度は水中戦のゴングが鳴る。


『シャー』


 水中に住み着く魚型のモンスター、ロケットカジキが狙いを定めて迫ってくる。しかし、彼女は相手なんかしていられないと全力で泳いで逃げる。


『意味不』

『なんで泳いでモンスターから逃げられるの』

『泳ぐべき方向もわかっているみたいだね。凄いね彼女は』

『もしかして、慣れている?』

『私も同感だ。彼女はこのダンジョンに慣れている』

『慣れているって、こんな危険なダンジョンにか』

『おつ、どういう状況?』

『A級ダンジョンで魚型のモンスターから逃げている』

『しかも泳ぎで勝っている』

『冗談厳しいって』

『いやでも本当なんだよ』

『そうだぞ! さっきまでクッキーナイトとか倒しまくっていて』

『……マジで?』

『お? 後少しで五千万人行くな』


 画面の向こうの少女はちょうど陸に上がった所で、そこで何かを待ち構えていた。


『シャー』

「よっと」


 陸にまで飛び込むようにカジキが上がって攻撃しようとしてくるが、それの槍のように伸びた突起を掴むと再びバットのようにフルスイング。

「吹き飛ばす!」

『シャギー』


 他にも飛んできたカジキを掴んだカジキで吹き飛ばすのだっだ。さながら野球のバッターがボールをホームランするようである。


『何これ』

『すげえええええ!』

『めっちゃ可愛い子がえげつない攻撃しとる』

『これCG?』

『いや、リアルタイムっぽい』

『本当に凄いね、それしか感想がないや』

『仲間にしたいな、仲間にしたいな』

『あっ、ずるいぞ』

『先にスカウトしたのは俺だ俺だ俺だ俺だ俺だ』


 じゃあ、次行くか。そう言いながら少女は服装を整えると扉を開いて、中のボスモンスターに相対する。


『こ、来ないで』


 バースデイミミック。この迷宮のボスであり、私がタイムの方法を見つけられていないボスである。


『こ、来ないで!』


 早速クッキーナイトやトランプファイターを投げてくる攻撃。あのボスモンスターには明確に弱点が存在する。


『ホッ!』


 遠距離からの攻撃に弱い。というより、一切として動かないボスだから散々やってきた「敵をぶん投げる」攻撃が効果覿面なのである。


『いや! いや!』


 そしてもう一つ。敵がクッキーナイトに当たり怯んだ隙に彼女は全力疾走。からの垂直な壁の様なそれを蹴って登っていく。そして上まで登りきると敵の殻たるプレゼント箱の中に大量の爆弾を投げ入れる。


『じゃあ、閉めるね』


 そして、映像の中ではボスモンスターに相対していた対象が魔導具を使いプレゼント箱をギチギチに拘束して密封しようとするところに移っていた。

 それを阻止しようとしたミミックも無理やり押し込まれて閉じ込められる。

 そして密閉状態の殻の中で爆発音がする。


『討伐完了。テイムは……失敗』


 その映像に視聴者は歓喜した。


『なんだ今の!?』

『ボスRTA来た!』

『おい誰だあの冒険者!』

『なんだい! 彼女は有名な冒険者なのか!』

『知らない』

『探せ! 今ならスカウトできるかも!』


 そんな風に皆が声を上げる中、一人の女性は立ち上がると外に出る支度をする。


『ふふ、見つけた』

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