第34話 シフォン

「な、何者なんだ! この膨大な魔力は⁉」


 何か機械のような物を見ながらオドパイエ……帝国の密偵の少女は焦っていた。


「魔力センサーが計測を出来ていない量の魔力が放出されている、いや、今の一瞬で充満した……どういうことだ!」


「聖域ではないからですわよ」

「は?」

「聖域とは、聖域の魔物と呼ばれる様な存在がその存在にとって過ごしやすい環境に改造した地域です。そんな場所に本来なら住まないといけないような、住む環境を自分で住む環境さえ作る事が出来てしまうような存在が何の変哲もないような場所に現れたらどうなると思いますか」


 メルビーはごく自然な顔でこう言った。


「まさに今の様な状況……一部の存在だけが気が付く異常事態が発生する。そういう事か」


「「 この世界で何よりも強い生物、いや存在そのものですよ。人間の尺度で計測出来る訳ないじゃないですか 」」


「モミーさん言葉被せないでください」

「てへ、やってしまいました」

「とりあえずさ。扉空けて良いよね」


 そう言って、パムラが扉を開ける、そして「なにこれ⁉」という声がして俺も慌てて外に出ることで……驚倒をしそうになった。


「俺の街が……完成している……そんな馬鹿な?」

「これが聖域の魔物の力ですわ」


 メルビーはそう語った。


「これは完全にコントロール出来ていない個体が作りましたね」

「どういうことだ」

「聖域の魔物とも呼ばれる様な存在は自分の生活しやすい環境にその周辺地域を変えてしまいます。たとえそれが本人のどの様な思惑にもよらず。そして今回の場合には」

「俺の街の……完成形?」

「まず間違いなく海良の生きている間の完成形か何かを参照しているから、こうなったのかな? もしくは国や地域として独立した瞬間とか?」


 俺の生きている間の街の……完成形。一体何年分の計画を圧縮すれば出来るんだ。その位……建物の建材のきれいさと技術や、遠くに見える飛行する何かの存在が俺には魔法のある世界だからこその近未来世界であるそれを連想させて来る。


「あ……あの……」

「マニュエチ……どうした?」

「先ほどこの方に話しかけられて……」

「ぐす……ひぐ……ここ何処?」


 頭の上に幾何学模様が動いている(?)変な女の子が泣きながらマニュエチに抱き着いていた。なんかマニュエチの体を幾何学模様が貫通しているし……これは一体何なのか分からなくなってきた。


「あの……この子は一体」

「分からないんです……町の風景が変わったと思えば、突然この子が何かに狙われているから助けてって言いながら何か魔法を使ったみたいで」


 マニュエチのその言葉に俺は何も思わなかった。しかし何時からいたのかテノサは違和感を覚えたみたいで確認をする。


「まさかと思うが……その存在は魔法を詠唱、もしくは使用した瞬間の過去に発動出来るのか」

「何言っているんだ」

「だって、町の風景が変わったのは明らかに魔法が発動したからだろう。実際、世界は街としか言えない光景になっている。そして発動は合流をしてから」

「どうなんですか」

「ぐす……ひぐう……」

「泣いてばかりじゃなくって説明してくれ!」


 俺はそこで少し強めの口調で聞く。


「どうなんだ!」

「ぐす……そうです。私がやりました」


 その言葉に、多くの者が驚愕をした。魔法を発動した瞬間の過去にさかのぼって効果を発現させる。そんなことが許されたら何でもありである。しかもこの規模の魔法だなんて……無茶苦茶だ。


「一つ確認しますが。この魔法は写し鏡のように切り離された別の空間を作り出す魔法ですよね。あくまでも現実の世界そのものに干渉する魔法ではない」

「うん。そんな現実を変える程度の魔法も私出来ないから。疑似的な空間作成魔法しか出来ないから」


 なんだろう。突然今まで出会ってきた人達だって強いはずで、世界的に見れば十分規格外の存在なのにそれを超越するような存在がポイっと出てくるとこんな風にまず呆れるのが先に来るんだなって勉強になった。


「どうしてここに来たのか分かるかな」

 そんな存在に、パムラは話しかける。

「何かね、怒られたの」

「怒られた?」

「うん……意識があるのが、感情があるのが、思考があるのがおかしいから駄目だって怒られた。だから捨てられた」

「誰に?」

「分からない。そもそも皆気にしたことも無いし、私も調べることが出来なかったから分からない」

「とりあえず飯でも食べたらどうじゃ」


 そう言ってアレインは何か料理を持って来た。トプシュワも持って来たようである。


「怖いじゃろうがわしらも帰りたいからこの魔法を解かないといけない。ならば頑張るだけじゃ」


 そう言って、彼女は食事を振舞う。


「名前を先ずは教えてもらわないとな」

「名前? 無いよそんなの」

「何じゃと」

「無い物は無いもん……」

「ええい、海良。お前名付け親になれ」

「はあ⁉ なんで突然」

「良いから」


 何故突然そんな事をしないといけにあのか。俺は不思議に思いながらも、とりあえず名前を提案した。


「シフォン」

「シフォン?」

「ケーキ?」

「パムラふざけないでくれ」

「でもだってそうじゃん」

「シフォン、シフォン、私の名前」


 その時だ。世界が僅かに……強くなった?


「なあ今何か起きた気がするが、何だ」

「世界が強固になりましたね」

「は」

「彼女が出したこの世界、これがより強固になりました」

「いや、だからどういう意味」

「普通にシフォンちゃんがこの世界に私たちといたいと思った結果だろうけれど、帰りにくくなったね」

「ちょっと待てや! 帰りにくくなったってあかんやん!」

「シフォンちゃん、私達帰りたいんだけれど」


「嫌!」


「嫌じゃなくて」

「もう嫌なの! 捨てられるのは! 一緒にずっといたいの!」

「一緒にいるなら此処じゃなくても良いよな。俺達は向こうの世界に帰りたいんだが」

「嫌! 向こうは怖いの! だから」


「わがまま言わない!」


 俺はそこでしかりつけた。


「シフォンは沢山の人を困らせたいわけじゃないでしょう! それともそうだったの」

「違う! 嫌なの1 嫌なの!」

「違うなら帰す! 嫌なら俺達が守り方教える! それで解決でしょう! 嫌な思いはさせないようにするから! それとも俺と一緒にいても嫌だ!」

「……嫌じゃない」

「なら帰せるよね」

「うん」


 そう言うと、シフォンは魔法を解除して元の世界に戻すのだった。




 何者なのか。私はそこに興味を逆に抱き始めていた。

「面白いじゃろう。あいつはそういう奴じゃ」


 アレインがそんな私を見てか近寄って来る。


「聖域の魔物を叱る……それこそ子供みたいに扱うなんておかしいよ」

「あの魔物は精神年齢が若いからこそ出来る芸当じゃな。全てのあのような存在を一律に敵だとしている帝国ではきっと出来ないじゃろう」

「それもそうだけれど……なんであんなに信頼されているの? 今日初めて出会ったんだよね?」


 それにはアレインも言葉を窮するが、一つだけ呟いた。

「何か秘密があるのじゃろうな。どこかで信用するタイミングがあるから、そこに引っ張られて思ったより早く信頼してしまうとか。なんだそれはと思うがの」


 その言葉はばかげていると私は思う。しかしそうじゃないと説明が出来ない。

 あの聖域に私もいた事。

 私も、あの魔物を受け入れていたこと。

 私も、出会って直ぐのあの人を……愛おしいと思っていることを。

 少なくとも、あの聖域に行くまではそんな感情を抱いていなかったのに。

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