第7話 魔女

「ここか」

「うん、多分そうだね」

「ジャシュカは怖がらないんだな」

「だって、怖がる必要が無いでしょ」

「何か頼もしい方ですな」

「ただの無知じゃない事を祈るばかりだけれどね」


 そう言って、俺達はとある場所にある塔に来ていた。場所としては正直魔王城への道からは外れているのだが、それでも行く価値があると判断して。


「さて……一応持って来たけれど……これ何なんだ」


 そう言って、俺は俺達に伝言をしてくれた男の死体をローブの中から取り出す。


「あんたもその不可思議な物の取り出し方何とかならないの」

「別にいいだろう。錬金術師としてのやり方なんだから」

「こんな反則的な道を作れるの、本当にどうかと思うわ」

「まあ、しかしこうして運べたのですからよしとしましょう」


 その男の伝言によると、まず塔に入るには所定の合言葉を伝える必要がある。後、最低限の知能か力がある証明としてこの死体を運ぶことも盛り込まれていた。


「趣味が悪いと思うが、まあ行こう」


 そう言って、俺達は塔の入り口に向かうと合言葉を言う。

「幻装魔女に面会を求める」


 そう言うと、扉が光だす。そして輝きが収まると、扉が大きな音を上げて開き始める。


「ようこそ、魔女の塔へ」

 扉が開けば、男と同じような見た目の……死体が流暢に喋り始めた。


「あの、ここは」

「お客様が到着なされました。ご案内いたします」


 なんか……死体だから今更だが、人間の様な感じを放棄した何かに案内され始めたようなので……俺達は仕方なく塔の中に入るのだった。

 そして、塔の中央にある巨大な円筒状の何かに案内をされる。


「塔の中ではお客様のみ、こちらの昇降機で最上階まで移動していただきます」

「はい」

「最上階で別の案内人に引き継ぎますため、よろしくお願いいたします」


 その声と共に、喋っていた死体はどこかに行ってしまう。


「ご案内いたします」

「うわぁ⁉」

「男の死体⁉」

「次の案内の人」

「この男に案内をするために、連れて来いと」

「悪趣味にも程があるわね」


 皆が各々それぞれの感想を述べる中で、俺達は昇降機に乗って最上階に向かう。


「では、最上階でございます。正面の部屋に、魔女様はおられます」

「はい」


 男の死体は扉の前まで歩くと、そのまま扉をノックしてから開ける。

 開けられた部屋に入れば、そこは何かの処刑場、もしくは実験場を彷彿とするような不思議な部屋だった。


「ようこそ、私の塔へ。歓迎するよ、賢者。後、魔王や他の皆も」

「ああ」

「お茶を持って来させようか」


 魔女が何か指を鳴らす。すると、部屋の内装が動き始めてテーブルが現れる。

 そして、人数分の椅子も用意される。


「座りたまえ。もうすぐでお茶が届く」

 すると、確かに部屋の扉が開いて、女性の死体と思しき何かがお茶を配膳し始める。

「あの、つかぬ事をお伺いいたします」

「ああ、何だい」

「この度々見かける人たちは……何なのです?」

「これかい。私の召使だ」


 魔女は端的にそう言い切った。だからこそ俺は瞬間的に恐怖した。


「召使……だが生きている様には」

「そう。生きてはいないさ。全部死体だ」

「死体」

「死体に魔法と足りない外骨格を与えて作ったゴーレムなんだ。名付けてアンデッドゴーレム。どうだい」


 正直人の心とか無いのか、そう思う様な死に対しての冒涜だと思った。


「まるで死に対しての冒涜。そんな風に思っているような顔だね」

「顔に出ていますか」

「おい賢者! そんな馬鹿正直に言わなくても」

「おかわり」

「ジャシュカも!」


 ジャシュカがお茶をおかわりする横で、俺は素直に語った。


「正直生への冒涜とも思える状況、それこそ魂と肉体が偶々同じ座標にずっと存在し続けているだけの俺に言われるのは不服かもしれないが、良くこんな実験を出来るな」

「二つの意味で君に言われたくはないけれど」


 魔女はそう言ってお茶を飲むと、ゆっくりと話始めた。


「でも、私と君は似ていると思うんだ。他者から理解を得てもらえない。表面的には認められても、本質的にはそうとはいかない。だからこそ」

「力になれるって」

「ああ」


 俺は正直この相手とやれるのか。不安になって来た。


「俺は今魔王軍の一員として動いている。別にお前のために動くつもりは毛頭ない」

「なるほど、つまり私が魔王軍のために動けばいいのかな」

「何?」


 俺はその言葉に正直大丈夫かと疑念を抱いた。多分他の人たちも同じような感じだろう。だが、魔女は提案をしてくる。


「まず、私がこの魔界で生活出来ている基盤の技術を教えよう。食材の調達、水の調達、その他にも役に立つ技術を幾つも持っている」

「それを本当に何の見返りもなしに」

「まさか、見返りは求めるよ」


 そう言うと、魔女は近寄ってきてこういった。


「君の魔法の秘密や技術。教えて欲しいな」

「俺の魔法か」

「うん。それがあればかなり君の力になれると思うよ」

「魔王の力になれる、そう言わない理由は」

「だって、まだ私よりも弱い魔王に従うつもりはないから」


 その時の魔王の悲しそうな顔は……多分忘れないだろうな。そう思った。だからこそ。


「ついて来るなら勝手にしろ」

「?」

「だが、俺ではなく最後は魔王に従うと言う。これがついて来る条件だ。それが守られるまでは俺はお前に技術を教えよう」


 その条件で、魔女は納得したようだ。


「はは。こんなに嬉しい気分になるのは久しぶりだな。何年も若返ったみたいに嬉しい気分だ」


 正直この魔女を連れていく。それは怖い気がするが、それでもそれ以上の条件を既に提示されている以上、俺達に最初から断る権利は無かったのだろう。だからこそ。


「さあ、入り口に客人でない奴が待っているから、外に向かおう」


 そう言って魔女に案内をされて、塔の外に出る。




「魔王様! 魔王様! どうしてこのような場所に入られたのですぞ!」


 外に出るや否や、塔どころか山のように大きな亀が嘆いているのが見えた。


「オファルオリゴル」

「魔王、知っているのか」

「ああ」


 先代魔王の側近の一人だ。そう言った。

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