第12話 闘技場

 ギルドでいつも通り仕事の報告をしていた。その時だった。

「あの、先日お伝えした闘技場のお話は検討いただけましたでしょうか?」

「闘技場」

 そう言えばそんな話もあったな。受付嬢さんお言葉でそう思った。しかしだ……。

「残念ですが、前向きな検討は出来ないです。自分は別に妖精達で争う様なつもりは」

「それはいけないねぇ」

 そこで、一人の男性が受付嬢さんとの話に割って入って来る。たしかあの太った腹は……ギルド長?

「君の様な沢山の妖精を抱えている冒険者は是非ともギルドとしても闘技場に推薦をしたいんだ。珍しい妖精と契約している人がいるのであれば是非とも」

「いや、俺別に珍しい妖精と契約なんてしていないです。だから」

「是非とも! 君には闘技場に参加して欲しいんだ。ギルド長である私の話が聞けないのかね?」

「……いえ」

「では、よろしく頼むよ」

 そう言って、ギルド長は戻っていくのだった。

「申し訳ありません」

 受付嬢さんの空しい声だけが俺の耳に残った。

 闘技場に到着して、俺は早速ここに来たことを後悔し始めた。

「これは……」

 そこはまさしく戦場だった。

「いけええええ!」

「潰せ潰せ!」

「強いわよ! セリウス様!」

「悪趣味ね」

「全くだ」

 映像で流れてくる妖精達の勝負の結果を見ているが、どれもこれも悲惨な物だった。

『剣妖精対酸妖精 剣妖精:溶傷 酸妖精:裂傷 酸妖精の勝利』

『時計妖精対雷妖精 時計妖精:故障 雷妖精:無傷 雷妖精の勝ち』

『羊妖精対鳥妖精 鳥妖精:羽損傷 羊妖精:無傷 羊妖精の勝ち』

 確かに勝負事だから覚悟はしていた。だが、ここまで妖精達が傷をつけあう様な酷い試合を行うなんて思わなかった。生活と直結している妖精達だぞ……。

 そう思ったが、俺も戦わないと帰してもらえなさそうであるため仕方なく参加することにした。

「あの、ギルドから来た葛城です」

「カツラギ様ですね。お待ちしておりました。本日はギルドの紹介で戦う、そのように伺っておりますが間違いないでしょうか」

「はい」

「では、休憩室にご案内いたします」

 そう言われて、俺は休憩室と呼ばれる場所まで案内される。

「では、こちらでお待ちください」

 受付嬢はそれだけ言うとその場を離れてしまう。俺は休憩室の扉を開けて中に入ると、その惨状に顔を顰める。

「……ごめん、ごめんな」

「おい! お前強い妖精いるみたいだな、よこせ」

「ふざけるな! 闘技以外での妖精のやり取りは!」

「眠い。五月蠅いから静かにしてよ」

 とてもじゃないが姿を休ませられるものではなかった。何故かって……妖精の羽を見て嘆いている人がいれば……何か言い争いをしている強面の顔と小柄な人、そしてそれらを全て呆れた顔で見ている女性。この状況でどう休めというのか。

「……あ? お前新人か?」

 そこで、俺に何者かが話しかけてくる。

「お前どんな妖精と契約しているんだよ。見せろ」

「どうして」

「はぁ? お前闘技場によこされるなんて、ギルドから期待されていないって事だろう! そんなことも気が付いていないのかよ」

「……」

「妖精の売買とかやり取りとかが出来る代わりに、ここは無法地帯だ! だから! 俺がこうやってお前を殴って!」

 ガンッ! その場に何か硬いものを殴ったような鈍い音がする。

「いたっ! おい! それは……」

「鎧妖精……だよな」

「あっているよ。少し嫌な予感がしたから何時でも助けられるようにしてあげてって伝えていたの」

「ペスティ。助かった」

「鎧妖精だと。いいなあ、その強い妖精よこせ!」

 男がそう言って突撃してきた際、今度は頭上から硬い物が落ちてくる。

「いたっ! 今度は何」

 そして、足元がおろそかになった瞬間に水たまりで滑って。

「ガッ! ああああああああ! 痛い! 痛い! なんだこれ!」

 思いっきり尻餅をした瞬間に顔に酸が当てられて痛みを訴え始める。

「お前達」

「行きましょう。どうやらもう試合みたいよ」

 ペスティにそう伝えられたため、俺はその今も痛みを訴えている男を放置して休憩室を後にした。

「初心者と戦うのは不本意だが、まあこれも仕方あるまい。君には私の礎になってもらおう」

「まあ、よろしくお願いいたします」

 相手はさっきまで戦っていたこの闘技場の人気の人らしい。さっきからこいつの名前を呼ぶ声がうるさい。

「さあ、私の妖精はこれだ! いけ! 虎妖精!」

 そう言って妖精の姿は見えないのだが、虎妖精だという妖精が飛んでいるのが見える。

「花妖精」

 対する俺は花妖精を行かせる事にした。

『セリウスはいつも通り虎妖精、堅実な強さを誇る妖精です。しかし挑戦者なんと出したのは花妖精。これは勝負の結果は既に決まったか』

 嫌な実況が聞こえてくる。しかも俺の名前も呼ぶ気はないらしい。しかしそんなことを気にする人は誰もいなくって審判も立ち上がる。そして、何者かが妖精の力を利用した装置を使うと、俺と相手の間にある戦闘場に妖精の姿がくっきりと見えるようになる。

 これも闘技場ゆえの特殊性なのか分からないが、面白い。

「頑張れよ。花妖精」

『! はい、がんばるのですー!』

 声も伝わるのか、だったら……。

「試合開始」

 花妖精にギリギリで伝えた作戦を花妖精が出来るのか。それは分からないが、やるだけやってみることにした。

「ははは! 逃げてばかりではこの虎妖精からは勝利は取れないぞ! 花妖精は弱いなあ!」

 そう言って相手は煽りながら虎妖精の攻撃が繰り出される。鋭い爪の攻撃を何度も花妖精は躱し続けていた。正直それだけでは確かに勝つことは出来ないであろう。

「でもさあ、花妖精は出来ることが増えたみたいだからさ。見せてもらうよ、その力」

「ほう、何が出来るのだと」

 ふらっ……ふらっ……ぱたっ。

「むっ、どうした虎妖精。虎妖精?」

「眠っただけだよ」

 そう言って俺は種明かしをした。

「眠り花。睡眠薬として調合する際にも用いられる花の根っこの成分をまき散らせないか花妖精に聞いたんだ。答えは『出来る』だってよ」

「なに? つまり虎妖精は……」

「ああ、眠っている。やりたい放題だ」

「! 起きろ虎妖精! このままでは!」

 そう言って相手は慌てて戦闘場の中央で眠っている妖精に話しかける。しかし花妖精のまき散らした成分で眠っているためか中々起きる様子がない。

「さて、取引といこうじゃないか」

「なに」

「このまま俺と勝負を続けるか、負けを認めるか。選べ」

「何を! 負けを認める訳が」

「良いのか。認めないとこのまま羽を取られるとかやりたい放題だぞ。それよりは此処で負けを認めた方が互いに傷が浅いと思うが」

「貴様! 初心者の癖に偉そうに!」

「選べ。主導権を握っているのがどちらか分からないのか」

「グッ、分かった。負けを認める」

 そこで相手が負けを認めた。これにより、審判も判断に(なんでか)困っていたようだが判断を下す。

「こ、この勝負。挑戦者の勝ち」

 闘技場からはブーイングの嵐が聞こえてくる。

「ふざけるな! なんでとどめを刺さないんだ!」

「こんな勝負があっていいのかよ!」

「セリウスの腰抜け! もっとしっかり戦え!」

「どういうことだ!」

 ギルド長にもその一報は伝わっていた。

「何故あの元契約無しが闘技場で負けないで勝ってしまうのだ!」

「分かりません。しかし、明確なずるをした証拠が出ないようであれば何も我々にも出来ないために」

「くそっ」

 ギルド長たちのそんな会話を聞いて何人かのギルド職員が「ああ、これは減給とかにならなければいいな」なんて考えている一方で、葛城の担当受付嬢は心配そうにその会話を聞いていた。

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