第31話 勇者とは
「本当にパパが迷惑かけて申し訳ありませんでした!」
黄色の肌に金髪の少女は、そう言って謝るとさっきまで戦っていた議長に対してキッと睨みつけた後に話し出す。
「改めましてモミー・グレマリン。円卓会議の最高議長をしているパパの娘です」
「パパの娘という違和感のある言葉の使い方はやめなさい」
「五月蠅い! それより勝手に戦った無礼に対して謝る方が大切でしょう! ママに言うよ!」
先ほどからそのような調子で議長はペースこそ崩さないようにしているっぽいのだが、終始話に入って来たモミーという女性にたじたじである。
「どうするのさ! そもそも『勇者になるのは決定事項』でしょ! なんで余計に勇者を止める理由になるかもしれないことを作ろうとしているの」
「え」
勇者になることが決定事項。その初めて聞いた内容に俺は確認を取る。
「勇者になるのが決定事項ってどういうことですか」
「え。だってママに勇者として認めるって言われているんでしょ」
「いやあの、そのママって誰の事ですか」
「誰ってそりゃあ『パシファ』ママだけれど。聖域に今は住んでいる」
パシファ……パシファ⁉
「パシファって、あの聖域の魔物って言われて追いやられた!」
「魔物ではないですがね」
「うん。私も魔物ではないと思っているよ」
いや、確かに自分達の認識と照らし合わせればきっとあの方は魔族になるし、それ即ち人間であると認めたようなものであるのだが。
「にしたって確かにあの時勇者として適当であると認められましたが、だからってそんな」
「あんた勇者として認められていたの⁉」
「何と! 勇者じゃったのか!」
そこで、ミルミが飛んできて詰め寄り、アレインも目を輝かせてくる。
「おい、一体何だよ!」
「あんた! 勇者に認められるってどういうことか分かっているの⁉」
「はぁ?」
「あのね! 勇者として認められるっていう事、それも世界にちゃんと『勇者である』と定義されるのって大変なの」
何の話だ。俺はそう思う。
「まず確かに初代の勇者の血族として関係者が強くなるのは分かっている。そして、一定の強さを持った人たちが魔法学校や冒険者統治機構、そして円卓会議の決定を進めたうえで決まるのも」
「そっちではなく、初代の勇者と同じ『世界に勇者と定義される』方の話じゃな」
「え」
「そういう事。そんな世界に勇者として定義されるなら私が敵う道理が無かったんだよ。本人には勝てたかもしれないと言われたあれだって、結局は負けたしね」
「待ってくれ、話しが見えない。俺がやっていたのは勇者試験じゃないのか」
「勇者試験ですよ。ただし普通の勇者とは若干違いますが」
そう言って、ガーリッシュさんが話し出す。
「まずそもそも、勇者として認められるにあたり円卓会議の任命が本来は最後。しかし、その円卓会議と同程度の発言権を持った存在が冒険者統治機構の任務達成の確認より早く終えた時点で既に既存の勇者試験ではなくなったんですよ」
「既存のではないって」
「つまり、初代の勇者と同程度の才覚を持った存在の誕生。それが本当に起きているのか。それを確認しないといけない段階に来ているのです」
「それで、ママがもう認めているのだからやる必要が無いって判断の私と」
「それでもやるべきだという私の意見で対立が起きた結果娘は不要だと訴える戦闘をそれでも私は行っているわけですね」
な、何だそりゃ。
「要するに俺は、結局何なんですか」
「勇者ですよ。名義上は」
「まあ今の世界に多数いる勇者とは天と地ほどの差があるくらい違う存在になるように既に定義された可能性はあるけれどね」
「あの、さっきから言っている定義って何なんですか」
パムラが俺の代わりに聞きたかったことを聞いてくれる。
「運命、ですかね」
「運命?」
「ある種の法則性には則っていると予想はされているけれど、実態として実例が今まで観測されているのが一例しかないからこそ本当に正しいのか分からない現象だね。世界に対して『世界に既にある言葉から自分がどのカテゴリーに入るのか決められる』のではなくって『自分が新しいカテゴリーを作ってしまい、それこそが自分だと定義する』とでも言うんだろうかね、私もいまいち分かんないや」
「いや、何の答えにもなっていない気がするのですが」
「とにかく、君はね特別な存在なの。第三者的に勇者として認められた存在とは違うの。初代の勇者と同じように『誰に認められる訳でもなく自然と勇者だと思わせてしまう』そんな存在なの」
なんじゃそりゃ。そう思ったが、しかし実態は正解だったのであろう。
実は勇者になるための道だと書いたが、確かにこの後儀式は行われた。
「とりあえず、実際にやれば分かるでしょう」
ガーリッシュによって儀式が行われる。空中に指を動かすことで円卓会議にのみ引き継がれる勇者としての認定の魔法が起動する。それによって勇者としての儀式が行われて、勇者として認められる。はずだった。
「やはり」
「失敗したみたいだね」
「……何がです」
「勇者として認める魔法がですよ」
「は?」
「それはつまり、勇者に海良様はなれないという事ですか」
「違いますメルビー様」
ガーリッシュさんが否定する。そして、恐ろしい事を言い出す。
「彼は既に私以外の者によって勇者として認められています。もちろん私の妻ではありません」
「ママはあくまでも勇者として認める魔法は使えないはずだからね。聖域の守護獣がそんな事が出来るなんて一大事だしね」
「……」
誰にだよ。
「誰に、じゃあ勇者として認められたんですか」
「分かりません。勇者として認める魔法を使える者としか言えませんが。しかし言えるのは、勇者は勇者と言いながら実態は『私より弱い』はずであるという事です」
「何かおかしいんですか」
「おかしいのは正確には私がだね」
そう言ってモミーさんが話に入って来る。そしてこれまた予想だにしない方向から話をしてくる。
「まず私もメルビー姫様たちと同じだーんな様の仲間である訳だけれどね」
「待って、何の話」
「だーんな様?」
「メルビーそこは待ってくれ」
「……普通勇者の仲間って勇者に勝てるとしても絶対的な勝率を誇るほど強くはなれない、もしくは仲間がいる限りは何らかの勝ち筋が確実に残るように出来ているんだよ」
「勝ち筋が残る?」
その言い方に少々違和感を覚える。
「例えばね、今まで勇者のだーんな様は今までほとんど戦わないでいたけれど、それでも決定的な勝利は取れて来たし、最後の本当にどうしようもない帰宅とかそう言う時にしか使わないで成立していたでしょ」
「でも、ミルミとかには負けたし、ガーリッシュさんにも勝てたわけでは」
「あのね、勇者に求められる資質って何だと思う」
「え? 勝つこととか」
「「 違います(違うよ)。生き残り勇者として存在し続ける事です(だよ) 」」
「……」
「最後に絶対的に生き残り、絶望からも這いつくばってでも立ち上がり勇者として存在し続ける事」
「それを運命づけられるからこそ大変だけれど、あなたになら出来るってママも判断したからきっと認めたんだと思う。あなたはきっと今この世界の中で一人しかいない苦境の中にいつもいるのにそれでも辛さを周りに見えないようにしているからこそ」
「……」
「だからね、お願いしたいの。帝国と王国がもう少しで戦争になる。その渦中にあなたも身を投じることになるけれど絶対に生き残って」
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