第15話 帝国の密偵

 そんな日々が続いたある日、遂に動きがあった。

 場所は村長の家の倉庫。その中に侵入を試みる何者かの影があったのである。誰もが寝静まったはずのその場所に、影さえ見えない中を手さぐりに進む何者かは部屋の奥に向かうと……突如現れた人たちに取り押さえられて、刃物を突き付けられて、床に押し倒されて、拘束される。

「いやあ、久しぶりの大取物やな」

 そんな様子を見るベリメの声が倉庫の中に響く。彼女の手には火を起こす魔法石。冒険者が使う洞窟などで松明代わりとあるアイテムがあった。

 この時点で犯人も気が付いたであろう。嵌められたと。

「正直、実はすぐ気が付いたんや。奴隷たち全員の話をうちらで共有したらおかしいことがあるなって。私と同じ『解読中』は全員村で今は仕事しておるが、まあ元暗殺者や。見張るように言ったらすぐ証拠を持ってきてくれたで」

 そう言いながら、彼女は拘束される彼女の姿をこちらに見せるように指示して顔を拝ませる。

「なあ、トプシュワ。本当なのか」

 海良が確認する視線の先で、金細工師で鍛冶師の少女の奴隷は集まった全員を睨みつけながら反抗的な様子を隠そうともしなかった。

「どういうことだ、何時から気が付いた」

「『ワシュプト』」

「は?」

「あんたの名前を逆から読んだ名前や。これで気が付かんのか?」

 当然これで彼女は直ぐにまずいと気が付いたようである。

「ワシュプト。まあ普通に名乗る気が無いって言っているような名前だされたらこの状況では真っ先に疑うわな」

「……」

「それにな、これ分かるか?」

「! いつ盗んだ!」

 そう言って彼女は「爆発の危険性がある聖域の仕掛けの残骸」を見る。自分の部屋から盗まれたものだと直ぐに気が付いて。

「何時って、私が盗んだわけじゃないから『メルビー』に話を変わってもらうわ」

「メルビー? まさか、第四王女⁉」

「気が付かれたのですね。そうです、私は現国王の第四王女のメルビーです。冒険者統治機構では奴隷もあの会議に参加していたと思いましたが、見ていらっしゃらなかったのですか? それとも信じていなかった?」

「……」

 私も文章を書いていて気になるのだが「メルビーがいる事」は支部長がちゃんと「指摘している」上に「メルビーも支部長に話しかけて」いるのである。密偵がもしこの情報を見落としたのだとしたら一体何があったのか。まさか同じ部屋にいると思わなかったのか、だとすれば聖域の情報を普通の人物が知っていることに違和感を持たなかったのか。

 なんにしても不注意すぎる。だからこそ、見つかってしまったのだろう。

「いつ盗んだかは、まあはっきり言えばあなたと話したあの時です。仕掛けは分かりませんがあなたは後ろの情報も分かるようです。ですので、パムラさんに話しかけてもらった間に盗みました」

「王族ならいくら盗んでも爆発しない」

「ええ、そもそも正規の技術者を任命するのも仕事ですので。そして私たちが近づいて爆発するようでは供物を届けるのに支障をきたしますので」

 そもそも爆発する理由は「防衛魔法」である。

 これは「守護獣の奴隷が使おうとした自滅魔法」と同じ魔法である。ちゃんと書いたはずである。あれは「構成組織を内側から破裂させる」なんて。

 もちろんこの辺の魔法の発動条件は厳密に分からないので下手なことは言えないが、少なくとも彼女が爆発する事実を知っているのは何かこの関係であったためであろう。

「それにな。奴隷の一人は『犯人を知っている』と言っていたようですわ」

「なに⁉」

「正確には、その証拠を映した写像の撮影に成功したからだな」

「ああ、私が昔の文明の技術から復元したこの『ドラーン』でな!」

「『ドローン』な」

「……この『ドローン』で!」

「言い直さなくっていいよもう」

 そう、彼女はドローンで「撮影をして」いたのである。普通に考えたらまず明らかに密偵だと疑われる行動だが、シンプルに彼女の場合は深い意図なく撮影していたようで破砕している瞬間を撮影できたのも偶々のようである。

「まあ、あの後奴隷の一人が暴れだしたから不味いと思って隠れていたんだが結果良好だな」

 この様子だから、今は第二の密偵の可能性は保留にすることにしたのも理由の一つではあるのだが。

「どうしてだ。それなら『私より先にお前が襲われる』はず」

「有効範囲だよ」

「は?」

「単純にドローンを操れる有効範囲の方が、こいつの探知範囲より広いから偶々操っていた本人は外れた範囲にいたらしい」

「因みに、撮影した物をテアッスの様に映像として映せないか作業していただきましたが見ますか?」

 暗に守護獣の奴隷と発明家の奴隷のイワミミによって致命的な証拠が共有できると伝えたようである。

「まあ、後マニュエチとエティエトもこれの復元頑張ってくれたわ」

「!」

「そうや、あんたがびりびりに破いた『この部屋に夜来るように伝えた手紙』や」

「……」

「悪いね、でも私達も協力するように言われたね」

 二人は申し訳なさそうに話す。

「じゃあ、今夜は拘束して後日王国の裁判に」

「待ってくれ! 頼む、私の身はどうなっても良い! だから」

 家族だけでも救ってくれ。彼女はそう叫んだという。それを皆は各々様々な思いで見ていたという。

「どういう事でしょうか」

 アラエがそれに興味を持ったのか話を聞こうとする。

「帝国に……いるんだよ。私の家族が、児童園の家族がさ。皆お腹すかして待っているんだ……だから、頼むよ……」

 少女は涙を流して詫びた。確かにとんでもないことをしたと、だが家族は違うのだからその家族だけでも助けてほしいと。

「冒険者にまでなって……命がけの仕事だってやって仕送りしているんだ……だからさ……」

「で、守護番殿はこの反逆者の処罰をどうしましょう」

「待ってよ! このまま何も聞いてあげないの⁉」

「まて、正直人道的に考えれば気持ちは分からなくもないがやったことの規模が大きすぎる」

「まあ、正直証拠抑えた私が言う事ではないですがやったことは国家反逆罪相当の重罪ですし」

「で、でも家族って何が……」

「まさか人質とかそういうやつね?」

「どうすればいい、メルビー。何か丸く収める方法はないか」

「え? ボスは助けるのか?」

「海良様がそう言うなら策がない訳ではないですが」

 メルビーはそう言うが、正直困り顔だ。

「正直さ。俺は異世界から来た可能性が高いのはもう言っているからさ。家族に会えるかもう分からないんだ。だからせめて会える人には会って、その後に罪を償ってほしいなって」

「ボス」

「海良」

「はあ、分かりました。じゃあ一応方策をお伝えします」

「ああ」

 そう言って、メルビーはアイデアを話すのだった。

「まずそもそも、テノサさんとイワミミさんの言う通り彼女のやったことは重大犯罪です。密偵としての機密情報漏洩未遂と破壊工作、場所が悪すぎるため次は奴隷以下の身分は存在しないので死刑以外ないでしょう」

「そんな!」

「ですが、あなたが冒険者と言ったこと。そこに嘘や偽りはないですね」

「あ、ああ」

「でしたら」

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