第16話 冒険者統治機構への提案

「で、冒険者統治機構の重要行動警戒対象者にする代わりに王国内での処刑を逃れよう。それをメルビー様自ら提案された、違いますか」

「……」

 冒険者統治機構に戻った俺達を、支部長のハリス・カーマードの視線が貫く。それは前回の頼りなさそうな対応者と同一人物なのか疑いたくなるほどに睨みつけるような視線だ。

「確かに聖域の魔物より手紙は来たので状況は知っています。そして、冒険者であれば『冒険者統治機構の管轄の人材である以上、王国も帝国も手出しは出来ない』はずだと。何せ国家間のトラブルに巻き込まれそうな冒険者を助けるのも我々の仕事ですしね」

「なので」

「ですが、その認定の前に処刑してしまえば冒険者統治機構としては仕事が減るため助かるのですが。そもそも、そんな国家間の問題の可能性のある危険な仕事を見抜けられない、もしくは引き受けてしまう存在は我々としても困るのですよ、信用問題として」

 そう言って支部長は中々許可をしなかったのである。

「というより、その程度の事を我々は自前の情報網で調べられます。ですから筒抜けなんですよ」

「……」

「その上で言います。今のあなた方に、それを許可する価値はありません。お帰りください」

「メルビーさん!」

「厳しいですね。魔法学校、冒険者統治機構、そして円卓会議は国家間を跨ぐほどの組織であるためそれ自体の権力はそもそも王国も比較にならない程強力です。我々の自己都合に乗ってくれるほど理解ある組織ではありません」

「そうです。そもそもが我々は『国家内の危険な仕事を、国を跨いで解決出来るように考案された』組織です。『国家間の問題』でないのが肝です。そこまで分かっていますか」

 とにかく、話を聞いてくれる様子はない。大変な議論になる予感がする

「それに、あなた方にはやっていただかないと困る話もあるので」

 そう切り出すと目の前の男は、一枚の紙を取り出した。

「これは」

「大隊規模の試験の方の内容です。要するに、あなた方は人数の多さで無理矢理簡単な試験を合格したわけではないという証拠を見せていただくための試験ですね」

「簡単って」

「簡単ですよ、勇者に小隊規模の試験程度」

 まあ、そういうものである。勇者になるともっと強い敵や、試験で倒したような敵を何度も倒さないといけないため普通の冒険者には信じられないような敵でもその扱いである。そして、その試験を代替試験とは言っても合格した。

 よって、彼らは先ずはもう一つの試験を合格しないといけないのである。聖域の仕掛けを壊した人の処遇について話すよりも。

「因みに、事前準備はしっかりして向かってくださいね。相手は勇者が何人か囚われている現場なので」

「はあ!?」

「待ってください。それじゃあまるで捨て駒」

「そう思うならどうぞ。受けないと勇者になる試験を棄権したとみなすだけなので」

 この裁量に対しては諸説ある。女性が多いからこそ、成功すると思われている説。ただ、駒として捨て駒上等で激戦地に連れて行かされた説。

 しかしどちらにしても言えるのは、この時の彼らには断る選択肢はないことである。

 よって、彼らはこの後各々の装備の準備を始めるのだった。

「鎧の着心地、どうですか。初めて作ったから勝手が……」

「ピッタリだよ。着やすくて凄い」

「うちは荷物持ちか暗殺者として戦闘に参加するか。どちらを取るかで装備が全く変わってしまうから悩むなあ」

「わお! びっくりな二択ね!」

「アラエは軽装で動くんだな」

「テノサさんは沢山装飾品を装備されていますね。それだけ魔法でしっかり戦うのですね」 

「どうせ、私は拳一つ! 魔法も魔法使いみたいに強くないからこれでいい!」

「弓を使う私も同じですが、これで良いのか」

「私も参加して良いのか」

「はい?」

 他の人の装備の装飾品などを手掛けた細工師であり、鎧や武器も一部作成した鍛冶師の少女はそう語った。

「分かっているんだろう。俺は帝国の密偵だ。あんたらと仲間になれない」

「それはどうでしょう」

「無理だろ。普通怪しいやつを仲間にいれるやつなんていない」

「それはそうですね」

「ですが、理解するしないではなく、納得しないといけないのです。例え立場的に普通なら分かりあえない相手でも分かり合うようにしないと」

「なんでそこまでするんだよ」

 その質問に、王女は答えた。

「私の好きな人の価値観を信じるんです」

「それは」

「あの方は間違いなく異世界の方です。私だけなら、あなたなどすぐ裁判で処刑できるでしょう。ですが、あの方は何か救ってほしいと言った。その理由が知りたいのです」

「どうして」

「それが今の私達に新しい何かをくれるから。そう信じているから」

 だからあなたも、今だけは信じてほしいのです。

【とある奴隷の手記より抜粋】

 私は王国に反逆しようとした。正確には、帝国の駒として動くはず、そして失敗したら家族を置いて天国に行く……いや、地獄に行くはずだった。

 しかしどうしてだろう、私は何故だか裁判にかけられず、あまつさえ奴隷として私を買った男を勇者にするための試験に参加するように言われている。

 頭おかしいのか?

 勇者は奴隷を使い潰して力を示すのを嫌われている。ならば私達のような奴隷をたくさん買うのは悪手の筈。しかしあいつは奴隷を使い潰す様子がない。私達に部屋も用意して好きに生活させている。

 理解できない。

 あいつが何を考えているのか、もう少ししっかり見極めようと思う。

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