第5話 悪戯妖精
俺達は今日、少々厄介な依頼を受けていた。
「最近果樹畑の中に果物を食べちまう悪戯妖精が住み着いたみたいなんだ。おかげで果物を落とされたり食べられたり困って仕方ないよ。腰も弱いから拾うのだって一苦労だって言うのに」
そう言って、自然に落ちるはずの果物を受け止める袋が破られた果樹の木を見て、町の中で果樹の栽培をしているお爺さんは困ったように相談していた。
「何より困っているのは」
そう言って、手の中には虫の蜜蜂に似た姿をした妖精が見える。
「この蜜蜂妖精たちが住みついている巣を襲うことだよ。おかげで妖精たちも仕事が出来なくって幸福にしてやれないって言うのに、俺ももう老体だからいたずら妖精を追い払うのも出来ないんだ。頼む、悪戯妖精は好きにしていいから何とかしてくれ」
「という訳だけれど、悪戯妖精ってそんなに大変なのか」
「大変は大変ね」
妖精達に依頼して悪戯妖精を探すために飛ばした後、そう言ってペスティは要約をした話をしだす。
「まず悪戯妖精にも二種類いるのよ。悪戯していることが人間へのアピールで、自分はこんなことが出来るんだぞ、凄いんだぞ、ってパフォーマンスしているタイプ」
「ああ、子供が親に出来ることを見せようとしているけれどそれが間違ったやり方だから親からしたら褒められたりしない感じの奴か」
「そう、そしてもう一つは相手が困っている事を純粋に楽しんでいるタイプの悪戯妖精」
「それ質悪くないか」
「悪いわよ。少なくとも相手が嫌がっているのか嫌がっていないかの状況を考えるだけの知能があるっていう事は中位妖精程度の知能はあるのがデフォルトだし、実際に中位妖精の可能性だってあるのよ」
何となくこの世界の話について分かって来たのだが、まず妖精はある程度「人間と共に共生することで幸福になろうとする」みたいである。
長い年月の中で妖精たちも勉強をしたためではないかと言われている。
そして、そんな妖精の中にも人間に好かれやすい物を司っている妖精とそうでない妖精がいる。
例えば俺の場合なら水妖精や花妖精は人気度が高い。これは、水は何処でも誰でも必要とするようなものである事もそうだし、花もこの地域では果樹栽培などで花の需要は高いためである。花の成長促進などを見込める妖精だから嫌われる訳が無いのだ。
そして次に犬妖精と泥妖精。これは正直普通という感じの妖精たちだ。犬妖精は仕事に対して意欲的ではあるが、一定数失敗も多いため微妙である。そして泥妖精だが、これは土壌改良で使えないか相談しているところなのだが水辺で育てている作物がそんなに多くないため需要が低いのである。
最後に酸妖精と毒妖精。これははっきり言って需要がまず皆無な要請である。一部の研究者などのおかげで仕事はあるし、そもそも下水道掃除の様な他の妖精が嫌がるような仕事でも元住処の掃除だから嫌がらないために助かっているだけでそんな仕事をしないような人たちには需要が無い。
「中位妖精でありながら、人間からしたらかなり嫌われるようなタイプの妖精ねえ……その力をもう少しうまく扱えれば普通に強くなれると思うのだけれどなあ」
「そうなの」
「だって、相手の気持ちがわかる妖精ではあるんだろう」
「いや、まあそうだけれど」
「下位妖精達は漠然と『役に立ちたい』という思いから動いているけれど『何が喜ばれるのか分かっていない』から時々間違った行動をとるんだろう。だけれど悪戯妖精に関しては『何が嫌われるか分かっている』だろう」
「それがどうしたのよ」
「上手く教えてやれば『何が喜ばれるのか一番わかる』妖精にならないか」
「そこまでにどれだけ時間がかかるのよ。相手は『役に立つつもりがない』妖精よ」
「……」
そんな風に話している間に、件の悪戯妖精の被害に遭ったのか何人かの妖精達が帰ってきた。
「これはどうだと思う?」
「えっとね、水妖精と犬妖精と花妖精はいたずらされて逆に逃げ帰って来たみたいね。毒妖精はその付き添い」
「付き添い?」
「何か酸妖精と泥妖精に関しては今も追いかけているみたい。毒妖精も追いかけようと思えば出来そうだったみたいだけれど……」
「……なんだって!」
その話を聞いた俺は、一体どうするべきか作戦を考えた末に果樹園のおじさんに依頼して少し罠を張ることにした。
目の前でお爺さんが何か果物を集めている。それを山のようにおいては大きな布の袋をかぶせている。それを大量に。
しめしめ、あれをもし外したらどうなるだろう。袋の下の果物を落としてやるのだって良いな。
そう思いながら「皆で」飛び立って、袋の方に近づく。すると……。
「行くよ!」
突然泥の妖精が飛び出してきたかと思えば私たちにめがけて泥を飛ばしてくるではないか。どうして、何で? こんなお爺さんが作業をしている場所の傍に泥の妖精がいるんだ。
「逃げられない!」
「嘘でしょ」
「あーん!」
そう言って、妖精には重たい泥の塊のせいで飛べなくなった悪戯妖精はたちまち他に一緒に隠れていた妖精たちによって捕まるのであった。
「まさか悪戯妖精が『三人』もいたとは」
「俺もびっくりです。六人がかりで妖精たちに探してもらったのにその内三人が一人の付き添いと一緒に戻ってきた時に聞きましたが」
そう言って、蜜蜂妖精に捕まる悪戯妖精を見て、俺は一つ契約を持ちかけるのだった。
「なあ、お前達俺と契約をしないか」
「! お前、それは」
「聞きたいんだが、このまま悪戯妖精に契約者が現れなかったらどうなるんだ」
「それはまあ……闘技場にでも売られるか、妖精の羽を取られて野に放たれるなどじゃろうな」
そう、この世界では一部の妖精に対しての扱いが結構酷なのである。闘技場には訳ありの妖精を集めては売りさばく、いわゆる妖精売買の側面もあるらしい。
最近闘技場に招待されたと何人かの村人に話したら心優しく教えてくれたのである。
そこでもし変な奴に売られれば、この悪戯妖精達はどんな扱いを受けるのか……
そうならなければ、先ほど言われたように羽を取ってしまいもう動けないように、飛べないようにする。それが普通なのである。
「正直悪戯妖精だから嫌われるだけの理由があるのは仕方がないと思います。でも、それを仕方がないで済まさないのも俺達人間にできる事じゃないかなと思います。なので、何とかしたい、そう思っています」
「ふう、それなら私は何も言わないよ。悪戯妖精に逆に悪戯されんようにな」
そう言って、お爺さんは家の方に戻ってしまう。蜜蜂妖精達も困惑しながらも悪戯妖精を開放すると、何処かに行ってしまう。
「俺と契約しませんか」
悪戯妖精達は少し悩んだ末に、契約をするのだった。
「今更だけれど、この世界って妖精を『三体』じゃなくって『三人』とかって数えるよな」
「え? 当たり前でしょう。あんた人間を動物みたいに『あそこに一体人がいる』なんて言わないでしょう」
宿屋で寝ようとした時、何かふと気になった俺は確認を取るとペスティは当然だと返してくる。
「いや、俺の世界だと妖精って架空の存在だったから今でもなんか不思議な感覚にはなるんだよなって」
「でもあんた、普通に人って数えているじゃない」
「最初にギルドで何度も言い間違えを指摘されて直されたからな」
「そうだったんだ。おやすみなさい」
「お休み」
俺達は眠った。明日の仕事に備えて。
「……(パチッ)」
「……(ヒョコ)」
「……(ガサッ)」
悪戯妖精は起きていた。
0コメント