第22話 協議後の各民族の動向

「父上、倭国は凄い国でしたな」

「……ああ」

 地元の鉱山に戻ったドワーフのドワン親子は熱く会話をしていた。一方的に娘の方がちちに語っているともいうが。

「あんな素晴らしい剣を」

「刀だろ」

「そうか、刀だったな。あれを作ることが出来る、それも魔法無しで出来る鍛冶師がいる国などきっと倭国しかいないぞ。これは我ら鉱山の民とも対等に話せる国がやっと見つかった」

「バカ言うな」

「何? 父上何か間違っていたのか?」

 そう言うと、ドワン・ウドーフは娘の顔を見ながらこういった。

「あそこは俺達と対等な国なんかじゃねえ。あそこの国は」

「天の国、本当によろしかったのですか。話して」

「構わん。それ自体で他国の動きを牽制出来るのであれば安いものだ」

 オルギウス王国国王、バステル・オルギウスは宰相ザリスにそう語った。

「しかし驚きました。同じ天の国の伝承が伝わる国々だからこそ近い国を集めたのかと思えば東の方の島国や、南の知らない大陸にある国を呼んでいたとは」

「そんな国々に、最初に天の国だと気が付いたと言い含めた我々はそれだけで優位性があるのだ何せ」

「何か知っておるやもしれんのう。あの王様は」

 南の大陸の某雨林、その中で自分を崇拝する者たちに対して赤竜のレヴィーラはそう言った。それに、雨林の民から質問が出る。

「知っているとは、何でしょうか」

「魔法を使うのじゃ。何か記録する魔法だとしたら、それだけで重要な情報を記録できるだろう。しかもどの国も本来は自分達がどんな魔法を使えるのかは秘匿するもの。魔法はもはや国を持つ者たちにとっては中核の技術じゃからのう。ばれるのを何より嫌う」

「つまり、何か魔法を使って」

「ああ、何か盗んだのかもしれんのう。あの国の何か重要な情報を。全く、最初に天の国だと気が付いたからこそ、ずっと友好的に見せておいて革新的な技術を手に入れようとしている可能性さえあるからこそ下手に何もできないと知らしめた。とんだ曲者よ」

「ですが、魔法を伝えようとした国があると言っておりましたよね」

「ああ」

「何故我々の秘術を伝える約束などしたのですか」

「落ち着きなさい、ミレス。何も精霊秘術を教えると約束したわけではありません」

 森の民の族長の部屋。そこでは未来の族長、ミレスが母親に抗議していた。そんな様子を、オリーバは静かに見ていた。

「どうせ、排卵誘発や妊娠促進なんかの魔法を伝えるという意味で言ったんだろう」

「ええ」

「だからどうして⁉ それじゃあお姉ちゃんに子供産ませるつもり満々みたいじゃん!」

「違うわよ。あなたにもやってもらうわ」

「……それならまだいいけど」

「倭国はそういう話許すのか?」

 そんな会話をする。

「それは聞いていないので何とも。ですがどちらにしても、私たちは大切な秘術は話さないですが確実に軍殿と関わりを持つことを出来るようになりました。戦略級魔法使いと関係を持っていいと許可が下りた以上有利に事を運べます」

「子孫を残すところまで伝えてない以上、拡大解釈だとか言われそうではあるがな」

「その点、我が国は他民族の慣習などの歴史を伝えることで、倭国の優れた技術を手に入れることが出来る。よくやった方ではないか」

「良いのですか、勝手に他民族の知識を伝えるなど」

 アバンド・テネトスの言葉にスルス皇子は肩をすくめる。

「仕方ないだろう。あれほどの魔法に長けた種族が魔法を伝えると言っている以上、我ら巨人族では役不足だ。その点、知識に関しては他の種族を許さぬほどに沢山蓄えている外交問題に抵触しない程度の知識を輸出し続ければいい」

「ですから、それが問題ないかと言っているのです。もし他民族から勝手に知識を流されたという理由で、報復活動をされようものなら」

「その時は倭国に蹴散らしてもらえばいい」

「そんな単純な話でしょうか」

「どうした、お前たち気が付いていないのか?」

「あの国は我ら砂の民だけでなく、ロリアン王国の小人の民などにも差別することなく接してきた。この世界では珍しい国です」

「ええ、確かに」

「恐らく民族差別をしない。ならば、もしかしたら我らに攻め立てるような国があればその国に釘を刺してもらえるかもしれない。それだけでも、対外的には素晴らしい物です」

ネガジャ国の姫、ネビルス・ネガジャはそう報告をした。

「それに、わが国でも見向きもしなかった地中に資源があるとにらんでいる。これを彼の国に輸出できれば我が国の新たな財源として友好的関係を築けるかもしれません」

「ですが、もし属領国のようにするかもしれませんぞ」

「そうなれば輸出規制を行えばよいだけです。我が国は輸出規制をしなくても現状と同じようになりますが、あの国はそれによって何か被害を受けるのが目に見えています。そうでもなければわが国でさえ考えなかった地中資源に関して話をするなどないでしょう」

「なるほど」

「それに、あの国は全ての国にとんでもない情報を渡しました」

 そう言って、姫は手にそれを持った。

「それは」

「この紙だ」

「紙、ですか」

 ミシェーネ・ロリアンは兄のマシェール・ロリアンの言葉にうなずく。

「ああ。この紙はどうやって作ったのか分からないが、どう考えても質がこの世界の紙より数百年は先を言っているように感じる。それに移動手段だってそうだ。全ての国が口にこそ出さなかったが明らかに早いあの移動速度に驚いていた。鉄の蛇は凄い物だった」

「それが何かあるのですか」

「あの国は全体的にこの世界より数百年は進んだ国なのかもしれない。魔法が無い国だからこそ単純比較はできないがな」

「なるほど」

「だからこそ、芸術品などを輸出と言ったものの、もしその価値観さえ数百年先を言っていたら我が国の品では何も得られないかもしれないけれどな」

「そんな」

「仕方ないだろう。魔法も、学問も、わが国ではそれほど優れていない。なにより」

「食事で腹壊さなかったのは傑作だな」

 オドン島で族長は、他の頭領たちにそう話をしていた。オリバス・オドンも続ける。

「生の魚は俺達でも食わない。なのにあの国では生の魚を食っていた。食べられる何か秘密があるって事だ」

「生でも食える魔法があるって事じゃないのか?」

「だから頭が固いんだよ。魔法はあの国には無いって言っただろう。つまり、魔法以外の方法で生魚を食べられるようにしているってことだ」

「何だと」

「知りたくねえか。そんな魔法みたいな方法をよ。教えてくれるかはまだ分からないがな」

「でもよ。不思議な話だよな」

「何がです」

「何がってそりゃあ」

「よく私たちに接触出来たよね」

 海中の水深二百メートル付近の深海、真っ暗な海を進む人魚の民はそう話した。

「本当にね。偶然だと倭国の要人は語っていましたが、あの鉄の鮫がある以上私達も実は倭国の軍事力がとんでもない国だと知っているのですがそれがばれなくて良かったです」

「私は知らないけどね。その鉄の鮫」

「ですが姫様、今回の会談で人化の秘薬を沢山消費しました。それだけの価値はあったのでしょうか」

「あったと思うけれどな」

 族長お付きの男に、姫のレミーア・ミドリガスと族長のセレーネ・ミドリガスはそう語った。

「ママはどう思う」

「そうですね。まず、我らの住処が彼らの言う排他的経済水域、要は重要な海と丸被りしているというのは重要な話になると思います」

「というと」

「私たちが此処での倭国による開発や漁を禁止すれば、倭国は何もできなくなるのです。何せ、彼らにとっては重要な海だとしても、最初に住んでいたのは我々なのですから侵略者は彼らだと言うことが出来るのです」

「どうしてそうしなかったのです」

「私たちの祖先はその昔魔王に滅ぼされそうだった世界から海の中に逃げた種族の生き残りでしょ? そして倭国はどうもその魔王を亡ぼすかもしれない天の国かもしれないんでしょ? だったら、足並み揃えようとしたら向こうの都合に合わせるしか選択肢が無いんだよ。私たちは海底資源をいくら持っていかれてもごはんさえあれば困らないしね」

「なるほど」

「それよりも、私達だから気が付けたかもしれない話があってさ」

「そして、魔王の復活が近いかもしれない」

 その言葉に、氷竜のフィレスの言葉に雪山の民は顔を強張らせる。

「その昔、魔王が復活した際には天の遣いと思われる民が魔王と互角の戦いをして封印したと言われている。でも、それから既に数百年がたっている。魔王が復活する周期としては十分考えられる」

「ではその倭国とやらは」

「魔王討伐の要。なんとしても協力をしなければいけない国かもしれない」

 そこで、竜は頭を下げた。

「ごめん、こんな大切なときに、他国の問題もあなた達に関わらせて」

「大丈夫です。我が種族はその程度で屈したりしません」

「ありがとう」

 氷竜はそう信者たちを見据えた。

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