第21話 実務者協議4
会議が始まる、そう思った時だ。
「その前にですが、軽くもう一度日本の商会に関する映像を見せたいと思います」
「あの、記録結晶を使わないで過去の映像を見せる技術ですね」
「ええ、日本横断中に途中で新たに加われた方も多いですので」
そう言って、兄貴が合図を出すため俺は端末を操作して映像を流す。
「まず、皆さんにお見せした日本の風景や各種料理、文化などに関する映像です」
それから、今回の旅行ではタイミング悪く機密の関係で見せられなかった自衛隊の訓練に関する映像。全員が見入っていた。
俺はそれを見て、兄貴の考えがもしかしたら当たっているのかもと思った。
回想。一日目、ホテル。
「最終日に映像は見せる?」
「ああ」
「これ今日締め切りで映像作らせておいて、それはないんじゃないのか。兄貴、確かオルギウス王国の王様には見せたんだろ。だったら」
「いや、仕方ないんだ」
「何で」
そう聞くと、兄貴は難しそうに言った。
「それは、まずこの映像を見せた時王様は文化や風景に関しては信じてもらえた」
「ああ、うん。それで」
「自衛隊の映像、とりわけ戦車が砲弾を撃って遠くの的に当てる映像などは信じてもらえなかった」
「? どうして」
「魔法ではあんな遠距離に当てることは出来ない。それが理由だ」
「それが理由って。魔法じゃないのにどうして魔法って」
「今日の会議で科学はこの世界では空想の学問だと言われた。物の考えの基本が魔法なんだ。これで分からないか」
「! 科学じゃなくて、魔法が基本の考え方。だから自衛隊の砲撃が魔法だって考えたけれど、魔法では戦車位の長距離から狙わないから偽物だと思ったってこと」
こくりと兄貴はうなずいた。
「とりあえず、自衛隊の映像は信じてもらえそうな映像だけに絞り、戦車などの映像は秘匿することにした」
「大丈夫なの」
「これから戦争をするつもりでない相手なら、問題ないだろう」
こんなやり取りがあって、映像には自衛隊の階級に関する説明や訓練の様子が流れていた。しかし、戦車などの映像はやはりなかった。そして、最後に教育などの話に移っていく。
「以上で、倭国の簡単な内容の説明が出来たかと思います。いかがでしょう」
そう聞くと、二人の竜が手を挙げた。
「はい、どうぞ」
「どうして自衛隊の映像をわざと弱く見せる様な映像にしておる?」
「鉄の馬の映像が無い」
「鉄の馬?」
そこで他の参加者たちが首を傾げたために、巨人族のスルス皇子が話始めた。
「もしかしなくても、車と言う鉄の乗り物を軍事利用しているのでしょうか」
「ええ、確かに今回の映像からは省きましたが、自衛隊には有効射程数十キロの砲塔を乗せた車があります。これは、船にも同じものがあります」
そこでようやく、全員が顔を強張らせた。そして、全員が心を開いたのであろう相手に視線を向ける。俺もアルテアに視線を向けられた。
「それは本当か」
「うん、まあ本当」
概ね他の人達も同じ反応が返ってきたのだろう。全員が顔を青ざめさせ悩むようなそぶりを見せた。
「して、何を望む?」
「私たちは自分達を信仰する人たちのために戦ってくれるならなんでも協力する」
竜の二人がそう先陣を切るため、兄貴はこう言った。
「まず、我が国では大量の食料の輸入が必要です。なので、オルギウス王国には既に食糧輸出を開始していただいております」
「ああ、本当だ」
「そして、その対価として倭国は港湾整備、並びに鉄道と言う皆さんが鉄の蛇と呼んだ乗り物による陸路のODA開発事業を手掛けております」
「正直、あくまでも倭国との専用の物だけだが、十分新しい輸送手段として働いておる」
「だったら、俺達オドンも食糧輸出は出来る。オルギウス程でなくても、魚介なら負けない」
「もちろんそう聞いております」
ですが、と兄貴は続ける。
「中央にそびえる山を除けば大変海抜の低いオドン島では鉄道は塩害の影響を受けやすいため、多少値段がオルギウス王国より高くなります。それでもよろしかったでしょうか」
「それは」
「それよりも、我が国としては冷凍保存に関する知識供与。及び観光地としての利用を考えております」
「観光地?」
「ええ、倭国の人が遊びに行く観光地として再開発を考えております」
「考えさせてくれ」
次に、と兄貴はいう。
「ネガジャ国、鉱山の民、ミドリガス族には海底資源や地下資源についての調査、並びに必要となった際の輸入をお願いしたいと考えております」
「石油、と言ったものでしたでしょうか」
「はい」
「待て、俺の所は輸出を行っていない。やっていたとしても、魔力の無い屑鉄ばっかりだ」
「質に関しては相談次第ですが、そもそもわが国では魔法が無い以上魔力がない物で現状困りません。将来的には違うかもしれませんが」
「なるほど」
「うむ」
スワンさんとドワンさんが頷く。
「対価として払える金額は量によりますが、レートが決まり次第すぐにでも取引を開始したいと考えております」
「あの、良いでしょうか」
「はい」
「源勝をダーリンにするって言うのを確約するって言うのは駄目ですか?」
「姫!」
飛ばすなあ、ミドリガスのお姫様。
「異例ですが、本人が認めれば」
「やった」
そして知らないところで話のまとまる源勝、どんまい。
「森の民、及びグランバ国、ロリアン王国には現状では直ぐに輸出して欲しい物品はありませんが、まずは友好条約の締結などを盛り込んだ各種条約の締結をしたいと考えております」
「少しよろしいでしょうか」
「はい」
「我が森の民は、魔法技術の一部教授を他の国と同様に輸出内容として盛り込む準備が出来ております」
「!」
「母上! 良いのですか!」
「構いません。あくまでも倭国が軍事力のすべてを私たちに見せてくれないのでしたら、私たちも最低限のみ教えることになりますが」
「そうですか」
ま、そりゃそうか。最初に手札隠したって言ったのはこっちだし。
「ええ、まずは軍殿に教えようかと」
「ん?」
「軍は戦略級魔法使い。今更教えることは」
「黙りなさい、アルテア。従って」
「しかし」
「……」
何か耳打ちしている。そしてアルテアが顔を真っ赤にし始めた。
「母上! そんな魔法を教えるなど!」
「頑張りなさい。あなたにかかっているのですから」
「?」
俺だけ分かっていないが、アルテアは何か気持ちを固めたようである。
「よろしいでしょうか」
「はい」
「もし魔法が輸出対象として成立するのでしたら、我がグランバ王国は我々が独自に収集した各民族などの歴史に関する書籍、及びその知識の輸出を行いたいと思います」
「ほう」
「その代り、魔法の無い科学の知識の教授、これを我が国は望みます」
「……後日また話す必要はありますが、良いでしょう」
「ロリアン王国は細工技術に長けている。よろしければ美術品や芸術品の分野で輸出や技術供与などを出来ないかと考えております」
「はい」
「その代り、倭国の芸術品などについても見せていただきたい。よろしいでしょうか」
「その意図は」
「ミシェーネ」
「」
「分かりました」
「最後は」
「私達」
「ですが、お二方は要求が自衛隊の派遣。正直私一人には判断が出来かねる案件です」
「直ぐにとは言わん。無茶言っているのは承知だ」
「でも一番強い戦力の力を借りたいのは本当。だからこそ力を貸して」
「一考いたしましょう」
兄貴は絞り出すように言うと、全員を見据える。
「倭国はまだこの世界に来て新しい国です。故にこそ、皆様の協力が必要です。まだ倭国と近い国の方々しかお呼び出来ておりませんが、これからより各国に呼びかけ、協力関係を結びたいと考えております。どうかこれに、ご協力ください」
全員から拍手が響いた。予め伝えた、同意するときなどの相手に敬意を示すしぐさだ。これを全員がしてくれた。
複数国を同時に相手にした実務者会議。これは大成功に終わった。
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