第23話 笠松奥儀の懸念

「どういうことか説明していただきたい!」

 防衛省の官僚との面談。そこで、笠松奥儀は糾弾されていた。

「今回の会談の参加国ではない何者かに階段途中から参加されたというのに退出を促さなかったという事態も前代未聞だが、その後自衛隊の派遣を認める様な内容の発言をするなどどういうことですか!」

「ですからまだ認めたわけではないと言ったはずです。ですから、こうして話を持ってきたのです」

「そこで即座に断らなかった理由を聞いているのだ!」

「倭国は戦争国家ではない。自衛隊も最低限の防衛戦力であり他国の事情に関わることで戦力を容認しているようにとられるのは対外的にも国民感情に際しても良くない。ただでさえ、食糧危機と言う事情があったからこそ極秘裏に自衛隊を海外派遣したばかりなのに」

「ですが、幾つか今回の事情を考えるうえで少し憂慮していただきたい自体はあるのです」

「憂慮?」

「まず、今回の会談に際して警備は十分に入れました。しかし、該当の竜だと名乗る二名は誰とも遭遇することなくこの会議室に侵入したという事です」

「それが何に繋がるというのだね!」

「倭国の警備計画に杜撰さがあった、もしくは倭国は謎の存在を認知できないほどの何かを備えている知的生命体を相手にしている。どちらだと思いますか?」

「何故そんな話になる!」

「何故なら、警備員たちは誰も目撃していないのに、扉だって誰かが通ろうとするときにしか開けないようにあの部屋だけはしていたというのに、竜と名乗った未知の存在は部屋に入っていた。これを科学で説明しようとしたら、迎賓館の部屋に会議開始前からずっと竜と言う存在がいたというのに、そのことに誰も気が付かなかったとしか考えられないのですよ」

「む」

「迎賓館の管理って誰がしているのでしょうか?」

「貴様」

 厳密には内閣府の施設等機関である迎賓館の話に外務省の外交官でしかない男が釘を刺した。そのことに、防衛省の男は何も言えなくなった。男も、内閣府に対して明確に責任追及が発生すると発言することは憚れたようだ。

「それに何より、相手は魔法と言う物を扱う未知の存在です。既存の価値観だけで推し測る方が危険です。もう少し時間はあると思いますので、せめて御一考だけお願いいたします」

 そう言うと、奥義は部屋から退室する。

「ああ、はい。奥儀です」

 そして、電話が鳴ったために連絡に出る。

「はい。はい。やはり、竜で間違いはない可能性が高いと」

 それは、部下に最優先で調べさせていた話だった。そして、その裏付けが出たために俺は顔をしかめた。

「この世界では竜が存在する。そうですね」

 オルギウス王国とサルバーン国での戦争の際の報告書で、人が扱う程度の小型の飛竜と呼ばれる二メートルから三メートル程度の空飛ぶ蜥蜴の様な生き物の存在は報告を受けていた。しかし、俺の調べさせた竜はそんなちんけなものではない。

 体長十数メートル、強大な魔法を操り、一部の民族や部族から神や信仰対象として崇拝されるような竜が存在しているかという物だ。

 これは、グランバ王国のこの世界に関する知識について輸出して欲しいという話の中で優先的に竜について知りたいと言った際に相手も優先的に資料を提供してもらえたからこそ、手に入った。

「それだけ、この世界では竜と飛竜を分ける程度に、当たり前の存在であったという事ですね」

 これは重要な情報であると同時に、注意しないといけないなと思った。何せ、この世界で竜だという存在から軍事力を認められた存在が自衛隊で、その海外派遣を行う様に言われている。しかし、認めなければ竜から何かされるかもしれない。

「一世一代の大仕事だな」

 奥義はそう呟いた。

桑鷹三好の遊び場

小説を書くのが好きな男が好き勝手に小説を書いたり色々な事を想像したりするサイトです。 基本的に良識のある対応を出来る人なら誰でも歓迎です。

0コメント

  • 1000 / 1000