第10話 神聖なる森2

森の中に通された俺はその不思議な光景に圧倒された。幹が人の胴よりも何倍も大きい巨大な木がそこら中に乱立している森、動物たちが何匹もすれ違っては自分達を恐れているのか恐れていないのか分からないが、ゆっくりと食事をしながら離れていく。

「到着しました、ここが私の家です」

「はい、え?」

 そう言われて周囲を見るが、そこには木があちこちにあるだけで家らしきものは見当たらない。

「あの、何処に」

「こちらです」

 そう言って、ソリエールさん達他全員のエルフが木の根っこの中に消えていく。

「どうぞ」

「……」

 驚いた。この種族は地下棲らしい。俺もその根っこに近づくと、根っこはどうやらホログラムの如く触れられる訳ではないもののようで、根っこの下には階段があった。なので俺は根っこの下に下って階段を降りる。

「地中に暮らしているんですか」

「大地の魔力の中で暮らすことで、エルフと親和性の高い魔力を常に浴びることが出来るようになる先祖の知恵です。ドワーフみたいに無意味にあなぐらに生活している種族とは違うので」

 そう言いながら、奥に案内される。壁には木の枝や葉っぱを使って壁が崩落しないようにしている様子が見て取れて感心する。また、狭い道で他の人にぶつからないようにしているエルフが多数見て取れる。

「お待たせしました。ここが会議室になります。どうぞお座りになってください」

「はい。あ、ありがとうございます」

 ソリエールさんが促すと、エルフの付き人が二人分の座布団のようなものを持ってきたので、それに俺は座る。ソリエールさんも同じように座る。

「まずは、我々の神聖な森にようこそいらっしゃいました」

「はい、あの。どうして俺が呼ばれたんですか」

 俺は、この森に呼ばれる理由が分からなかったために素直に聞いた。

「私の娘と子孫を残してほしいからです」

「はあ子孫を、子孫⁉」

「はい」

「待ってください、どうして俺がそんな話になるんですか」

 当たり前のことだと言わんばかりの反応に、俺は戸惑いながら聞き返す。

「あなたは戦略級魔法使いだと言われておりますよね?」

 ソリエールさんが、怖い顔でそう確認を取る。

「はい、何度かアルテアから言われています」

「戦略級魔法使いとは、その名の通り戦略的に使うほどの可能性を秘めている魔法使いを指します。本来人間族ではこのような魔法使いはほとんど出現しません。出やすい種族は我々エルフなど、魔力との親和性の高い一部の種族です」

「だったら」

「ですが、エルフは子供が出来にくい種族です。エルフ同士の家族では数百年かけて一人残せれば良い方です。しかし、それでも戦略級の素質を残した子供を残せるかは神の采配次第。結果として、戦略級魔法使いも残すのはエルフでも困難になっているのが現状です」

「……」

「そこで、あなたのお力が必要なのです。人間族はどの種族との間にも子供をなせる汎用種族。さらに素晴らしいのはパートナーとの間に子供をエルフ相手でも比較的残しやすいことにあります。純血のエルフではなくなりますが、それでも魔力さえ豊潤に扱える能力を遺伝させることが出来ればエルフを束ねることが出来ます」

「つまり、数撃てばそのうち優秀な子供を残せる可能性が高くなると」

「言い方は悪いですが、概ねその認識で間違いありません」

「ですが、相手の意志などは」

「私の娘たちなら問題ありません。子孫を残せるなら誰でも構いませんので」

「……」

「当面の生活に関してはこちらでご用意いたします。客人としておもてなし致しますのでご安心ください」

「はい」

「個室のご用意もありますので、そちらでまずはゆっくりしてください」

 退室を促されたために俺は会議室を出て行こうとした。

「そうだ、これをお渡し忘れていました」

「これは」

 指輪のような木製の円環を渡される。

「各種族の言葉を万能に翻訳することが出来る魔法道具です。くれぐれも無くさないようにお願いいたします」

「はい」

 そう言われて、俺は部屋を後にする。

「あ、やっと出てきた!」

「え?」

 そこで、俺は突然知らない人に抱き着かれる。

「ミレス様、はしたないですよ」

「えー、良いでしょ。未来の旦那様なんだし」

「旦那⁉」

 素っ頓狂な声を上げると、離れた彼女は話始める。

「どうも、ミレスですまだまだ若い60歳だよ」

「60」

 なんか俺の三倍程度の年齢を言われてびっくりするが、エルフ基準ではまだ若いのだろう。

「ねえ、よかったらこの後森にデートに行きませんか? 良い場所紹介しますよ?」

「いや、今日はごめん。部屋に帰るから」

 そう言って、俺はその場を離れる。後ろから「ああ、ちょっと!」と声が聞こえる

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