第1話 スカウトマンのスカウトの様子

 ブン、ブンと木の枝が振られる音がする。貧民街の広場の一角、そこで少年がただ無心に木の枝を剣に見立てて振っているのだった。

「練習中、申し訳ないけどいいかな」

「……」

「残念だけれど、それじゃあ練習にはならないよ」

「は⁉」

 少年は木の枝を振るのを止めて、ようやくこっちを見てくれた。

「おじさん誰?」

「俺? 俺は広瀬彰浩、帝都の中央学院で教師をしている」

「へえ」

 そう言うと、少年はその男に向かって走り出し、そして手を伸ばした。

「良い走り込みだ。しかしまだ足りない」

「な⁉」

 少年は驚愕した。狙ったのはポケットの中に入っているであろう小銭。それを狙って盗もうとしたというのに、少年はいとも簡単にその男にかわされてしまったのである。

「ちくしょう!」

「お、今度は枝も振るってくるか。いいよ、ついでに色々教えてあげる」

 そう言って、男は少年にレクチャーするのだった。

「第一に、その枝では直剣と形が違いすぎるしリーチも違う。重さだって違いすぎる。いくら素振りが重要な練習だとしても、違う武器で練習しているようなものなんだ。つまり練習による効果は究極的には見込めない」

「何だよお前」

「次に、これは仕方ないかもしれないが実戦経験がない。自分より大きい人に対しての攻撃の構えが何もなっていない。と言うより、同年代相手でもこれは大丈夫か怪しい」

「くそ、くそっ!」

「そして、君が目指す先には」

「あっ」

「剣しか見えていないからこんな風に足をちょっとかけるだけで簡単に転ばされる」

「くそっ」

 転ばされて地面に膝をつく悔しそうにこちらを見る少年。しかし、彼は自分の見立てが間違いなければ強くなる。

「ねえ、君俺の生徒にならないかい」

「は?」

「俺のクラスで剣術や共通語なんかの授業を受けるんだ。そうすれば、君が目指す強い姿になれるかもしれない。少なくとも、このまま貧民として落ちぶれたままいるよりは名声を上げることが出来る。それは約束するよ」

「それは本当なのか」

「ああ、本当さ」

「でも俺金はないぞ。帝都の授業って貴族とかしか授業受けられないって聞いているぞ」

「大丈夫、授業料は卒業後に払ってくれれば良い。契約書は、今は読めないかもしれないけれどここに君の名前を書いてもらうことになる。それで出来る。名前は?」

「……アルバン」

「アルバン君ねよろしく」

「よろしく」


【補足】

・広瀬彰浩……現実世界から転移して既に20年は経過した30代の教師兼スカウトマン。特別学級として完全スカウト制の少数精鋭クラス(半分非公認)を受け持たされており、またそこで教師をしている。彼の固有魔法「成長を見る眼」は、今から何をどのくらい鍛えると、どんなことが出来るようになるかを見る眼で、それを用いることで将来性がある生徒を世界中からスカウトするだけでなくより知識や魔法の技術、剣術などを教えている。

・アルバン……貧民街の出身の少年。竜殺しと言う伝説の冒険者にあこがれて毎日特訓をしているところを、広瀬に拾われて学院にやって来る。帝都の貧民街出身。

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