終話 文献の終わり
「領主様たちは大丈夫なのか」
オゴッティルムは突然と姿を見せなくなった領主たちを探していた。先ほど村で突然大きな音がしたかと思えば、音の発生地点に行ってみたが何もいない。
しかも帝国の兵士たちがすぐ近くにいるではないか。
「どうしたらいい」
「降参する訳にはいかない……よな」
「ああ、領主たちがいないのに戦えるわけがないだろう!」
「じゃあどうするさ。俺達だけで」
村人たちも必死に話していた。何せ、ここ近々の工事はほとんど彼らが主導で行っていた。何もできるはずはない。パムラの父親も、元村長も困惑していた。その時である。
「ただいま」
「! 領主様!」
そこには、今までに見て来た領主たちとは違う姿の人がいた。
「領主様ですか」
「うん。そうだけれど」
「あの、何というか……逞しくなられましたか」
その表現に彼らは困惑をしたが、しかしこの後の戦闘を見た人たちからしたらたまったものではないのだろう。
「ははは、まさかこれほどの必殺技を一時的にとは言え使えるとは。達成条件は一人は達成しておったから、個々人の問題だとは思うが……何だろうなあ」
終焉の焔がアレインによってもたらされる。青と赤の二色の幻想的な炎が、たちまち命を終わらせる。
「切る、いや。折り目を付ける。そんな感覚やな」
切られた対象に傷はつかない。しかし、確かに折り目が付いて、どこかに消える。そんな不思議な切断技が、ベリメによって猛威を振るう。
「本当ですね、私たちは最初からこの力を得る、その可能性が高いからあんな嫌な思いをした」
「ははは! 皮肉だな! その力で帝国が……」
「……ああ、いらなかった。ただ、皆と歌って、隣にあの人がいてくれる。それだけで良かったのに」
もう感情は抑えられない。オドパイエは溢れる海のような思いを、そのまま敵にぶつけて殺していく。
「これが私の力ね、強いね」
嵐のようなその力は、何を体現したのか。荒ぶる重いか、それとも騎士としての彼女の何かか。
「名前が無い私にも必殺技がある。どうやら名前の有無ではないようですね」
名前の無い聖域の守護者はただ静かに分析していた。大量に生い茂る植物たちを操り、縛り付けられた帝国兵士たちが血を噴き出しながら死んでいくのを冷静に眺めながら。
「そ、それは帝国の最新の兵器! どうしてそれを!」
「……知らないわよ。私が帝国の密偵だったからじゃないの」
トプシュワは未知の兵器で蹂躙をする。巨大なその金属の塊は、魔法を悉く無意味な何かにしていた。
「わ、私の世界ってこんなに凄いんですね。こんなに、怖いんですね。注意しないと」
氷の世界を出現させたマニュエチは怯えていた。強力な力によって時間ごと止められて死んでいく兵士よりも怯えていた。どうして自分はこれを望んだのかと。
「難しい事は分からない。でも、ボスがこれを使えば体がボロボロになるって教えてくれたから」
電気の力で、正確には「電子」を操作する結果として原子の性質を意図的に操作する力。科学が発展すれば反則級の力として扱われたであろうナエシエの力である
「みんな、おやすみなさい。私も寝るから」
ミルミの力は一番優しいかもしれない。死んだことに気が付かないまま殺される、正確には一生目覚めない夢の中に閉じ込められる。そんな力だから。
「私って、まだ強くなれるんだ」
元々分かっていた彼女の力、海良がいないときに力を増す力。しかしこれを必殺技と呼べるまでに強化したら? 帝国兵などただの案山子である。
「なるほど、法律を、罪刑を司る象徴たる天秤、これを自分で動かしてしまうとは。案外簡単に必殺技って使えるのですね」
魔法は無効化される、攻撃は当たらない。だから一方的に蹂躙される。王女はまた一段と強くなった。
「はあ、私のはまさかもう使えるこれが必殺技とは」
魔法攻撃を一切無効化する。それ即ち通常攻撃なら倒せるという事では? 否。人の歴史とは未知の魔法としか思えなかった手段の積み重ね。彼女の真骨頂は……その否定である。
「うえええええええい! やりたい放題だ!」
エネルギー操作。その力は、まさしく偉大だった。人が動くのも、止まるのも、エネルギーが必要。それゆえに。やりたい放題である。
「さあ、信じなさい。迷える者たちに祝福を」
アラエは何もしない。しかし彼女の力は目覚めさせる。この戦場という場にはそぐわない……信仰心を。それは、もはや畏敬や畏怖、もはや洗脳にさえちかい侵攻である。
「これでいいの」
「ああ」
まだ必殺技を上手に使えないシフォンはそのまま落ち着かせて上空から様子を見ていた。十五人の戦場を。高速で見ていた。光よりも早いその力によって、ほぼ同時に全ての戦場を見ることが出来た。
そこからの文献はまだ少ないため何があったのかは分からない。だが言えるのは……この日に間違いなく必殺技という概念が新しく出来た。
そんな風に巧みに多数の女性を従え、言葉を操り一つの村を発展させた彼を「言霊勇者」と呼ぶことにしたのである。
次世代の、本物の勇者として。
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