第4話 仲間を探す 後編

「あれぇ? なんか知らない人がいるよ?」


 最初に向かったのはスライム人間の住む湖だった。

 この種族は対外的に人間たちと関わることがない種族だったため、またおおらかに過ごしている種族である故に警戒心がとても低い。


「悪いな」

「え?」


 なので、彼女たちが抱いていない感情を存在したことにするなんて事は楽勝だった。


「聞こえているか?」

「聞こえているよ、ご主人様。どうかしたの?」


 スライム人間たちに「親愛」の感情を植え付けるのは簡単なことだった。




「なんですー? 此処は私達の日向ぼっこの場所ですよ?」


 同じく、植物人も対外的に人間たちと関わりを持たない種族故に突然現れようものなら警戒をされるというものだ。

 花畑の中心でそんな風にホワホワした口調だが警戒心をむき出しにされる。


「それとも? 私達に精をくれるんです?」


 足の根っこを動かしながら艶やかに、そして獲物を見定めるように見てくるそれらに俺は感情を植え付ける。


「どうした? 襲ってこないのか?」

「え? あ、や、いや」

「どうした。何か言ってみろ」

「ごめんなさい! ひどいことしようとしてごめんなさい!」


 植物人の女性も、他の植物人も恐れ慄き頭を垂れる。


 「恐怖心」の感情を存在したことにしたが、まさかここまで効果があるとは思わなかった。

 元々生まれた場所に根を張り、そのまま一生を終えるらしい種族だからこそ「対外的な恐怖」に弱いらしいのは聞いていたがここまでとは。


「まあいい、俺についてきてもらおうか」

「はい! 何処までもついていきます!」




「ヒヒ? なんだあ?」

「人間だ、人間が来たぞ」


 炎人達は俺を見た時それはそれは面白そうにしていた。

 警戒ではない。


「獲物が自らやって来た」という表情をしていた。だが、それも納得できるというものだろう。

 炎人達は火山に暮らしていることが多く、そして火山は人間たちにとって特殊な鉱石を集めるのに都合が良い場所であるが炎人には敵わない領域。

 一方的に炎人がからかって遊ぶのが普通だからこそ、俺を警戒なんかしないのである。


「おい、お前」

「何だ、案内をして欲しいんだが」

「ああ、勿論だ。友人だもんな」

「マグマ鯰釣りに行こうぜ。より大っきい方を釣った方が酒奢りな」

「あのさあ、お前らにかなうかよ」


 昔からの友人であるかのように「友情」を付与することであっさりと炎人達を仲間にすることが出来てしまう。

 これを炎人の住人たちに片っ端からする事で、俺には出来ない色々なことをやってもらう算段も出来たため都合がいい。

 炎人の長の娘に求婚されたのだけは予定外だが。




 そんな感じで、俺達は仲間を増やしていった。


「何者だ、此処を我々の住処と知っての狼藉か」

 蜥蜴人、攻略。


「穢らわしい人間よ、今すぐ立ち去らぬのならば」

 森人、攻略。


「酒だ酒だ。酒を持ってこなきゃ仕事も話もするか? たっく!」

 鉱山人、攻略。


「あ? 子供みてえななりだな人間どもは。何の用だよ」

 巨人、攻略。


「な、なんだよ! 俺達は金なんか持ってないって!」

 小人、攻略。


「面妖な奴らめ。我々の呪術の贄に」

 半人半妖、攻略。


「カーッカッカ。面白いな! 俺達に戦いを挑もうなんてよ!」

 鬼、攻略。


「とても仲間が増えましたね」

「そうだな」

「なあなあ、迷宮も見つかったんだぞ! 新しい住処見つかったぞ!」

「そうか、早いな……って、マジか」


 雪女が喜ぶ一方で、狼娘が元気にそう言って報告をしてくる。


「だって、まだ一週間しか経っていないよな。どこに見つかったんだ」

「元々目星はあったんですが、この少し南に行った場所に廃墟となった古城があるんです」


 そこできのこ人間の少女が話をしてくる。


「実はそこ、何時か他の種族の協力が採りつけられたら探索をしようって村でも言われていたみたいですよ」

「村でも?」

「冒険者の人たちも話していたんですよ。あそこの迷宮というか古城は何かあるって」

「古城自体は何もって感じなんですが、どうやら地下の方には元々何か秘密があったみたいです」


 冒険者の少女と僧侶の少女がそう言って教えてくれる。


「今は鬼の人たちや巨人の人たちが住み着いた魔物の討伐と、小人や鉱山人が調査をしてどんな場所なのかを解明しようとしているところです」

「随分と話が早いな」

「それだけ皆やる気があるって事じゃないですか」


 きのこの少女はそう言うが、食料とかは正直早い所何とかして対策を打ち立てないといけないだけに困ったものだと思う。


「その辺の野生の動物たちを狩って食べたり、仲間にした連中の住んでいた村とかで家畜にしていた動物たちの乳を分けるのも限界があるしな」

「案外解決するかもしれませんよ、それ」


 そう言う彼女の真意が分からないでいると、ちょうど帰って来た鉱山人達が報告をしてくる。


「一先ず分かったのは、あの城は『浮くことが出来る』」

「は?」

「あくまでもそれがわかったっつうだけで、どうやってやるのかは」

「いやいや、浮くってどういうことだよ?」


 俺のあまりの顔に鉱山人の男は困った表情で話してくる。


「そのままとしか言いようがないんだよ。あの城はそもそも『地下の迷宮の力を借りて空に浮く』事を前提に設計されている」

「はあ?」

「だから、食料や必要な物を魔素や何やらで作る装置もある。そして、装置は今壊れているが、必要な部品があれば修理できる。そこまでは分かった」


 なんだろう、途端になんか話が飛躍した気がする。

 本当はただ仲間を手に入れて、自給自足をしたいだけだったのに。

 それが出来さえすれば場所なんかどこでも良かったのに、城が浮く?


「それ、今どうこうする必要あるのか?」

「あるだろう! 城が浮く! それを動かす動力装置を動かすことが出来る! これ以上のロマンがあるか!」


 うわあ、職人系の種族の面倒な何かが始まった。


「ふ、これだから魔力の無い種族は」

「あ?」


 森人達がやれやれという表情をするため何か意見があるのかと聞いてみる。鉱山人がドスノ効いた声をしているのも怖いからではあるが。


「まずそもそも、その装置は魔素で動いているのではないか」

「ああ」

「じゃあその魔素は何処から手に入れる?」

「そりゃあ……」

「大気中か? それとも魔法使いが供給するのか? どちらにしても大量に必要だ。それこそ、どこかから大量に手に入れないといけない程度には」

 なるほど、それは大変……。


「それに、この世界だけで完結をさせるなら魔素から魔素を作るようなこの世界に存在しない、作ろうとして失敗した魔法が存在しないと無理だろう。そんなものは」

「あるかもしれない」

 そう俺が言うと、全員の表情が俺に向く。

「それって単純に、俺が存在しないからこそ存在していることに俺の能力でしちゃだめなのか?」


 俺は単純な疑問としてそう口にするのだった。

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