第21話 交易の前に

 はっきり言って無理難題。それを突然として大量に課せられてしまう。それに俺は頭を抱えた。


「あのさあ、それがどれだけ難しい事なのか分かっているの?」


 そう問うと、全員が顔を俺に向けてカツラが聞いて来る。


「逆にもう何をするべきなのか思いついているのか?」

「まあある程度は……」

「例えば」


 そう言って、俺は彼の質問に答える。


「まずだけれど、普通に考えて内陸国にであるなら船を作る。しかも大海原に出られるほどの巨大な船を作るのははっきり言って無謀だ」

「いきなりな意見だな」

「はっ。自分達のやるべきことをいきなり否定するなんて馬鹿なの」


 ベルモットさんがそう言ってマリオンさんが否定する一方で、俺は自分の意見を伝える。


「じゃあ聞くけれど、今から海洋国家の人に船を作る技術で勝てるのか」

「え」

「それとも、海洋国家に戦争でも仕掛けるか」

「ま、待ちなさいよ。どうしてそんな話になるのよ。戦争」

「つまり、船の技術で成り上がった国家に勝てる訳が無い。それがまずあるってことにゃね」

「ああ」

「何よ。そんなの当たり前じゃない。隣の海洋国家に船の技術で勝てる訳」

「でもじゃあそんな国を差し置いて、船を作るのかって事だ。最初の話に戻る」

「あ」

「マリオンさん。俺を嫌うのなら別に構わない。でも嫌う事と冷静に考える事、認めることは別にしないとあなた自身を馬鹿に見せますよ」

「……」


 屈辱だろうな。そう思った。でも、流石にここで釘を刺しておかないと話が進まなくなる。だから厳しいかもしれないが強い口調で止めた。


「で、船についてだが俺自身の考えは『別の国に作ってもらう』のが手っ取り早いと思う」

「これについては賛成だな」

「異論ありません」


 カツラさんとクローセルが肯定をする。

「技術を奪うために戦争を仕掛けるなどはもっての他。そもそも、我々が欲しいのは『海に出られること』であって『船自体や技術』が欲しい訳ではないですしね」


「でも、じゃあどうやって海に出るのよ。いくら海洋国家だって他国に船を貸すだなんて」

「借りるんじゃない。交易するんだ」

「交易?」

「ああ、交易だ。それなら普通に出来るだろう」

「交易でどうやって船を使えるようにするのです」


 オロガが質問をしてくる。


「例えば、メッセルを船員として同行させる。これは、大海原妖精がいるから楽に出来るだろう。船を作るのにも貢献できる」

「ん?」

「そして、こちらから例えば野菜なんかを提供するんだ。船の上では野菜不足による病気は重大な問題のはずだし、定期的に提供が確実になされるようになるなら大きいはずだ」

「待て待て。野菜はともかく、大海原妖精は役に立つのか」

「え?」


 俺は疑問を浮かべた顔でカツラさんを見ている。


「海洋国家と言っても船の上に何ヶ月いる前提の話をしているんだ」

「ざっと半年とかか」

「そんなに長い間生活できる船を作れるのか? 今の技術ではそんなことをしようって奴がいるのか」


 いないのか? 


「だって、海には迷宮の魔物が倒されないまま放置されているから。遠くに行くほどそう言うのに捕まる可能性が高いから大変だぞ」

「うわあ、そっか。そこも考えないといけないのか」


 自然の脅威だけでなく、外敵もいることを考えないといけないのか。


「うーん。でも上位妖精とか強い妖精使いに頼るしかないよな」

「私の妖精はまあ一応戦力になるかもだけれど、期待は出来ないにゃ」


 メッセルさんにそう言われると本当に困る。


「とはいっても、実際こっちから提供できる物なんか野菜や大海原妖精の存在程度しかないし。それでどうにか釣るしかないんだよなあ」

「心もとないな」


 言わないで欲しい。


「で、じゃあ相手からは何を要求するんだ」

「一番は他の国経由で手に入る交易品の提供かな」

「なるほど。宝って事ですね」

「お宝!」


 そう、海洋国家自体に依頼をしても手に入るのは魚だろう。あともう一つ、海だからこそ手に入るすごく大切なものがあるのだが、内陸国家ではどうしても欲しいと言ったら足元を見られそうで怖い物はある。

 だったら、貿易の仲介として仲介手数料を払う方が安上がりの可能性はある。


「正直、あれをもし交易品として提供できるなら大きい物はあるのだが。それに関する妖精がいれば一番大きいけれどいないしなあ」

「何の妖精?」


 ペスティがそう聞いて来るので、俺はその妖精について聞いてみる。


「普通にガチャ回しちゃダメなのかなって思うけれど、後はスカイクイーンの情報網を使って紹介してもらう事かしらね」

「紹介?」

「スカイクイーンって内陸国の間ではいろんな国と友好関係を結んでいて、この王国も例外では無いのよ」

「良く知っているな」

「ま、まあね」


 どこから知ったのか不明だが、ペスティが何かをごまかそうとしているため一先ず追及はしないことにした。


「じゃあ、海洋国家の船を借りるか作ってもらう。そのためにこちらから提供できる物を用意する。これが第一段階だ。正直綱渡りどころか泥船の様な作戦だが、何としても成功させるぞ」


 各々の欲しい物の為に!




「返答が来ました。主人」

「クローセル。内容は」


 書状を見て、俺は中をあらためる。

「俺の指定した日に来てくださる。スカイクイーンも海洋国家ルメールの大使も」

「何としても用意をしない訳にはいきませんね」


 どうやら思ったより需要があった。そのことがこの返答の手紙で知れたからこそ。

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