第20話 淫魔との戦闘2

「もしもーし、おーい。聞こえていますかー?」

「ん?」

 ここは、何処だ? 知らない空間(?)の中で俺は膝枕をされていた。そして俺は自分でも不思議なくらいにゆっくりと起き上がると膝枕をしていた少女に質問するのだった。

「誰お前?」

「えー? 私のこと知らないのー? と思うけれど、案外マミーから聞いていない系?」

「マミー?」

「マミーはマミーだよ。私のお母さん。パパがとっても会いたがっているけれど、特別な事情とかで合えない感じみたい」

「はぁ」

 そんな風に話を聞きながら、自分は先ずこの不思議な空間について話を聞いた。

「ここ、何処なんだ?」

「夢の中、って言うのが一番感覚には近いかな。正確には、輪廻における分解魔素循環回路の中に築いた共有意識空間だよ」

「なんかもうよく分かんない概念が出て来たな。というか分解?」

「うん。魔素として一旦分解された魔素だけが流れる場所だよ」

 詳しく聞くと、どうも俺の意識は淫魔に魅了された際に一旦分解されたらしい。本来ならそんなことは起きないで普通に魅了されるだけのはずなのだが、どうやら事前に俺が自分にかけていた魔法の暴走らしい。

「正直興味深い事件だよ。別次元、もしくは別の時空軸に干渉する魔法を使うから変な歪が起きると少量とはいえ意識の分解が起きちゃうんだね」

「何か怖い話がされている感覚はあるのに意外と落ち着いて聞いていられるな」

「それもこの空間の特異性だね。一種の悟りの境地に至るんだ」

「ふーん」

 俺はその宇宙空間の中の星の表面に作られた人の住む部屋(屋根がないため天井に星空が見える)の中でうーん、なんて考えた後にふと気になったことを聞く。

「なあ、俺このまま死んじまうのか?」

「死ぬわけじゃないよ。ただ精神的に作り替えられるだけ」

「作り替える?」

「ちょっと今回は回り道をしているけれど、勇者になるってそういう事でしょ?」

 そもそもここは知らなかったのだが、勇者になるには「人間という枠組みを広げる」必要があるらしい。具体的には、精神的肉体的に勇者に求められる肉体や精神になるために今の肉体や精神を崩して、その後再構成する必要があるようだ。

「もしかして今、俺の体って消えているのか」

「かもね」

「かもねって」

「本来なら危ない状況だから私が助けに来たの。そのおかげで今こうして精神は保てているでしょう?」

「肉体は?」

「燃やされるか分解されるまでは存在するから関係ないでしょう。もしくは、完全に分解されたなら再構成の魔法が出来る光魔法使いだと……あの聖女の人なら出来るかな」

 アラエか……なるほどな。

「あれ……体が薄く」

「はは、もう終わりだね」

「え?」

「ここはね、分解された魔素の世界だから個別にそれぞれを識別する方法はない。だから、多分私とあなたが出会える時に、あなたが私を覚えているかは奇跡が起きないとって感じ」

「あの、なんの話か」

「でも、信じているから。私があなたを助けた事、覚えてくれるって」

「……ああ、分かった」

「じゃあ、ばいばい。また会おうね」

 そう言って、俺は夢から覚めるように目覚めるのだった。

「う、ううん」

「海良! 海良!」

 俺が目を覚ました時、最初に見えた光景はパムラの泣き顔だった。

「良かった、本当に良かった……!」

「体力を使いきりました……私にもまだ肉体を繋ぎとめる魔法が使えるだけの力を許してもらえていたのですね。神に感謝を」

「身体的に問題は無いのか、海良!」

「ああ、思い出した……」

 そう言って俺は、起き上がると淫魔の元に向かった。

「『封印』」

 そう言って俺は「初めて魔法を使う」のだった。

「気が付いたか。俺が魔法を使えることに」

「何考えているの……魔法を使えないようにするために……自分に催眠していたの……」

「みたいだな。そして、魔力暴走。正確には……魅了魔法で上書きされそうになったら『それを自動的に上書きする』魔法で自分から暴走するように仕向けていたらしい」

「ふざけているわ! たかが『勇者になる』過程を省略する! それだけのためにこんな危険なことをするなんて!」

 そう、俺はかなり危険な橋を渡っていた。そもそも、実は勇者の話に関しては件の泉の魔物から聞いている話があるために、俺だけが知っていたことだが体を作り替えないといけないことは知っていた。

 しかし、それを本来行うのは「冒険者統治機構の試験合格の後」である。しかし、勇者出ないと対応の難しいこの試験のために勇者出ない身でいるのは不都合だと感じた。

 だから俺は行った。

「にしてもおかしいわよ! あんた! 勇者ってもっと仲間のためにあれこれするんじゃなかったの! 仲間が喜ばない方法をとって、そして直前までばれないようにするなんて狂っている!」

「だがその方法で俺はお前に勝った。マニュエチとエティエト、そしてナエシエの三人に抑えられるお前は負けた、違うか」

「ぐっ」

 俺が眠っていた……正確には魂も肉体も魔素に一旦分解されていたのであろう間に抑えられたその淫魔はただ叫ぶだけだった。

「ご歓談中悪いが、もう時間切れみたいだぜ」

 イワミミの言葉で、俺達は意識をそっちに戻される。

「囚われていた勇者たちが解放された」

 まあ当然か。淫魔の力が弱まれば、今まで捕まえていた勇者をとらえていた肉壁から抜け出されるのも時間の問題だ。そして抜け出されれば、当然淫魔を襲おうとするだろう。だからこそ……。

「『帰宅』」

 海良は帰宅するのだった。シオンの村に。

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