第11話 面談
それから、昇格の儀式を終えた俺達は改めてギルドに向かうと、そこでギルドの受付嬢の女性から話を聞きたいと言われて面談室に通される。
「えっと、お話というのはほかでもありません」
「はい」
「あなたは今妖精を一体何人と契約しているのですか」
「えっと」
俺はそう言われて何となく指折りで数え始める。
「二十五人よ」
「二十五人だそうです」
「だそう?」
「ペスティが教えてくれました」
そこで、受付嬢さんが頭を抱えながら確認を取り始める。
「あの、この部屋で妖精と話が出来ているんですか」
「……みたいですね」
「あのですね。この部屋は本来妖精には聞かせられないような話をする際に使う用途での部屋なので妖精と話など出来ないようにして、部屋の鍵だって悪戯妖精や鍵開け妖精でもそう簡単に開けられないような仕掛けになっていてですね」
「あ、その悪戯妖精ですが最近昇格したんですよ」
「……昇格?」
受付嬢さんが何か信じられないような物を見る目で俺を見てくるため、受付嬢さんに説明を始める。先日妖精の貸し出しを提案された女性の進言で昇格の儀式を行ったこと。何人かの妖精が昇格を果たしたため中位妖精になった事。
「中位妖精に昇格した?」
「はい。何かおかしいですか」
「おかしいですよ! 一体契約してから何日しか経っていないと思っているんですか。まだ一ヶ月も経過していないですよ」
確かに、俺がペスティと契約したのがその位だから多分もうすぐで二ヶ月程度なのか。この世界に転生して。
「どうして、それでもう中位に昇格する妖精がいるんですか……待ってください。悪戯妖精が昇格って言われましたか」
「はい」
「最初に私が紹介した妖精もまさか」
「いや、ペスティは昇格していないです」
「あ、そうですか」
「犬妖精や花妖精とかは昇格しましたが」
「い、犬妖精に花妖精も……あの、一体何人の妖精が昇格されたんですか」
「えっと」
「九人昇格したわ」
「九人だそうです」
その言葉に、今度こそ受付嬢さんは机に突っ伏した。
「あのですね……それ虚偽報告などはないですよね」
「はい。無いですが」
「うう……私嘘を書けないんですよ報告書に。でもこんなの書いたら信じてもらえる訳ないじゃないですか」
そう言いながらも、受付嬢さんは丁寧にメモを取っている。
「やっぱり、おかしいですかね」
「おかしいですよ……期間も短すぎますが何より数が尋常じゃないくらいに多いです。こんなの普通あり得ないですよ。信じてもらえるかすら……」
そう言って嘆いている受付嬢さんになんか逆に申し訳なくなってきた。
「それでですね……確認したいのはあなたの事なんです」
「はい」
「本来、妖精に聞かれている可能性の高い今の状況でする質問ではないのでしょう。だからこそ部屋だって本来妖精には入って来られないようにした部屋のはずですから」
「はい」
「でも、私は確認を取りたいと思います。葛城さん、無理はなされていませんか」
「……」
その言葉に、俺は正直何と答えるべきか悩んでしまった。しかし、受付嬢さんの顔は真剣そのものだ。
「正直、この世界では妖精と共に生きることが普通です。ですから、昔のあなたの様な契約無しと呼ばれる様な族に無契約者は珍しいですし、ものすごく地位も低いです。ですが、あなたは一ヶ月もその状況を甘んじて受け入れていました」
「……」
「ギルドに所属する以上、いかなる理由があろうとも契約する妖精は最低でも一人は付けて契約することで仕事をしてもらわないと困るために私は断腸の思いであなたに妖精を紹介いたしました。するとあなたはたった一ヶ月で合計二十五人も契約をしたようです。そんなに沢山の妖精と契約する人の方が珍しいですし、正直多すぎます」
「……」
「何か無理をさせるようなことがあるなら言ってください。私も頭を下げますので」
「待ってください。違います」
俺はそこで一旦話を止めさせた。
「確かに、俺は正直能力の事もありますし妖精と契約することに乗り気ではありませんでした。それこそ、あなたは俺の能力の事を知っていますよね」
「はい、元の世界のお金を使うほど能力が強くなり、そして結果として多数の妖精と契約を可能となる能力。そうですよね」
「厳密には違うでしょうがそう言う能力です。そして、俺の能力は日本円、元の世界のお金を消費する。これが厄介で、はっきり言って大変です」
「ええ、お金の交換の利率がよろしくないとはお聞きしました」
「それだけじゃなくって、これものすごくお金をさらに使わせようとする仕組みになっているんです」
「え」
彼女はそこでどういうことか聞き始めた。なので俺は、お金を使ったことで新たに分かった事を話した。
「これ、日本円を消費して色々購入すると副次的に能力の上昇に伴って恩恵も増えるんです」
「恩恵?」
「一番わかりやすいのは一度に契約できる妖精の上限を増やす事ですが、それ以外にも色々あるんです」
毎日任務自体もこの恩恵に当たる。ただし、その代わりお金を大量に消費させようとするあの手この手の方法もある。
「例えば……家の物を消費してお金にするとか」
「家の物をお金にする?」
「俺の能力は元の世界のお金を使う力です。ですが当然ですが使っていると何時か底をつきます。お金ですから当然です。要するに、頭打ちになるはずの能力なんです」
「はい」
「ですが、それをあの手この手で頭打ちにさせないようにしている。例えば今言ったように『この世界に持ってこられなかった物を売る』ことや『お金を前借りする』ことが出来るようになるみたいです」
「そんな……そんなの……」
「ええ、元の世界に戻りたい自分にしてみれば到底許容できない恩恵です」
「……」
ですが……俺はそう続けた。
「そこであなたの紹介してくれた妖精が助けになったんです」
「助け、ですか」
「はい。あの妖精のおかげで日本円をこの世界で稼ぐことが可能になった。今まで売らずにいた物も契約の道具として役に立った。一ヶ月の無意味に思えた労働の時間も無駄にならなかったんです」
「……そうですか」
「悪戯妖精にお金を大量に使われたのは正直驚きましたが、まああれもいい勉強になりました。これから少しずつお金を稼いで、何とかしたい。そう思っています」
「そうですか」
「この世界での生活をよくするのか、それとも元の世界に帰るのか。それは分からないですが、契約した妖精はせめて大切にしよう。そう思っています」
「はい、そうしてあげてください」
受付嬢さんは笑顔でそう言ってくれた。
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