幕間 気づかれない異変
「ふむ」
冒険者組合の組合長は自分の執務室にて片付けをしていた。
最近は業務が立て続けに舞い込んでいたため、ようやくできた自由時間である。
毎日あらゆる業務に忙殺されるからこそ、こういった時間を大切にしようとするのである。
「組合長、これはどこに置けばいいですか」
「それは向こうの棚に置いてくれ」
組合の職員であり、村の住人でもある少女と一緒に組合長は片づけをする。
田舎の組合とはいってもそれなりに勉強をして組合長をしている人である。
人望も厚いし、将来的に組合長のような大人になるんだよと言われる様な人だったため、彼女のような組合長の下で働きたいと思う人はこの村の中では珍しくなかった。
「そう言えば、あの二人大丈夫だったかな」
「あの二人って、盗賊に捕まった二人かい」
「はい」
それは先日の事である。
二人で近くに薬草採取に出かけていた幼馴染たちがすぐに帰ってこないという事があった。何があったのか心配だったのだが、結果からすれば村の近くの盗賊に捕まっていたようだが無事に帰ってくる事が出来たのである。
「あの二人、大丈夫なのかなって」
「大丈夫って、最近もまだ冒険に出かけていることがかい」
「はい。盗賊に捕まるとその、酷い事されるって言うじゃないですか」
こればかりは組合長も把握しているように共通認識である。
盗賊は冒険者崩れなのか、それとも何か訳アリの犯罪者のなれのはてなのか、とにかくろくでもない存在である。
やることも非道な事だって平気で行うため、彼女たちが無事に帰ってきたというのは奇跡である。
「確かに、正直なことを言えば無事に帰ってきたというのは不思議には思っている」
「じゃあ」
「だが、変に詮索をして彼女たちの傷をえぐるようなことになるかもしれないから今は何もしない方がいい」
「そうですか」
「ああ。心配かもしれないが、信じてあげるのだって大切だよ」
「そうですね、はい」
二人はそう言って納得をして部屋の片づけを続ける。
今思えば、確かにこの時点で違和感に気が付いていた人はいたのである。だが、誰も気が付くことは無かった。
一番の違和感である、レベルゼロと言われて虐げられた彼がいない事という違和感に誰も気が付かないことに。
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