第19話 上位妖精

「遅いじゃないか、連絡をずっと待っていたんだぞ」

「そう言われましても、これでも直ぐに来たんですよ」

「そもそも、私も悪いが君を迎え入れるように専属の傭兵とかを用意しても良かったかもな。そうすればもっと直ぐに来ることが出来たかもしれない」

「良いですからそう言うの」


 ギルドで電話をしていた俺は騎士団長のベルモットさんにそう言って何かややこしくなるのを止めさせる。


「とりあえず、ギルド長の人から言われたんですが……家がどうたらって」

「ああ、それか。私の方で一軒家を買わせてもらった。君のためのプレゼントだ」

「は?」


 家を買った? 俺の為に?


「これから君は同居人も妖精も沢山増えるだろうし広い家にしてある。予算は私に君がくれた五千万ゴールドから用意している。ついでに、私のポケットマネーからちょっとだけお金も出してあるが」

「え、でも」

「君はどう思うか分からないが、私は君にそれだけの価値があると判断している」


 いや怖いんですが⁉ 良く知らない人から突然家のプレゼントとか滅茶苦茶怖いんですが⁉


「あと、今日の十三時に騎士団の詰所の第三会議室で会おう。そこに君に合わせたい人達を集めている」

「会わせたい人って」

「じゃあな、誠」

「ちょっとま、話しは終わってない」


 そう言って彼女は連絡を終えてしまう。連絡する様を見ていた三人も困惑した様子であり、そこには変な雰囲気が漂うのだった。


「うわあ」

「行かないようにしましょう。うん、そうしましょう」

「いや、行くべきだろう」

「明らかに行きたくないという断りの連絡をさせないために話をわざと切られましたが……まあそもそも騎士団長程位の高い相手の話を断ればこの国での立場が地に落ちますしね」

「何よそれ理不尽じゃない」

「理不尽ですよ。強い妖精を持つもの程、何ならさらに上位の精霊と契約する者ともなれば、国益や人民の利益の為に他のあらゆるものより優先させる世界ですから」


 今更ながらこの世界の歪さについて不思議に思ってきた。


 この世界は極端なまでの実力主義だ。

 妖精と強い契約を結ぶことが何よりも求められる。しかし、その一方でやたらと文明の進みが遅い。


 精霊とまで契約しているのであれば、というより泥妖精でさえコンクリートの真似事を出来る世界で、精霊程妖精を鎧袖一触に出来る存在が活躍しようものならもっと文明は進んでもおかしくない気がする。


 なのに、実際世界は少し奇麗な中世から近世の西洋や諸外国を混ぜたような文化圏である。奇麗というのは、衛生的に凄く水がきれいとか、水道管とかが整っているとかである。

 逆を言えば「その程度」なのである。

 自分でも受け入れられる程度の世界観で、近未来的な道具が出てくるなどの感じがしない。


「その辺についても何か話を聞けるかもしれないのかもな」

「何か難しいこと考えていないか」

「話がいきなり彼の中で飛躍していますね」




「そんな家は知らない?」

「私たちは一流階級の人たちのための家の身を扱うのですよ。あなたのような中級妖精程度しかいない人など用は無いのです」

「ですが、ここでベルモットさんが家を買ったって伝えろってガルマンさんが」

「あーあー、そうやって知っている名前で騙そうとする人多いんです。お帰りください」

「でも、本当に」

「おい、つまみ出せ」


 そう言って、俺は警備員のような人に店の外につまみ出されてしまう。


「どういう事だ。話が違うぞ」

「何が起きているんだ。ベルモットさんが何かしているとは思えないし」


 ペナンシェさんもそこで困惑した様子をしているため、俺も困惑している。


「大丈夫。多分もうすぐ解決する」

「私不服だけどね。まあ私しか出来ないし」


 しかしだ、オロガさんとペスティが意味深に話をしている、その後だ。


 ドガアアアアアアアアアン!


「うええ、あれって」

「飛竜ですね。騎士団や特権的な貴族のみ利用を認められた移動手段。まさか、この話の解決の為に『騎士団長が飛竜で駆けつける』とは思いませんでしたが」

「何したお前!」

「私が伝達したの。お店で『店員とトラブっている』って」


 そんな話をしている横で、飛竜から騎士団長が下りるとそのままお店の中に入っていき……。


「ご、ごめんなさいいいいいいいいいい!」


 先ほどの店員の情けない声が聞こえて来た。




「こちらのグレードの家なら、本来ご購入予定だった家よりも広い家で、何より直ぐにご入居を私の権限で出来ますが」

「誠は納得できるか」

「も、もう此処で良いです」


 あの後、高級な住宅販売店で騒ぎを起こした騎士団長を止めるべく店長が話に入り事態が判明。なんと賄賂を受け取るために店員がお家を別の人に売っていたのだという。騎士団長が入ってきても「嘘」だと思っていたとのことだが……その理由は度々、位の高い人の名前を使って魔法通信で家を抑えようとする悪戯が多いため、今回もそのようなものだと思っていたとのこと。

 結果、家の無くなった状態の俺に対してベルモットさんの大噴火が収まらず、店長が代わりの家を用意することで決着したのだが。


「こんなに広い家を用意するんですか……」


 そう、広いのだ。何十人と買う単位ではなく、百人程度は一緒に住んでも生活出来そうなくらいに広い家なのである。

 いや、妖精や精霊と一緒に住むなら話は変わってくるのかもしれないが……にしてもである。

 庭付き、プール付き、専用の鍛冶工房や離れも数個あり、その他にも広い会議室に使えそうな部屋や、広々とした食事処や厨房も完備、何より備え付けお風呂があるのが本当にありがたい。


「既に妖精達も喜んでいるようですし」

「それは良かったです」


 そこでだ、久しぶりにだが何か実績を解除したようである。


「何々、家の獲得。その他設備の獲得。報酬として二体の妖精の契約が可能」


 なので、俺は直ぐに契約をしてみた。


「え?」


 そして、その妖精二人の名前を見て驚きを隠せないでいた。いや、正確にはその位の高さに。


「太陽妖精と、蟒蛇妖精」


 二人とも、上位妖精である。

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