第18話 ガルマン・グレイナー
「やっと着いた」
王国に着いた俺達は、そんな声を上げる。
「城門が高いな」
「まあ、隣国からも身分問わず人は流入してきます。危ない身分の人も、絶対に傷を付けてはいけない人も。そんな場所と各国の境界上の誰の所有地かよく分からない地域の村がある場所と比較する方が烏滸がましいでしょう」
「オロガ、お前やっぱり言い方きついよな」
その怪しい地域のギルドから来た俺達にもその話は笑えないのだが、彼はそんな状況などを全く意に介さずに進んでいく。
「ほら、行きますよ。今から並んだって何時に入れるか分からないんですから」
「ふふん、それなら私達にはとんでもない武器があるのよ」
「ペスティ? 何を言っているんだ」
意味深な発言をする彼女に俺は首をかしげているが、列に並んで数時間後のことである。
「あなた達、一体何者なんですか……」
オロガさんのその心から驚いたような表情が状況を物語っていた。
「王国の騎士団長の推薦状……そんな凄い物を持って入国なんて……一生誇れますよ。私のおかげではないので静かにしますが……」
ああ、あの人が渡してきたアイテムってそんなにやばい道具なんだと。
「まあ良いです。一先ず、王国に着いたのですし何からしましょうか。銀行開設もギルドの推薦状を持って行ってギルドに行くのも必要ですし、騎士団長のそれがあるなら騎士団への挨拶も必要でしょうし」
「ああ、そう言えばあの騎士団長の人、連絡しろって言っていたな」
そう思うと、あの連絡先の書いてあった紙を取り出す。
「なるほど、魔法通信ですね。ならギルドにしましょう。今の私たちに専用の通信機は無いですから借りるしかありません」
そんなこんなで、俺達はギルドに向かったのだった。そしてやたらと手厚い歓待を受けた。
「ようこそおいでくださいました。ずっとお待ちしておりました」
「はあ」
「こちら、安物ですがお茶です」
「ありがとうございます」
お茶を運んでくれた職員さんは滅茶苦茶不思議そうな表情をしているのだが、それでも俺はお茶を頂いていた。
「では、私は必要な書類を持ってきますのでこちらの部屋でお待ちください」
そう言って、小太りな男性は部屋を出ていく。
「あの男、副ギルド長だな」
「ああ」
「実質この王国ギルドの仕事を取り仕切っている重鎮だ。卓上の才能ならギルド長より数百倍は役に立つ」
ブフ!
「おい、それは」
「私の個人的な意見ですが。あくまでも」
「だからって、聞かれたら」
「因みにですが、この出されたお茶は一杯で私の村の一般的な家族の一日分の食事代程度の価値がある茶葉で淹れられているって気が付いていますか」
「はぁ⁉」
「それだけ、価値のある物を出すべき人だと判断されている。もしくはそうするように仕向けた」
「話が分かるじゃねえか。まさか本当にあの落ちぶれた貴族が来るとはな」
部屋に次に入って来たのは、やたらと軽い威厳を感じさせない口調の男性である。
「何時までも奈落に潜っているあなたに言われたくありません。アンダー・ルーラーですね」
「その二つ名嫌いなんだよ。忘れてくれ」
知った様子で話し出す二人に、ペナンシェが話を聞く。
「なあ、知り合いなのか」
「おっと失礼。こちらの方はギルド長の」
「ガルマン・グレイナーだ。お前があのベルモットのお気に入りか」
そう言うと、その男性は俺を観察するように視線を合わせてくる。
「んー? なんかこう、あまり強そうには見えないけれどな。なんというか、こいつ自身は自分の力を持て余している。だから、一番力になる妖精と力を合わせた結果強く見えている。みたいな感じがするぞ」
その評価を聞いた時、俺は驚いた。だってそれは……。
「注意してくださいね。この人の最初の契約した妖精は『直感妖精』です。要するに、議論とか根拠とかそう言う物をすっ飛ばして、結論に至ってしまえる。それこそがこの人の最強と言われる実力の根幹何です。直感的に正解を導けるからこそ、強い妖精達と常に契約をし続けられて、そして失敗もほとんどしないでいられる」
「そんな褒めるなよ。俺は副ギルド長みたいに頭良くない馬鹿で、結局いつもアビスにいるような奴だしさ」
そこで、俺はふと気になり質問をする。
「あの、アビスって何ですか」
「ああ。奈落、とも表記しますが要するに『迷宮』より何倍も危険な場所です」
「危険な場所」
その危険さは語ろうとして語ることが出来なくなるほど危険だそうで、まず間違いなく妖精達を大量に屠って来た場所だという。
あの騎士団長も大量に妖精が死んだ原因はこの奈落にあるのだという。
「そんな場所にいつもいるんですか」
「まあな、あそこが一番強くなるなら楽だし」
「こういう規格外な人なんです。だから、王国のギルドのギルド長を任せられているのかもしれないですが」
「もしアビスに興味があるなら来いよ。一緒に紹介してやるから」
「馬鹿なこと言わないでください! 自分にとっても大切な人なんですこの方は! そんな危険地帯においそれと行かせる訳ないでしょう!」
なんか随分な言われようだが。一先ずは納得することにした。
「何だ。じゃあこれだけ伝えれば俺の仕事は大丈夫だな」
「何をです」
「俺の連絡先だ」
「は?」
そう言って、俺は番号の書かれた紙を渡される。
「困ったら連絡よこせ。俺の勘だが、あの騎士団長の女に連絡するより俺に連絡する方が早く強くさせられる」
そう言われたのだが、一体どうしろと。
「後そうだ、お前の家も紹介しないとな」
……家?
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