第33話 ご都合主義
「森の中……私別にこういう場所と相性良くないんだけれどな」
彼女は一人山の中を進んでいた。もちろん地上で暮らすものにとっては大したことがない程度の山の高さだ。しかし、海に本来は暮らす種族である彼女には子供の時の様な元気さはなく辛いものである。
「ふう、少し休憩」
「はいどうぞ、真水じゃないから飲みやすいよ」
「ありが……⁉」
隣にいた少女を見て、赤い肌の少女は眼を見開いた。というより、もうばれたのかと慌てた。
「モミーだよ。初めまして。帝国の密偵さん」
「あ、あなた……もしかして」
「そうだよ。円卓会議の議長の娘」
終わった。何故そんな重要ポジションの人がいるのか分からない、少なくとも円卓会議は別に国家間の問題に対して関わることはしないだろうからあれだが「戦争に冒険者を起用する」ことがあれば話は別だ。
何か秘密のクエストで騙すなどすれば間違いなく帝国は円卓会議に目を付けられる。
「心配しないで。私はあなたに会わしてあげたい人がいるだけ」
「ボス! 見つけたぞ! 匂いが違う人がいる!」
「ナエシエ。速いから待ってくれ」
「何だ。モミーの方が早く見つけていたのか」
帝国の先遣隊を潰した五人の女性たちの一人や強力な魔法を見せた魔法使い、そしてそれを束ねる男も来た。いよいよ私の人生これまでか、そう思ったがその思いは頭上の声によって塗り替えられる。
「まさか懐かしい匂いがするとは思っていたが……よもや帝国の密偵としてくるとはな……」
「オドちゃん」
「アレイン、メジョルメ。二人とも」
メジョルメ……トプシュワの本名を知っている時点で、オドちゃん……オドパイエという彼女の名乗っていない名前を知っている時点で断定された。彼女は本物だと。
「さて……てことは帝国の新たな密偵が来られたわけですが。良いんですか? 歓迎する雰囲気で」
「止めようとしないメルビーちゃんも同じじゃないの」
「うちは別にどっちでもええで。話が纏まる方に従うまでや」
メルビー、パムラ、ベリメがそう言ってオドパイエ……客人……として良いのか怪しいが、村に来た彼女を見つめる。
「蜂蜜だ。魚人族の舌に合うかは分からんが甘味は良いぞ」
「私も帝国の密偵やらされていたけれど、今は海良さんと一緒にいるの。良かったらオドちゃんも」
「……」
アレインとトプシュワは二人して何とかしようとしているが逆効果だった。まだ帝国の密偵という意識の残っている彼女にとって敵に勧誘されるというのは難しい問題だった。
「とっととボスに従えばいいのに」
「そう簡単じゃないね。密偵って言うのは」
「そもそも戦争もありますしね」
ナエシエ、エティエト、マニュエチはそう言って話している。正直部外者ながら必死に考えている人たちもいた。ナエシエはそうではないのかもしれないが。
「少々よろしいでしょうか」
「何だ」
「こちら、先ほど飛脚の人が私たちの孤児院に来て置いていかれまして」
「あー、それ王国からの手紙だよ。正確には王城だね」
「王城? どうしてそんな手紙が来るのよ」
アラエから手紙を受け取った俺は開封をする。それと同時にモミーが手紙について教えてくれて、ミルミが不思議そうに覗いて来る。それと同時に、モミーは手紙の内容を皆に伝える。
「なにななに。えー「これより王国は重要機密漏洩によりメルビー王女の拘束、及び帝国と共に王女のいる潜伏地域への調査を行う」だよ」
「あらー。大変な事になりましたわね」
前半は俺、途中から俺とモミーの伝えた手紙の内容に対してメルビーがそんな事を言う。
「どういう事! 機密情報の漏洩って!」
「帝国だ……」
そこで……彼女は、オドパイエは口を挟む。
「帝国にはそもそも色々な情報が王国から流れている。官僚や重要役職の汚職、メルビー以外の勢力同士のスキャンダル。しかし、それを『メルビー王女が原因で漏れた事にする』ことで濡れ衣を着せたんだ」
「な! 何なのねそれ!」
「ひどい話だ」
エティエトやアレインが聞く中で、俺は確認を取った。
「あんたも黙らなくていいのか」
「何を黙る必要がある? 帝国は王国自身とも結託してこの村を潰すことにした。そもそもメルビーの発案で、メルビーは王国のためにこの村を作ろうとしていたみたいだが、それを歓迎していた者など今やいないという事だ」
王国にも、帝国にも、だからこそこんなことになったと。
「あら、その程度の罪で私は濡れ衣を着せられたんですね。そもそも、私が国王殺しの重要参考人であることが漏れていることで呼べば、普通にそんな面倒な事をしなくてもいいのに」
「……は」
「……は」
そこでメルビーが突然投げた話題に、海良とオドパイエは眼を丸くした。
「何を、言っているんだ、国王殺し?」
「ミルミさんの件の時に見られていますしね。記憶は。そして見せてもいますしね。私の部屋は」
「あのさ、あれは私の作った幻影って事で嘘かもしれない状態にしていたでしょ。なんで言っちゃうのさ」
「未来予想の方もいますし、それでも受け入れてくれる方も増えましたし。もう今更隠すデメリットは薄いかと」
いや全然薄くないだろう。どうしてこのタイミングでそんなことを言い出した。海良はそう思ったという。
「俺初めて聞いたんだが?」
「良いじゃないですか? 受け入れてくれますよね?」
「うー、そう言われるとまあ受け入れるが」
「ありがとうございます」
どうして……。
「あ」
「どうして受け入れるんだ。だって国王殺しの重要参考人なんて」
「メルビーの事だから何か訳あっての事だろうとは思うし。それに、語られていないような時間の間で築いた信頼はあるしな。確かに殺人した奴信じるのかって言われたら俺も悪い奴だとは思うが」
そう言う海良の眼は覚悟の決まった眼だった。ただの勇者ではない。万が一負けたら汚名を背負う事になるのに、それでもかまわない。
まるで。
「ここにいる人たちは守って見せる」
「!」
「あいつはそういう奴だ。帝国の密偵の私でも受け入れてくれたんだ。間違いなくオドの事も受け入れてくれる」
さて……。
「都合良いかもしれませんが、最後のお嫁さんのお迎えをしましょう」
モミーが突然そんな事を言い出した。
「最後のお嫁さん?」
「メルビーさん。確か私のママから言われた花嫁の数は何人でした」
「十六人です」
「では、見込みも含めて良いのでお嫁さんになる方は誰がいますか?」
「えっと」
パムラ
メルビー
テノサ
アラエ
ベリメ
トプシュワ
ナエシエ
マニュエチ
イワミミ
守護獣の娘
エティエト
ミルミ
モミー
アレイン
オドパイエ
「十五人ですね」
「そう、あと一人なんです。ご都合主義だの言われるかもしれませんが、そもそも」
魔王を倒すのに勇者が現れた事だってご都合主義。
「みたいなものですから、多少の都合のいい展開って起こるというか引き寄せてしまうんですよ。勇者は」
「何が言いたいんだよお前」
「もう来られますよ」
ドガアアアアアアアアアアアン!
「⁉」
「来ましたね。最後のお嫁さんであると同時に、私たちの誰よりも強い人が」
「え!」
「あのー、すみません。ここ何処か教えてもらえますか」
扉の向こうから何者かが扉を叩いて話しかけてくる。
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