第25話 パムラの父親の告白

「……何の話だね」

 男性は、パムラの父親はそう言って俺を見て来た。そして、俺はその男性を見据えながらこう切り出した。

「まず、どうやら俺の与り知らない所で勝手に話を纏めてくれたようですが、ミルミが協力をしてくれるようになったみたいです」

「馬鹿な!」

 そこで、その男性は驚いたような表情をした。

「どうしてだ、だってお前とあの淫魔は協力できるような関係ではなかったのでは」

「淫魔じゃなくって『解読中』だって言っているでしょー」

 そんな呑気な声が聞こえて来たかと思えば、天井に何時からいたのかミルミが様子を見ていた。

「あんたさー、私をこの男の人が村の人たちと仲悪くするためのきっかけにしたかったのか知らないけれどさ、私が勇者を大嫌いだって知らなかったの?」

「勇者! そうだ、お前は勇者が嫌いだからその男が」

「私が言っている勇者は帝国が抱えていた最初の勇者だボケ」

 突然ドスの効いた声で語る様子に俺も驚き、正面から見るその男性も驚いていた。

「少し説明すると、私たちの一族はどうやら勇者に最初こそ『仲間』として連れていかれた一族の末裔みたい。いわゆるお供の娼婦って奴。勇者だって性処理は必要でしょう? だから、旅先で万が一死んでも都合のいい性処理の道具が必要だったみたい」

「……」

「でね、問題は此処から。勇者はね、結構な色狂いだったみたいで、沢山の女を孕ませたのにほとんどの女とその子供を認知しなかったの。認知したのは一緒に旅をした僧侶の女と帝国のお姫様代表としてあてがわれた娘だけ」

「……」

「私たちの祖先はその境遇に不満を述べたら殺されそうになったんだよ」

「か、関係ないではないか。一体何百年前の話だと」

「約900年前」

「は?」

「900年前でしょ。勇者の出現はお婆ちゃんが生まれたのがその位だからほぼ間違いないんじゃない? お婆ちゃん五十歳くらいでもすっごく若い外見のままだったから娼婦として生計たてていたけれど、その後勇者に放逐されて帝国からも追われた状態でお母さんを育てるの苦労したってお母さん話していて、あまつさえお母さんはお婆ちゃんの身代わりとして帝国に処刑されるのを私この目で見ていたもん」

「あ、な」

「魔族はね、勇者の力によって超常的な力を得た人たちの総称なの。あくまでもこれは魔族視点のお話ね。でもね、私は迫害される運命にも抗ってやるって思っている」

 なんか凄くスケールの大きな話が出て来て、そしてなんだか人間離れした価値観の話が出て来て訳が分からなくなってきたが、どうやら勇者の力の一端というか、勇者とまぐわった者にも魔力が強くなるとか、寿命が延びるなどの恩恵があることが分かったらしい。そして、その結果として長く生きた娼婦たちは俗にいう「帝国の魔女狩り」と呼ばれるもので処刑をされたのであろう。

 これなら、帝国が他の国よりもやたらと魔族に対して当たりが強いのにも納得できる。そもそもテノサが『コントロールの出来ない力を持った魔法使い』なんて表現したのも半分は正解で半分は間違いなのだ。

 この勇者の力に当てられて魔法使いでもないのに強力な魔法の恩恵を受けられるようになった娼婦たちや、その子供達こそ魔族の祖先なのである。

 これでは彼女たちが貴族や騎士になれないのも別の見方が出来ないではなかろうか。そもそも出来なかったのである、国から特別な恩恵を受けられなかっただけではなく迫害されるようになったから。

「だ、だが誰が。お前を説得した」

「私だよ」

「お前は」

「ワシュプト、そう名乗れば伝わるか」

「お前が、帝国の密偵の」

 その時、父親は悔しそうな表情をした。

「お前のせいで! お前のせいで村が危険に!」

「それは悪いと思っている。帝国の内通者をしていたわけだからな」

「違う! お前のせいで帝国に村の計画の情報が流出したんだ! こいつがメルビー王女と進めている計画が!」

 その情報は正直初めて聞いたため、確認をするべく俺は聞いた。

「勇者の育成をするための計画、それが流出していたのか。ずっと前から」

 ああ、力なく男性は呟いた。

そもそも勇者育成計画から確認しよう。それは、メルビー王女が異世界の知識などを海良に聞いた際に思いついた計画であった。

「勇者になりませんか。そして勇者を育てませんか?」

 正直これは彼女のかなり無茶な提案であった。何せ、国家の枠組みを超えて問題を解決する冒険者という存在の中から選りすぐりの人材に対して特別に与えられる称号と役職の様な物が勇者という認識で王国では通っている。

 だが、この勇者の認識には国ごとに違いがある。それこそ、帝国では最初の一人の身を勇者と呼び、それ以外はどんなに強くても帝国兵や将軍などと言って分けている。

 他の名前の無いような小国ではそもそも勇者になれるだけの人材がいないために定義さえされていない。

「それを広義の意味で勝手に勇者という存在を作ってしまうのか?」

「そうすれば、育成は私たちの国で持つけれど強い戦力を小国も持つことが将来的には出来るようになります」

「何処からその費用は捻出する」

「最初の世代は難しいですが、将来的には勇者を輩出しただけの実績に応じて交易品などから回収できないかなって思っています」

「変に強い力を持った存在を小国に持たせたらつけあがるのでは」

「その辺は私の腕の見せ所です。育てた勇者も王国の姫の言う事には従うでしょうし」

 そのへん強かだと思うが、少なくとも彼女の中ではこの計画は十分採算が取れる見込みがある計画であった。だからこそ、国王も承認したのであろう。

 本当に承認したかはメルビーしか知らないかもしれないが。

「だが、案外帝国の諜報員は優秀で、俺が隠した気になっていたとしても何処からか漏れていたと」

「魔法学校、冒険者統治機構も独自のルートで知っていた。ならば」

「帝国も知っていてもおかしく無いね。だから帝国は何か潰そうとしたとか」

「ああ、そんな中で帝国の密偵だったその女が海良と接触をした。しかもどうやら何か特別な地域に向かったそうじゃないか。少なくとも勇者として何か縁があるような場所に」

 聖域の話か。色々なところが色々な所が繋がり始め少し不注意だったかもしれないなと反省をする。

「とにかく、俺はそれしか言えない。もう帝国は此処を潰すことにしか」

 ピロリロリン、ピロリロリン

「イワミミの連絡端末」

『あーあー、聞こえているか』

「イワミミ、どうした」

『面白い物が見られるぞ。来いよ』

「何だよ、もったいぶって」

『帝国兵が夜襲を仕掛けてきた』

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