第22話 茨道

「それで! ベリメがボスの事を話していて! だから! ベリメも!」

「落ち着けナエシエ。というか、門の外に出ていたのか?」

 いつの間にか会議から出ていたのか分からないが、ナエシエが突然興奮した様子でそんなことを言っているが要領を得ない様子である。そんな様子に勇者たちは困惑をした。

「とにかく、一体何が」

「ただいまやで」

「……」

 そこで、噂のベリメ達が戻って来る。何故か寝たのではないかと思っていたトプシュワも部屋に入って来る。

「お前! ボスの事を敵に話すなんて何しているんだぞ!」

「えっ?」

「待ってや。それにはちゃんと事情があんねん」

 そう言って、一先ず彼女が座った後に話が始まった。トプシュワの仲間と話していたこと。村の労働者と引き換えに海良の話をしたこと。村の人たちは無事だという事。

「だから! ベリメは」

「いや、これはむしろ」

「ファインプレーかもしれませんわね」

「何で⁉」

 海良とメルビーが二人でそう意見を揃えたことで、ナエシエはどうしてと叫んだ。それに、メルビーが答える。

「確かに、村人を見捨てる選択肢を取り情報の流出を嫌えばナエシエさんの方が正しいかもしれません」

「だったら」

「ですが、そもそも勇者にはそれは出来ません」

「どうして!」

「それが勇者だからです。いかなる事情があろうとも危険から仲間や国民を守り、自分達から恐れずに危険に挑み、国に尽くす冒険者達から選び抜かれた強者たち。それが勇者だからです」

「うちら『解読中』からしてみれば随分と生きにくい運命やなと思うけれど、それだからこそ国から沢山の補助や便宜なんかも貰えるようになった特別な冒険者。それが勇者やから罠に嵌めれば案外狩りやすいんや。何せ自分達から罠にはまってくれるんやからな」

 なんで俺の時にはそこまで徹底的にやらなかったのか、何か気になるが少なくとも確かに勇者がミルミの屋敷に大量に囚われたのも危険だと分かっていても行かざるを得なかったのだからであろう。事実勇者出ない俺でさえも行くように言われたのだから。

「もしかして、勇者って冒険者統治機構が厳密には介入できない国家の問題に対して冒険者を『動かして』介入する為に作ったシステムなのか?」

「原義の『帝国に仕えた最初の勇者』は違うと思いますが、少なくともその後の勇者は間違いなくそうだと思います」

「それで、じゃあ結局パムラさんはどうなるんですか?」

 パムラの質問に、メルビーはこう答える。

「結論から述べれば、情報漏洩で罪を問われることは無いと思われます」

「何でだ!」

「勇者ではないからこそグレーではありますが、ほぼ勇者であることは確定した人であれば今回の問題は『冒険者統治機構の問題ではなく、国家間の問題』になってしまうと思います。何せ海良様は王国が勇者にするために私が便宜を図っているのは周知の情報でしょうし」

「事実上の勇者として扱われると」

「はい。その際に扱いが困るのは勇者としてだけでなく、海良様が既に領主であるという事実」

 領主は領民が殺されそうになっているのを目の前で見捨てるのか? そのように仲間にも指示を出しているのか?

「このように問われれば、領主だけではなく勇者としての資質を問われます。そうなってしまえば、最初にそもそも裁判で決まった罪状を帳消しにするために決めた異世界の知識や、それによって行うことを決めた王国との約束による村の発展事業。そこに支障をきたします」

「そこまで考えていたのか」

「まあな、明らかにあそこで勇者の伴侶として見殺しにしたら大変なことになるのは勇者である海良の方やとは思ったんや」

「そこまでして勇者として成し遂げたい事業、それって何なんだ」

 トプシュワがそこで話に入って来る。

「いくら勇者だとしても、厳密にはまだ勇者じゃないんだぞ。それに領主としての在籍期間もまだ片手で数えられる年数しか経ってはいないんじゃないのか」

「それどころかもうすぐで半年って所や」

「ならなおさらだ。どうしてそんなに神経質になる」

「……分かった。言おう。俺が何を成し遂げたいのか」

 そこで、勇者は奴隷たち含めてまだ知らない人達に自分が何をしたいのか。それを語ったという。

「はぁ⁉ あんた正気⁉」

 それを聞いて最初に反応したのはミルミだった。

「そんなの、どんな夢物語よ。今は良いかもしれないけれど、絶対にそれは何時か破綻するわよ!」

「かもな、正直むしろその可能性の方が高いと思う」

「何より! それが成功しても王国の力や権力がずっと続くと思っているの⁉」

「思っていないな。正直、それはメルビーが言っている以上そうだろうしな」

「じゃあ!」

「だからこそ俺は……」

 そこで俺は、王国にさえ伝えていない秘密の作戦を共有する。

「それこそ普通じゃないな」

「やるんですか? そんなこと……」

 イワミミが呆れ半分にそう言って、そしてマニュエチも不安そうに聞いてくる。

「でも、正直その程度しないと力が証明されないだろうなって言うのが俺の予想だ」

「……」

「そこまでやるね……やりすぎじゃない?」

 だが、そこで静かにトプシュワはこう宣言した。

「私は海良の作戦に乗ろう」

「! お前」

「帝国にいたから言える。そのくらいの大法螺吹きでないと、そしてそれを実行できるだけの実力を併せ持っているような強者でないと逆に安心できない」

「ああ、分かったよ。乗ってやる。私も乗ってやります」

「イワミミ」

「奴隷としてもう従わなきゃいけないなら同じです。とことん乗ってやります」

「私は嫌よ!」

 ミルミはしかし反対をした。

「そもそも勇者に色々嫌な目に遭わされてきたのにその作戦に乗る訳ないでしょう。馬鹿じゃないの! どうして私を仲間に入れたいのか分からないけれど納得できないなら反対する! じゃあね!」

「ちょっと、ミルミさん」

 マニュエチがそこで追いかけて席を立ってしまう。海良はもう一人の奴隷であるエティエトに話を聞く。

「エティエトはどう思う」

「うーん、正直メルビーに一部話は聞いていたけれど正直こんなにどうしたらよいのか分からない難しい話だとは思わなかったね。だからもう少し判断するのは待ってほしいね。一応、奴隷でいる間は協力するね」

 奴隷でいる間、その言い方に気になりはしたが了承することにした。

「じゃあ、もう少し残りの話をしようか」

「残りの話?」

「途切れていた魔族を仲間に加えるというか、人間と同等にするように扱うかという話だ」

「そう言えば、私が話を切っちゃいましたがテノサさんが何か話そうとしていましたよね」

 パムラの言葉にテノサはこう言った。

「まず、魔族が我々に何をしたのかという話だが、多くの者の認識は『災害を気分で起こして人を困らせる』だけでなく『無作為に村を襲って街を及ぼす』と言った存在だと思われている」

「はい」

「だがこれは間違いだ」

「え?」

 間違い。何が間違いなのか。そこで、テノサは驚愕の事を語りだす。

「魔族は『力のコントロールが出来ないから加減を間違えた魔法使い』なんかや『超常的な力を持っている謎の存在やそのの子孫』であるとほぼ結論付けられている」

「つまり」

「魔族が『そもそも人間である』というのは前者には当てはまり、難しいのは『後者』の方なんだ」

 それは驚きの話だな。

「じゃあ、あのミルミさんも」

「後者の何かの強力な力を持って生まれた存在の子孫だろうな」

「どうしてそんなことを知っているんですか」

「魔法学校の教師だぞ? それも第五階級魔法使いだ。多少の閲覧が難しい内容の研究なんかも見ることは出来る」

 それを話すことに問題は無いのか気になりはしたが、それでも彼女はこう続けた。

「話を戻すが、私としては『強力な魔法を使う存在とは一定の距離を置くべき』というのが考えだ。近寄って変に刺激をすることで周囲や自分自身に被害が及ぶのを避けるべきだという考えだからだ」

「はい」

「だが、同時に考えるべきはどういう存在なのか、という事だ」

「えっとつまり?」

「要するに『その存在が元を辿れば勇者の子孫である可能性がある存在』であることだ。何せ、同じく勇者の子孫としてあれこれ訳わかんないことをして貴族やら騎士やら階級や身分制度を作ったが、それを全員がしたのかという議論はあったんだ。そして『貴族や騎士にならなかった子孫こそ魔族』の可能性があるんだ」

「嘘!」

「そして、そのような者たちは時として『我々に何か利になる事』をしていることもある。魔物の討伐なんかは分かりやすいな。その他にも迷った人の子たちを導いたりしている。だからこそ勇者の中には討伐するべき魔族を逆に守ろうとする勇者も現れる」

「じゃあなおさら、魔族とは争わない方が良いね」

「本当か? 互いの利益のためなら人間同士でさえ殺しあう事のある我々だぞ? 魔族の方まで殺すな、守れ仲良くしろ。そんなことを言うのに人間は殺していいなんてことになれば変な奴に何を言われるか分かったものじゃない」

「それは、確かにそうかもしれませんわね」

「だが、さっきもいたっ通り残念ながら利になることもしている魔族。しかも勇者の末裔である可能性もある事などを加味すれば、長い目で見れば勇者として仲間に引き入れた方が明らかに都合がいいんだ」

 例え茨道でもな。そう言って飲み物をテノサは一気飲みした。

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