第21話 暗躍する影

「ボス……何考えているんだぞ……」

「トプシュワの家族を何とかするには帝国を相手になんとかするしか無い。そのためには力のあるやつはいくらいても困らないからな」

「ですが、あの淫魔を仲間にするのは見境なさすぎるのでは」

 そう言って一緒にテーブルを囲むミルミ、件の淫魔にみんなの視線が集まる。

「魔力を吸収することに特化した肉体構成だからこそ、固形物を吸収することに適応した体に進化しなかった。それでその体格は驚くべきものだね」

「あの、魔法に強くなるためには魔物を食べるのって普通のことなんですか?」

「逆に魔物を食べないなんて信じられないぞ。魔法は強くなりたいのに」

「いや、食べへんやろ普通」

「どうでもいい! 何なのあんた達は!」

 そこで、ミルミこと淫魔が怒り出した。

「突然私の住処襲ってきたかと思えば今までの奴と違って攫って来るし! しかも勇者の仲間になれ!? 私魔族だよ! 勝手にそっちの都合で一族郎党殺されてきたんだよ! 勇者ってそういうもんでしょ!? どうして突然そうなるのさ!?」

「何か、喋られる魔族ってやりにくいね」

「人じゃないと分かっていますが、人と外見は似ていますしね」

「それはどうでしょうねイワミミさん」

「あぁ?」

 メルビーがそこで口を出してきたため、視線が集まる。

「魔族がどういう存在か、具体的には魔物か人間か。どう思いますか」

 

 その問いに多くの者は不思議な顔をしたがこう答えた。

「「「 魔物 」」」

「人間」

「あんた何で入ってくるんや」

「煩いわね! 魔物なんて分別のない存在と一緒にされるなんて嫌よ!」

「そう、魔物については人間も知能や敵対的であることなどを理由に違う存在だと思っています。ですが、現実問題勇者を派遣して討伐する一方で、一部は住処を王族の管轄として管理する聖域にするなどして保護するように魔族に関しては扱いが様々です」

 要するに、魔族を魔物と扱うか人間と扱うか。ここが大変なのである。

「海良様も悩んでおられましたが、魔族を人間とするか魔物とするか。気持ちの問題では答えは決まっているのです」

「というと」

「魔族を人間と同等程度の扱いをするべき。こうなるのです」

「それは厳しくないか」

 メルビーがそういった時、テノサが口を挟む。

「人間と同等程度の扱いをする。それってつまり、魔族は人間と同じだと認めるということか」

「本質的には違いますが、目指す方向性としてはそうなりますね」

 しかし、それについては感覚的な問題としてみな困惑した。

「しかし、時として災害のように振る舞う者たちを同族とみなすのはどうなのでしょう」

「確かに、考えたこと無いけれど魔族が自分達と同じって何か変ね」

 アラエの言葉にエティエトがそう締める。

 この辺の感覚はそう直ぐには決められないだろう。だが、これに違う視点から意見する人もいる。

「あの、そもそも魔族を人間と一緒にしないといけないのですか?」

「どういうことですか」

 マニュエチがここでそう聞いてきたことでメルビーが聞き返す。

「あの、私の考えですが魔族とそもそも仲良くするだけなら仲良くすればよいだけで、別に人間じゃなくてもいいんじゃないかなって」

 その意見は普通の人たちには正直受け入れようとするにはまだ分かりやすい意見だった。

「確かにそうね。そもそもメルビーは何をしたいね」

「魔族と仲良くするだけなら、全員でなくてもしたい人達だけすれば」

「何人です」

「え?」

 しかし、その意見をメルビーは一蹴する。

「そうやって、守りたい人だけ魔族を守ろう、そうじゃない人はそうじゃないようにしようとして動いて一体何年経ちましたか? 何割の人が魔族に優しくしましたか? あなただけじゃない、人類全体で何人の魔族に手を差し伸べましたか?」

「それは……」

「確かに、マニュエチさんのようにそもそも魔族とも交流がある人間種族に生まれた人はわざわざ魔族を人間と同等に扱う意味が分からないでしょう。ですが、我々は『魔族を人間じゃないと無意識に排斥していた』人たちの末裔です。それを変えようと思ったら、多少強引でも私が言ったような方法を取るしかないのです」

「だから、それならばなおの事無茶じゃないかって言っているんだ」

 テノサは頭を抱えつつこう話す。

「確かにその理想は素晴らしいさ。だが、事実として魔族が我々に何をしたと思って……そうか、そう言う事か」

「ようやく気が付きましたか」

「どういう事ね」

「あの、ちょっといいですか」

 パムラがそこで、困ったように視線を一人に向ける。

「さっきから寝ているトプシュワちゃん、どうしたらいいと思います」

「そう言えば何時までも喋らないなと思えば寝ていたのですか?」

「いえ、あなたも喋っていなかったのでは」

「はぁ、うちが寝所に連れて行くから。他のみんなは会議続けていてくれ」

 守護獣の娘もトプシュワに何といえばいいのかそんなことを言うが、アラエが突っ込む一方でベリメが外に連れ出す。

「あの、ですからその人は」

「し、今は喋らんといてくれや。起きてまう」

 そう言って、退室する。そして、退室したタイミングで守護獣の娘が話し出す。

「あの、あの人別に眠っていませんでしたよね?」

「え?」

「だから、いわゆる狸寝入りでしたよね?」

「どういうことだパムラ」

「え、えっと……」

【中略】

「気がつかんて、帝国の風習になんか。うちが元暗殺部族で諜報活動もしておった奴やから助かったな」

「まさか終わった傍から会議が始まる、しかも私も出席なんて思わなかった」

 ベリメとワシュプト(便宜上今はこう表記)は内緒の話をしながら門をこっそり抜けて森の方に向かって行った。

「ここが約束の場所か」

「ああ、毎回定期報告はこの場所で行っている。これで最後だがな」

「それは……」

「来ましたね。ワシュプト」

 暗い森の中から一人の男が現れる。眼だけを隠した黒いマスクに黒い全身を包む服装。帝国の隠密部隊によく見られる服装なのは見る人が見れば分かったであろう。

「私のお名前はトプシュワだって言っていただろう」

「今更ワシュプトであるとばれた貴方に隠す義理もないでしょう。本来なら自害するべき案件ですよ」

「ちっ」

「胸糞悪い奴やな」

「失敬、これが帝国のやり方ですので。さて、何か情報はありますでしょうか」

「ない」

「は?」

「もうお前達に渡す情報はない。私は、勇者である海良についていく!」

「ほう」

「そういうこっちゃ。残念やな。大事な奴隷に逃げられた」

 ベリメが抱きかかえつつ守るのを、トプシュワは少しうざそうにはしているが嫌がり跳ね除けようとはしない。それを見て男は。

「構いません。ではこうするまでです」

 他の仲間に連れて来させた。

「おい、待ってくれ……」

「嫌だ。死にたくない」

「た、助けてくれ」

「あれは」

「村の労働者たちや!!」

 そう、前の悪徳領主から海良が領主になったことで抱えることになったことで抱えることになった村の人たちだ。

「どうします? 私はその勇者の使える魔法や知識、それらと彼らの交換で取引をしないかと持ち掛けたいと思います」

「! そんなの乗る訳が!」

「やったる」

「! ベリメ!」

「これは商人としても勇者の伴侶としてもの覚悟や。その取引に乗ったる」

「ふふ、良い顔です。その憎みながらもちゃんと引き際はわきまえている顔。素晴らしいです! ああ! あなたの様な人がもし帝国にいれば! 私の様な末端ではなく騎士団長や将軍の一人にもなれたでしょうに!」

「良いから話しするで」

「お前達! 早く記録を!」

 それから、ベリメは知りうる限りの海良の魔法に関する情報を話した。逐一それらは帝国の密偵によって紙に記されていく。それをトプシュワは静かに見ていた。

「以上や。何か文句はあるか」

「いえ、正直話が突拍子も無さ過ぎてどうしたらよいのか分かりませんが……まあ良いでしょう。ではこれで」

 その男と手下たちは消えると、その場の緊張した空気は無くなり労働者たちは二人を恐れるような目で見つめていた。

「どないしよか」

「どないしよって! どうして話したんだ!」

「そっちちゃう」

「え?」

「まずは、村の防衛としておいて来ていたはずのうちの仲間だった『解読中』が機能していないとしか思えないほどに沢山の労働者が捕まった事。そして次に」

「次に」

「これ、見られたからうちらで隠す事出来ひんで」

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