第16話 セレアハートの授業風景
中間試験が終わった。
しかし私の心が晴れることはなかった。むしろ、打ちのめされたと言ってもいい。
「次、セレアハート。おい、セレア」
「は、はい」
「授業に集中しろ。少したるんでいるんじゃないか」
「申し訳ありません」
「テキスト、169ページの文章を読め」
「はい」
そうゴドウィン先生に謝罪しながら教科書の文章を読む。中間試験の結果は、学科試験は何の問題もなく同期五人の中で1位を獲得した。
しかし逆に、戦闘試験は五人の中で最下位を取ってしまった。
そして任意科目も順位は発表されなかったが自分が思っていた得点に到達することはなかった。
「故に、私は闇魔法を放つのをためらったのである」
「そうだ。では問うが、この文章をどう思う」
「どう思うとは、どういう事でしょうか」
「この時の魔導士は迷宮ダンジョンで闇魔法をためらったとあるが、それは最善だったのか、それとも作者の言う通りためらって正解なのか、答えてみろ」
「私は……」
その時、私は次の言葉が出てこなかった。文章を読んでいた記憶はある。しかし、内容を理解していなかったのである。
「はあ、セレア、座っていい。アルバン」
「はい」
「お前ならどう思う」
「俺はためらわずに使うべきだと思います。敵がキングトロールで、他の仲間が満身創痍なのであれば、迷わず使うべきかと」
「なるほど、ではナイン」
『はい』
「ナインはどう思う」
『私はためらうのではなく、使わないのが正解だと思います』
「ほう、使わないと。ではなぜだ」
『闇魔法は強力な魔法が多い代わりに代償が強力です。失敗すれば味方にその影響が及ぶかもしれない。そんな危険は冒せません』
「なるほど、ではアクモシスはどう思う」
「自分なら冒険にあたって準備をしっかりしたという記述があったと思いますので、道具で何とか出来ないか模索します。トロールなら光の魔法石など」
「確かに今日読んだ文章外の内容だが、そんな記述はあったな。マルクスはどうだ」
「僕はためらって正解だと思います。迷宮ダンジョンでそもそも迷子になった状況ですので、道具も枯渇していると思います。なので、攻撃手段が闇魔法しかないとなれば、危険承知で使う必要が出ますが、それでもじゃあ出来るかと言われると自分は悩んでしまうと思います」
「そうだな、確かに全員の意見は特徴的だった。そして全員違うが、それぞれ考えあっての意見だ。俺はそれを尊重したいと思う。何せ、これは迷宮ダンジョンで最悪の状況に陥った実体験を書いた話として有名になったから、それぞれ思うところはあれどいずれこうなるかもしれないからな、お前たちがだ」
そこで、終業のチャイムが鳴る。
「今日の授業はここまで、課題は今回の文章をもう一度読み直して最善の行動は何だったのか考えてレポートに纏めることだ。休み時間にしていいぞ」
そう言うと、ゴドウィン先生は教室を後にする。
「はぁまたレポートか。大変だなあ」
「中間試験が終わってからレポートでの課題増えましたよね」
「みんな、また今日も勉強会してもらっていい? 僕レポート苦手なんだ」
『良いよ、セレアちゃんは』
「私は良いですわ。ではこれで」
そう言って、私は教室を出ることしかできなかった。
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