第12話 中間試験2

この勝負、私が有利だと確信している。

 

「ですから、相手は先ほど言ったような魔法をって、聞いていますか?」

 何故なら、相手は魔法を習いたての元奴隷である。魔法はその内容を理解するのにルーン文字を学ぶ必要があり、これと並列して初めて共通語を勉強した奴隷が貴族出身の私に追いつける道理がない。

 そして、剣術の授業を受けていなかったという事は学んだのは間違いなく魔法である。しかし、そこで学べるのはせいぜい初級魔法程度。だとすれば水魔法が使われたら少し私の魔剣とは相性が悪いかもしれないが、それ以外なら十分対処できると思う。

「はじめ!」

 速攻で攻撃を仕掛けて、そして降参の意志表示をさせる。これで私の勝利。相手の魔法がどうとか関係ない。私は勝てる。

 そう思っていた

「え?」

 突然足元が崩れたように視界がずれて、そのまま何かに足を取られたのは。そして、足元を確認して一気に私は何が起こったのか理解した。そして、理解が出来なくなった。

「沼?」

 そう、私は今沼に足を取られていた。しかし、先ほどまでここは運動場の床。つまりただの砂場だったはず。だからこそ、私は理解できなくなっていた。

「あーあ、マルクスの言った通りの戦術にはまったな」

「ナインさん、まさか地形変更魔法使えるようになっていたなんてびっくりですね」

「病室でテレパシーですが、喋っていた時から実は相当な魔法の素養があることは知っていましたが、まさか喋られなかった人が喋りたいがために魔法を修得するのにどれだけ勉強したかなんて考えたくないですね」

 そう、そもそもナインは喋られないはずだった。そりゃそうだ、あいつは奴隷で、そもそも喋る事すら教えてもらえない環境にいたから、どころか喉を既に焼かれているから喋られない。薬で喋るのを禁止させられたそうだが、一体何がしたかったのか。

しかし、あのナインは喋っていたのである。俺が魔力枯渇を起こした時の医務室である。

医務室ではセレアハートがいなかった事に俺は気が向いていたし、しばらくあれがナインのテレパシーによる声だと気が付かなかったが、それに気が付いた時に俺はびっくりした。テレパシーは本来長距離連絡用に使う魔法だが、それはある種の固有魔法、一つの大隊や師団に一人いればすごい方の魔法のはずである。それをただ「喋りたい」一心で魔法を勉強したら使えるようになったのだとしたら、そこにどれだけの努力があっただろうか。どれだけの信念があっただろうか。

誰かが語らなくって、誰もが見向きもしていなかったとしても、俺達は気がついている。あいつは、この中で最強の魔法使いだ。

「うう!」

 体が鈍い。そして痺れてきた。沼の中に麻痺にする魔法でも一緒に使われていたのか。しかし、地形を沼に変える魔法と、その沼が相手に麻痺を与える魔法のコンボだなんて。そんなのを一人でこなすなんて、並みの魔法使いが出来る技じゃない。

「ああ!」

 私は懸命に魔法剣を構える、せめて、魔法剣の魔法で攻撃出来れば!

『お願い、降参して』

「え?」

 その声が聞こえた時だ。彼女はここで三回目の魔法を発動した。それにより、空中から鎖のようなものが出現する。そして、剣を縛り私が魔法を発動できないようにする。

「あ、あ」

「そこまで」

 そこで、広瀬先生の声が運動場に響く。

「勝者、ナイン」

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