第28話 超級のシャーマン2

 陸上自衛隊所属、夢野曹長はどちらかと言えば自衛隊では珍しい事なかれ主義だった。それは、彼の持つ不運体質がそうさせていた。

「何故、こんな緊急事態に国家命令で雪山での訓練などに参加しなくてはいけないのだ」

 これは、どう考えても普通に考えたら『今することじゃない』と言う仕事を押し付けられることが多く、その癖にその功績で上に昇進していた彼にとって不運でしかなかった。だって、場合によっては望まない昇進をすることもあるのに、階級と責任だけが乗っかるためである。

「はぁ」

 それに、今回の派遣は超級のシャーマンと言う天下原学園の生徒だった少女の進言で自衛隊を動かしたという噂さえある。

「シャーマンだか何だか知らないけれど、振り回さないでくれよ」

 そう思っていた。

 しかし、現実はどうだ。

「……」

「お願いします。ゾウルバン国の奴らに、鉄槌をお願いいたします」

「自衛隊は氷竜様も認める強さを持つと聞いております」

「どうか、今の我々では敵討ちが出来ません故」

 突然湧いて出たように、未確認部隊が進行をしているという報告を受けたではないか。

 友好関係を結ぼうとしている民族からの救援要請、そして同行した天下原学園生徒たちの人命を預かる隊長として、どんな判断を下すべきか思案していた。責任が、命が、重圧が、自分を過去一番に押しつぶそうとしていた。何故なら、判断を誤れば全ての責任は自分に降りかかる。

「お、俺は」

「シンプルな事でいいのです」

「はい」

「私たちは、森の民の人達から魔法を発現してもらったから魔法を使える人たちもいるのです。あとは、自衛隊がこの人たちを守りたいか守りたくないか。撤退するか迎え撃つか、その違いしかないのです」

「……総員傾注!」

 そこで、腹をくくった夢野はそう発言した。

「これより我が部隊は未確認侵攻部隊の制圧作戦を行う。対象は雪山を進行中と思われるため、暴漢装備ないし雪上移動用の装備を用意している可能性があるため我が隊より装備が潤沢である前提で作戦を立てる。総員、十五分で準備しろ!」

 そう言って、散り散りに準備を自衛隊が始めた。

「さて、精霊さん教えて欲しいのです。悪い人たちは何処にいるのです?」

 吹雪の中、寒さを感じさせない榛葉がそう尋ねる。すると、榛葉の動きが停止する。

「ありがとう、精霊さん」

 そう言って、雪山の民の住む洞窟に戻っていく。今は雪山で自衛隊が作戦会議をしているところだ。

「隊長さん、ちょっといいでしょうか」

「何だ、今会議中」

「敵は、ここと、ここと、ここにいるのです」

「何?」

 榛葉が指をさす動きに、夢野は置いてきぼりを食らう。

「全ての部隊が此処を目指して今も動いているので、この洞窟より少し下で迎え撃つしかないですが、この下の二つは今準備中の大部隊なので、どちらかと言えば雪山を上ってきたタイミングで……」

「そんな非人道的な作戦を自衛隊にさせるのか」

「でも、効果は絶大だと思うのですよ?」

 その言葉に、夢野がこう語る。

「分かった、君たちの力も借りよう」

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