第14話 神聖なる森6
「軍殿」
「軍!」
ソリエールさんとミレスを見つけて、俺は地上に降りる。
「襲撃者は」
「逃がした人はいるかもしれませんが、多くはこの中にいます。小さくする魔法で小さくしているのでそのうち元に戻るとは思いますが、乗り物にしていた動物や武器もそのまま入れているので注意してください」
「それは、それは。本当にありがとうございます」
「はい、ですが。あれは何ですか?」
そう言って俺は、エルフの人たちに囲まれたアルテアや奥儀兄さんたちを見る。
「開放してもらえませんか」
そう俺は聞いた。
「いえ、あの者たちは神聖な森に許可なく入った者たち。待つのはそこの捕まった者たちと同じく死のみです」
「ですが、俺はあの人達が消火活動をしているのを見ました。もしくは、敵兵の捕縛をしているのを見ました。有事であればそれは検討していただけないのでしょうか」
そう、俺が見た物がこれだ。燃える森の中で消火活動をする兄貴たちや、敵兵を捕縛しているアルテア。ちゃんと俺は兄貴やアルテアの雄姿を見ていた。
「なりません。例え危機の際であろうと無断で立ち入ったのは変わりありません。神聖な森に立ち入った罰はそれだけ重いのです」
しかし、答えは非情だった。
「駄目なんですか。あの後捕まるみんなを見てまさかと思っていましたが」
「はい」
そう言うと、兄貴たちに弓矢が一斉に向けられて……。
「ブルオオオオオ!」
大きな声が響き渡る。
「この声は」
「⁉」
その時、全てのエルフたちが突然跪いた。そして、何かが俺の頬を舐めた。
「⁉」
「……」
「⁉」
それは、今は囲まれている全ての倭国の人たちの方に行き、そしてアルテア、ミレスも舐めていた。最後に、ソリエールさんの所に行き。
「ブルル」
「……」
一つなくと、そのまま森の中に消えていった。
「森神様が降臨なされた」
「族長様! それは!」
「開放しなさい。アルテアも、倭国の皆様も、当然軍殿も、今からは上客どころか上位の森の民だ」
「ですが」
「開放しなさい」
そう言うと、囲っていたエルフたちが全員アルテアや奥儀兄さんたちから離れる。
「少々よろしいでしょうか」
「はい」
そこで、兄貴がソリエールさんに話しかける。
「我々倭国は是非とも話し合いを行い、条約の締結を行いたいという意思に変わりはありません。よろしければ、お時間をいただきたいのですがよろしいでしょうか」
「構いません。そして、大変遅くなり申し訳ありませんでした」
そう言って、二人と数人の部下たちが一緒に森の中に消えていく。
「軍、大丈夫か」
「ああ、アルテア。平気だよ」
「その箱の中にいるのは、今回の襲撃者で間違いないな」
「ああ」
「すまないが、こちらに引き渡してもらえないだろうか。森の中で悪さを働いたものは森の民が罰する。我々の掟だ」
「ああ、そう言う事」
俺は納得して箱ごと渡した。
「この日に、倭国と言う我らの新たなる人間族との友好を祝い、乾杯!」
「乾杯!」
その日の夜、何故か盛大な祭りが開かれた。相変わらず食事はこの種族の形式のため虫が食べられないのだが、俺達はジュースや木の実を食べて楽しんでいた。
内容は、倭国と森の民、エルフの友好条約に関する発表。及び、各種交易に関する内容の締結に関して。出来る内容は少ないかもしれないが、それでも大切にしたいという思いで、お互いに歩み寄りをしていこうと奥儀兄貴は話して、後日また正式な書面にするところまで話を持ち込んだらしい。
今夜は将来友好条約の調印をするという事の前祝いだ。
「軍さん! 食べていますか!」
「ミレス。どうしたの」
「私嬉しいです! 見た人が少ないとはいえ、森神様に認められた人たちが沢山いるから倭国とも条約を締結出来るだなんて。少なくとも私より上の頭の固い人達に任せていたら考えられなかったことですよ」
「そんなにすごいの」
「森神様は我らの道標であり我らを守護する神様だからな。認められたとなれば発言権も相当強くなる」
「お姉ちゃん何で来たの? 舞台の方で話していればいいじゃん」
「私はああいう雰囲気は似合わん。少し食べに行きたいと言えばすぐ開放してもらえたよ」
「ちぇ。せっかく軍さんと二人で話せると思ったのに」
「そうだ軍、今度軍の学校と言ったか。勉強を集団でする施設に行ってみたいのだが駄目か」
突然アルテアがそう言いだした。
「駄目ではないけれど、こっちの文化に触れすぎるのを極端にエルフは嫌っていたよな」
「大丈夫だ。正式なエルフ代表の外交官として私が派遣されることになった」
「⁉」
「お姉ちゃんそれどういう事⁉」
「ああ、母さんにもう少し倭国の文化に触れてあの国を知りたい。ついでに軍の傍にいたいと言ったらあっさり許可をしてくれてな」
「何で⁉ だったら私だって外交官に」
「残念だな。お前は将来族長になるために勉強だ。だから倭国に行く暇はない」
「はぁ⁉」
今、アルテアの顔が一瞬とてつもなく邪悪な顔になったように見えた。まるで、何か雌豹のような。
「お姉ちゃんだけずるい! 私だって軍さんの国に行きたい!」
「安心しろ、向こうの文化については私がしっかり伝えてくるし、重要なことは持ち帰って来る。だから安心してお前は勉強に励んでくれ」
「ふざけんな! どうして私だけそんなことになるのさ!」
「直ぐに母さんと話をしに行かなかったお前の落ち度だ。諦めろ」
「グウウ、ウアアアアア!」
なんか、怖い物を見た。
0コメント